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「海問題 弘文と康介、対話の重要性を知る2」
「オレのにケチャップかけないで、自分のケチャップかけたジャガイモをオレにくれればいいのにっ」
「いや、お前が俺に何もかけてないジャガイモを食べさせようとしたからだろ」
「だって美味しかったから! 弘文もそのまま食べればよかったのに」
「大きなお世話だ。俺は味が薄いものを有り難がったりしない。素材の味より美味しい味だ。もっと言えば俺の舌に合う味がいい」
「それは絶対に嘘だ。弘文は下着とかシチュエーションとかに興味ない。比類なき全裸派だ。服は邪魔だと思ってる」
「ああ、そこは否定しないな。……何もつけないジャガイモ食べるわ」
気の利く長男が手つかずのジャガイモを弘文に渡している。これはオレたちの言い合いを見越して多めにジャガイモを用意した弓鷹が偉いのかもしれない。
弘子が久道さんの背中を叩こうとしておしりを叩くというちょっとした羞恥プレイをしているが、微笑ましい扱いなんだろうか。弘文はどこか満足気だ。ジャガイモにはマヨネーズがかけられていてどうしてそうなったのかと責めたくなった。口を開けたらマヨネーズのかかったジャガイモを入れられた。
オレを黙らせるために食べ物を入れたりキスをするのは教育上よくない。鈴之介と弓鷹が微妙な顔をしている。
「弘子がやってたマヨがけも悪くないな。でも、マヨだけだとパンチに欠ける。七味をかけたい」
会長が調味料置き場から持ってきて弘文に渡していた。弘文が七味マヨネーズのジャガイモをオレに食べさせる。
「これならちょっぴり醤油も欲しい」
「味濃いの好きだな」
「弘文に言われたくないっ」
「……調味料要らないさんだったんじゃねえの」
「いらないじゃなくって、何もなくても美味しかったのに驚いたんだよ。感動して弘文に勧めたのにケチャップかけるから……」
「そのまま食べたくなかったわけじゃなくてな……お前が食べて食べてってうるさいから台無しにしたくなったというか」
意地悪なことを言いだしているがいつもの弘文でもある。オレがスマートに切り出していたら弘文のドS心も刺激されないのかもしれないけれど、弘文に美味しさを伝えたくてついつい前のめり気味になってしまった。
弘文は「ちょっと落ち着け」という言葉の代わりにこういう意地悪をする。今に始まったことじゃない。それで言い争うことは学生時代にだってあった。弘文がオレにだけ意地悪で嘘つきだなんて知っている。他の誰にもそういうイタズラを仕掛けないのにオレだけからかってくる。
だから、オレは、オレだけが弘文の特別だ。
他の誰も弘文とジャガイモのことで言い合ったりしない。誰がどんなジャガイモを食べていても弘文は気にしないし、自分に勧めてきてもこだわることなんかない。受け入れて受け流していく。ジャガイモのことなんかきっと記憶に残さない。でも、きっと赤ワインをアイスにかけたがったオレを覚えていたように何かのときにジャガイモネタでいじられる。オレとのことは覚えててくれる。だって、特別だから。
なんで、オレは自分が弘文にとって特別じゃないなんてバカみたいなことを思ったんだろう。
こんなにずっと特別扱いされている。
好かれてない、構われてないと拗ねる理由なんて見当たらない。
弘文がこんなにもオレのものなのに。
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