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第1話

悠ちゃんがいなくなった。 僕の前から消えてしまった。 悠ちゃんが、家から遠く離れた高校に入った時に一年間離れていたけど、その時も辛く寂しかった。 でも、『一年後に悠ちゃんに会うんだ』と気合を入れて勉強していたから、寂しさを何とか紛らわせることが出来た。 それに、一年後には僕も悠ちゃんと同じ高校に入って、『いずれは玲も住むのなら』と、悠ちゃんが進学する時に父さんが借りてくれた広めのマンションで、悠ちゃんと一緒に暮らせた。 たとえ冷たくされても、僕は悠ちゃんが傍にいるだけで、とても嬉しかった。 どんなに酷い仕打ちを受けても、同じ家に帰って来てくれるだけで、とても幸せだった。 その後すぐに悠ちゃんと想いが通じて、ずっと一緒にいようと約束したのに。 心も身体も繋がって、これ以上のない幸せを感じていたのに。 想いが通じてから、悠ちゃんは、僕に対して強い独占欲を示すようになった。 『玲と初めて会った日から、ずっとこうだったよ』と苦笑いをしていたけど、僕はとても嬉しかった。 僕だって、悠ちゃんを独占したいと思ってた。 悠ちゃんが、女の人と会ってると思ってた時には、『他の人と会ったり触れたりしないで!』と泣き叫びたかった。 でもそんなことをして、悠ちゃんが僕を嫌って、離れて行ったりしたら…と怖くて、いつも我慢してたんだ。 だから、悠ちゃんの独占欲は、本当に嬉しかったのに。 『誰にも会わせない』と僕を部屋に閉じこめても、少しも苦じゃなかったのに。 僕の身体が弱くて、風邪をこじらせてしまったから。 僕の体力が無くて、高熱を出して危なくなってしまったから。 悠ちゃんは、僕を想って、僕の前から消えたんだ。 あの日から、僕はたくさん泣いた。どんなに泣いても、涙が枯れるなんてことはなかった。 そしてまた今夜も、寂しくて涙が……。 「どうした?玲…」 ふわりと鼻腔をくすぐる、懐かしい香り。 僕の大好きな香り。 僕は、ハッと目を開けて、慌てて後ろを振り返る。 すぐ間近に、あの頃より精悍になった悠ちゃんの顔がある。 「悠、ちゃん…?」 「ふっ、寝ぼけてるのか?」 僕を抱きしめていた腕に、力がこもる。 そうだ。悠ちゃんが消えてから、九年経ったんだ。 そして今日、九年振りに会ったんだ。 悠ちゃんが、僕を迎えに来てくれたんだ! 僕は、悠ちゃんの肩に額を押し当てて、ゆっくりと息を吸う。 悠ちゃんの匂いに温もり。夢じゃない。 顔を上げて、ポツリと呟く。 「夢…見てた」 「夢?どんな?泣きそうな顔をしている…」 「…悠ちゃんがいなくなった時の夢…。あの時が、一番辛かったもん…」 「ごめんな…。俺もだよ、玲。でも、あの時はああするしかなかったんだ。でないと、俺も玲も壊れてた」 「うん、わかってる。それに、今こうして傍にいてくれるから…もういいの」 「玲、もう二度と離さない。死ぬまで…、いや、次に生まれ変わっても、ずっと一緒だ」 「うん、約束だよ」 「玲、愛してるよ」 「悠ちゃん、僕も愛してる…」 大人になった悠ちゃんの綺麗な顔が、ゆっくりと近づく。 そっと触れた唇から、幸せが身体中に広がっていく。 眠る前に愛し合ったから、僕の全ては、悠ちゃんの香りに包まれている。 でも、まだ足りない。 僕と悠ちゃんは、幼い頃からずっとそうしてきたように、お互いの身体を抱きしめ合って、静かに目を閉じる。 包まれる香りに、至上の幸福を感じて。 end.

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