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第1話
「んっあっ‥‥先輩、もぅ‥でるっ」
「ミヤ、可愛い‥‥」
興奮が高まり、いきそうになるとキスをねだって顔を近づけてくるミヤが可愛くて、昌也は右手に握っていたものに左手を重ねる。右手を上下にゆっくり扱くと、その先からとろっとした甘い蜜があふれ出す。それを掌で塗り込めるように、張り詰めた先端を撫でると、ミヤはさして強い刺激を与える間もなく、いつもあっという間に達してしまう。
「先輩もいける‥?俺ばっか気持ちいいのや‥だ」
いくのを我慢しているのか、ミヤはびくびくと身体を震わせながらも、昌也の弱い裏筋を親指でグリグリと刺激してくる。
「あっ‥ダメだって、俺もいきそうだから」
「あっあっ‥先輩もだめだって‥‥、もっでるから‥一緒に‥‥」
「はぁ‥あっ、でるっ、‥んっ‥‥!」
ほぼ同時に達すると、放心状態の昌也はミヤに軽いキスをされた。
「先輩のいくときの顔好き」
ミヤの二重の大きなたれ目で見つめられて、ちゅっと音を立てて昌也は軽いキスをする。
「いくときの顔だけ?」
「いくときの顔も好き。可愛い全部好き」
慌てて返す素直なミヤが可愛くて愛しくてたまらない。ミヤも同じ気持ちで自分を見ているのがわかる。
ミヤは少しひねくれた自分とは違い、感情を隠せない性格なせいか、昌也が好きな気持ちも付き合う前からだだ洩れだった。いつも後ろをついてくる人懐っこい後輩は、昌也にとってすぐに気になる存在になった。
わかりやすい好意を寄せられ、元から男が好きなことを自覚していた昌也も好意を隠す必要もなく、自然と今の関係になっていた。
「ねえ先輩、続き‥どうする?」
余韻と幸せに浸っていた昌也に、上目遣いのミヤが聞いてくる。
「え?」
「え?じゃないよ。そろそろちゃんと決めないとさぁ」
「決めるって‥、入れられないじゃんお前」
昌也の一言にミヤはあからさまに不機嫌な顔をした。
浸っていた余韻も幸せも一気に冷め、大きなため息を吐くと、ふたりの間に気まずい雰囲気が流れる。
ミヤとは気が合うと思う。一緒にいて飽きることもなく楽しい。お互いの気持ちに疑いもない。昌也とミヤの関係は順調だと思っていた。この問題に直面するまでは。
最初にこういうことをした後から、いつも最後は同じような喧嘩になっていた。
もともとノーマルで女と付きあっていたこともあるせいか、ミヤは『最後までする』ことに執拗にこだわる。
それが、したいというだけなら良かったものの、付き合う前から昌也に格好良いと憧れに近い気持ちを持っていたらしいミヤは、“される側”を望んでいた。お互いネコなら挿入のないセックスも普通なのだが、それに納得をしてくれない。
「先輩が俺に入れてくれればいーじゃん」
ミヤがぶすっとした顔でこっちを見る。
「無理だって、俺入れられたい側だし」
「俺だって初心者だし、かっこいい先輩にしてもらいたいし」
拗ねた顔を真っ赤にして、もじもじしだすミヤ。すごくかわいい、すごくかわいいけどめんどくさいなと昌也は思う。
「さっき、俺のこと可愛いって言ってたろ。ミヤは、俺のもっと可愛いところ見たくないの?」
ずるい言い方をしているとは思うが、こればかりは譲れなかった。できないものはできない。
「言ったけど‥‥、先輩も俺のこと可愛いって言うじゃん。ていうか先輩なんだからリードしろよ!」
「リードはするけど入れられないよ。お前こそ後輩なら先輩に譲れ」こんな言い方をしてこなければもっと優しく言えるのに、とため息がこぼれる。
昌也のつき離したような言葉に今度こそ拗ねて、布団に包まるミヤ。そうなったミヤを布団ごと抱きしめて、謝るのもいつものことだ。
「ミヤ、ごめん。言い方きつかった」
ぎゅうっと強めに抱きかかえたまま軽く揺すると、布団の間から可愛い目が覗く。まるでリスやハムスターのような小動物が、巣穴から顔を出す仕草みたいだと毎回思う。その隙間から瞼にキスを落とすと、くすぐったいと小さな声が聞こえ昌也はほっとした。
「俺もごめん‥‥」
「ミヤ」
名前を呼ぶと薄い唇に吸いつかれ、痛いくらいにしがみつかれた。
付き合って3ヵ月の間、何度も繰り返されるこのやり取りに、いつかミヤが疲れて別れたいと言い出さないか、昌也は不安に押し潰されそうになる。
「‥‥先輩、もっと先輩に触りたいのに‥怖いとか言ってごめん。触りたいし触られたいし、もっとエロいことしてみたいけど‥、あんなとこ触るとか怖い」
震えるような泣きそうな弱々しい声でミヤがつぶやいた。
自分と同じように不安を感じてるのがわかる。『もっとエロいこと』をしたいのは昌也も同じだ。ひとりでする時は、ミヤに触られて激しく突かれ、揺さぶられることを想像してしまう。触り合いの最中には、もつと奥に触れてほしいといつも思っていた。
「俺もミヤに触りたい」
「‥うん」
うつむいたミヤのふわふわの癖毛に指を通すと、長い睫がこちらを向く。
「俺も人の‥とか触ったことないし怖い」
「‥うん」
「でも‥‥、もっとミヤとエロいことしてみたい」
「え?」
昌也の今まで言えずにいた気持ちを聞いて、ミヤは驚いた顔を見せる。
挿入にこだわるミヤと喧嘩を避けるため、今まで自分から話題にしなかった。きっとミヤはいつもの触り合いに満足していると思っていたのだろう。
「‥‥だから、ミヤに触ってみたい。入れるとか入れないとかはとりあえず抜きにして、もうちょい先まで触り合いっこ」
「先輩‥!」
勢いよくミヤに飛びつかれ、さっきよりもさらに強い力で抱きしめられた。
「‥‥苦しいっ、骨折れる‥‥」
「あっごめん!」
つい嬉しくて、と謝りながらもぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
「言っとくけど、初めて触るし期待はすんなよ」
「うん、うん!先輩大好き」
喜ぶミヤが可愛くて、ふっと笑うと額に軽いキスが落ちてくる。
そのままこめかみ、鼻、口と降りてきた。昌也は、そのすごく優しいキスをする唇が愛おしい。
「先輩、口あけて」
「ん‥‥」
吸いついた上唇にミヤがの舌先が触れると、口がわずかに開かれ熱い吐息が漏れる。隙間から侵入されあっという間に舌を絡めとられた。わざと音を立てるように口腔を愛撫され、力全身の力が抜けていく。
脱力した昌也のあごを支えていたミヤの手が鎖骨を撫で、その下の小さな先端に触れる。
「‥ぁっ‥‥」
尖った先を親指で優しく押しつぶすように円を描くと、敏感な昌也の身体がびくびくと震えた。
ぼうっとしていた頭が適度な刺激ではっきりし、昌也もミヤの胸に両手を這わせる。
「‥‥ミヤもここ持ちいいだろ」
「ん‥気持ちいい」
「舌で転がされるのも好きだよな」
ミヤの胸元に顔をうずめ、舌を絡める。濡れた舌先で転がすと、ミヤも指先に触れる尖りを上下にはじく。昌也の吐息の胸の突起をくすぐると、ミヤの下半身がぐっと持ちあがり、先走りがこぼれる中心を腹にこすり付けてくる。昌也は上体を下にずらし、芯を持った熱っぽいそれを口に含んだ。
「あっ‥先輩‥‥」
裏筋から鈴口を舌で圧迫すると、艶っぽい声が漏れる。
「こっちは、先っぽぐちょぐちょにされるの好きだろ」
「んあぁっあっ!」
膨れた先端を口唇で挟み上下すると、唾液のぬめりでぐちゅぐちゅと卑猥な音をたてる。昌也はミヤの視線を感じ、見せつけるように動かした。
「先輩エロすぎて‥もういっちゃいそ‥‥」
ミヤが言うと、添えていた手で根元をギュと握りこみ慌てて口を離す。
「まだダメ。いったら後ろすんのしんどくなるから」
両手で太ももからお尻を撫でられたミヤの身体がびくっと跳ねる。
「ミヤ、じっとしてて」
すぐそばに用意してたローションを手に取り、ミヤの後ろに垂らしこむ。すぐに指は入れず、緊張をほぐすように固く閉ざされた入り口を指でなぞった。
ネコの昌也は、自分以外のそこに触るのも初めてで、ましてや今から指を挿入しようとしているのは絶対に傷付けたくない未経験の場所。緊張から手が震えてくる。それを抑えながらら、丁寧に、丁寧に、ゆっくりと触れていく。
「先輩ぃ‥んうぅ‥‥」
「痛くしないようにするから、今気持ち悪いのは我慢しろよ」
「う、うん‥‥」
強弱をながらマッサージするように入り口を丹念にほぐすと、じきに軟らかくなり指の先が自然と中に滑り込むようになった。
「指先、ちょっと入ったけど大丈夫そう?」
「うぅ‥ん‥‥っ」
「痛かったらすぐ言って」
指の腹で優しく撫でるように、ゆっくりと出したり入れたりを何度も繰り返す。ひぃひぃ言うミヤをなだめながら、指先で広げるようにほぐしていく。
自分の指をヒクつきながら咥える後腔を見ていると変な気分になってくる。
昌也は頭を持ち上げた自分の中心を布団に擦りつけた。気持ち良いがそこではなくもっと後ろの奥のほうに刺激が欲しい、と思った。
上を向くとミヤは怯えているのか固く目を閉じている。自分が気持ち良いと思う場所、入り口から少し入った腹側を中指でぐっと押すと、ミヤが今までとは明らかに違う艶っぽい声をこぼす。
「ここ、どう?」
「あぁっ、わかんなっ‥」
感じているようなミヤが羨ましい。自分もミヤにこんなふうに触ってもらいたいのに。
昌也は我慢できず、あいていた左手を下半身に滑り込ませた。
熱くなった中心を通り過ぎ、会陰の部分を強めに押すと、しばらく得ていなかった前立腺の鈍い快感が下半身にじんわりと広がる。
さらに後ろに指を這わせると、長く使っていないそこはぎゅっと閉じていた。最初ミヤにしたように使い入り口から円を描くようにほぐすが、ローションで蕩けた後腔は指2本を簡単に呑みこむ。昌也は思わず声が漏れそうになるのを耐えた。
利き手ではない左手だからか上手く動かせずじれったい。奥まで届かない指がもどかしい。左手の2本の指で自分の中をやや雑にかき回しながら、右手は丁寧に動かした。熱のある吐息が空気中で重なる。
「ふぁ‥ぁ‥‥」
施しながら自分も気持ちよくなっていることに変な興奮を覚え、さらに左手が止まらなくなる。
こんなことになっている自分にまったく気付かない恋人に寂しい気持ちになり、ミヤがいつもしてくれる甘いキスが欲しいと思った。物足りない口唇は、無意識にミヤの太ももにかじりつく。
いきなり太ももをかじられたミヤがひゃっ!と変な声をあげてこっちを見る。
「‥‥いきなり太もも食べないでよ、びっくりするから」
「美味しそうだったから」
「てか先輩‥すごくエロい顔してる」
昌也はかじりついた太ももに舌を這わせ、意地悪い笑顔をミヤに向ける。
「ミヤ、俺のも触って」
「‥うん」
昌也を足の間から引き上げると、顔が近づきゆっくりと唇が重なった。さきほどからずっと欲しかったキスに夢中で舌を絡める。
ミヤが昌也の腰に手をまわす。いやらしく撫でられて、つい腰が揺れてしまう。
「先輩可愛い」
「こっち、はやく触って」
中途半端に触ったせいで熱を持った場所を早くどうにかしてほしくて、焦らすミヤの手を取り自ら後ろに持っていく。
欲しがる後腔はあてがわれただけのミヤの指に吸いついた。
「わっ、えっ、やわらかい‥‥」
自分の時は全然入らなかったのに、とミヤがぼやく。入るか入らないかの際どさでちゅぷちゅぷと音を立てられじれったい。
「‥‥経験者だとこんなんなの?」
「早く指入れて」
「てかまだ俺触ってないのになんでローションべたべた?」
「‥‥」
「‥‥‥」
「‥あー‥‥」
昌也の目が泳ぎ、沈黙が流れる。
「なにそれ!」
「えっと、ミヤのお尻が羨ましくて‥‥」
「それ、俺の尻に指入れながら自分でしたってこと?」
わかってはいたが、改めて言葉にされるとすごく変態ぽく感じ恥ずかしい。昌也は顔が熱くなる。
「えっちすぎる‥俺に指入れるのも怖がってたくせに」
「自分のは慣れてるから‥その、いつもしてるし‥」
「いつも?‥なんだよそれぇー」
どうしたらいいかわからないという表情で、指を抜こうとするミヤの手を引きとめた。昌也はその手にすがるように、腰を擦りつける。
「抜かないで、このまま触って」
引きとめられた指に粘液が絡まり、くちゅっと音が鳴る。
「‥‥先輩の中、とろとろ」
「ん‥さっきミヤにしたとこ、触って」
「もう普通に指入っちゃうし‥‥」
いつの間にか2本に増えた指が、弱いところを優しく押し上げる。
「あぁあっ‥あっ」
「‥ここ合ってる?俺は圧迫感しかなかったのに、こんなに感じるんだ」
「んぁ‥あ‥指気持ちい‥、ミヤの指きもち‥‥」
たどたどしいながらもミヤの指は、昌也の気持ち良いところを的確にこすってくる。感じている顔を正面から真直ぐに見られ、羞恥心がさらに興奮を煽り、張り詰めた中心からとろとろとこぼれる甘い蜜がたれ糸をひく。
弱い場所を弄られながらキスをされると、蕩けたアイスクリームがもっとドロドロに溶けて混ざりあうような感覚になる。自分を見つめるミヤの目も優しく蕩けている。
「ミヤ、我慢できない‥」
「え‥」
昌也は、驚いて目を見開くミヤの上にゆっくりと跨った。
「‥‥先輩それ、もしかして入れようとしてる?」
「うん、ミヤのガチガチだし。このまま俺が座ったら入るから」
「え、大丈夫なの?」
「ミヤが慣らしたから、大丈夫」
「もう慣らされてたじゃん」
ミヤのつっこみにごめんと謝ると、仕方ないなぁと笑われる。
少し腰を落として、昌也は緩んでとろとろの後ろをミヤの先端にすりつける。くちゅっくちゅっと粘液のこすれる音が静かな部屋にいやらしく響く。ミヤの目にはまだ困惑の色が見えるが、はっきりとした拒絶はない。
ミヤがまっすぐに昌也を見据え、腰に手を回す。今まで見たことないような男っぽい顔から目が離せない。熱のこもった眼差しが昌也の興奮を煽る。
「先輩、キスして」
そう囁くように言うと、腰に回ったミヤの手に力が入るのがわかった。
「‥っ‥ああっ‥‥」
さらに腰の手の力が強まり、ゆっくりと優しく抱きしめられる。抱きしめられると同時に、圧がかけられた下半身がゆっくりとひらかれていく。
「あ、あぁっ‥ふぁぁっ‥‥」
慣らされていない奥まで深く侵入される圧迫感と強烈な快感に耐えていると、気付かない間にミヤの顔がすぐ近くにあった。唇が触れ合うと、その間からも熱い舌が侵入してくる。
上も下も同時に犯され、昌也は羞恥と気持ち良さでどうにかなってしまいそうだった。しかし素直な身体は目の前の快感にすがってしまう。
思わず揺れた腰に、答えるようにミヤの腰も揺らさる。昌也は強く抱きしめられたまま優しく揺さぶられ、気付かないうちに白濁を腹にこぼしていた。
「先輩、もう‥?」
「あー‥出てた‥‥。気持ちダ良すぎてダメだ」
「ダメじゃないよ、めっちゃ可愛い」
ミヤの優しい揺さぶりが、ゆっくりと律動に変わっていく。内壁を擦られ、今度はわかりやすい快感の波が押しよせてくるのを感じて腹筋がひきつる。
「昌也先輩」
耳元でそう呼ばれると、昌也の中のミヤの増長を感じた。そしていっそう強く抱きしめられたと思えば、後腔をいっぱいに圧迫していたものがいっきに抜き出された。抱きしめ合ったまま、ふたりの腹の間で熱い体液が混ざりあう。
「先輩、大丈夫?」
汗で額に張り付いた髪を愛おしそうな指ですくわれた。
「顔‥ちがう」
「顔?」
きょとんとするミヤ。さきほどの男っぽい顔とは違う、いつもの可愛いミヤに昌也は残念なようなほっとしたような何とも言えない気持ちになる。
「さっき、格好良かったのに元に戻った」
笑いながら言うと拗ねた声で返される。
「それ褒めてるの?けなしてるの?てか先輩のほうが違うし。あんな可愛くなると思わなくてエロすぎてやばかった‥‥」
「俺もいつもされるがままのミヤが、あんながっついてくれると思わなくてやばかった」
「やっぱり俺けなされてる?」
ぷっ、とふたり同時に吹き出すと、事後の気恥ずかしさも消えていき、甘い余韻が広がる。
その中でキスをすると、昌也の下半身に熱が集まるのを感じた。絡めた舌で口腔を弄られながら、主張する胸の突起を捏ねられ、再び心地良い快感に引きずられる。ミヤも「またたっちゃった」と内腿に熱いものを押しあててきた。
「もう一回する?」
「じゃあ、今度は先輩が入れる番だね」
「え‥‥やだ」
「なんでだよー」
エロいことの後にするいつもと同じようなやり取りが、今日はひどく甘くて幸せだった。
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