4 / 14

act.03 ”Lies and rewards”

 騒ぎが起きたのは、辰巳とフレデリックがちょうど食事を終えてレストランを出た直後の事だった。食器の割れる音と、次いで悲鳴が背後から聞こえてきて二人が同時に振り返る。  辰巳とフレデリックの位置からでは、パーテーションが邪魔をしていて中の様子は見えない。 「あぁん?」  胡乱気な声と共に踵を返して中へ戻ろうとする辰巳の肩を、フレデリックの手がそっと押さえた。ゆっくりと、フレデリックが首を横に振る。 「大丈夫だよ辰巳。スタッフが処理するだろうから、僕たちは行こう」 「放っておくのかよ?」 「僕たちはただの客であって、ヒーローなんかじゃないだろう?」  フレデリックの言う事は尤もだ。もしヒーローなんてものがいるのなら、辰巳などはむしろ敵役にあたる場所に居る人間のはずである。  だが、今出てきたばかりの店で何かがあったのなら、様子くらい見ようと思うのが当然ではなかろうかと辰巳は思う。てっきりフレデリックの事だから一緒に様子を見に行こうと、そう言ってくれるものだと思っていた。それなのに逆に行くなと止められてしまった辰巳は不機嫌そうな声で問いかける。 「じゃあ何でお前は教会ん時にあんなことしたんだよ」 「あの時は事が起こる前だったからね。それに、気付いたのは僕たちしかいなかった。違うかい?」 「そうかもしれねぇがな、だからって放っておけ……っ!?」  ガシガシと頭を掻きながら喋っていた辰巳は、フレデリックの手によって唐突に腕を掴まれ口許を手で塞がれた。そのまま、腕を引かれて店の入り口からは死角になる場所へと引きずり込まれる。  驚く辰巳の耳元に、フレデリックの低められた声が聞こえてきた。その声は、どこか呆れているようだ。 「どうにかしたいと思うなら、少しは中の様子に気を配ってくれないか辰巳?」  言いながらフレデリックに視線で示される。今まで二人が立っていた場所を見ると、ひとりの大柄な白人男性が小さな幼子を抱えてレストランから出てくるところだった。  男にどんな事情があるのかは分からないが、店で騒ぎを起こした張本人という事だけは確かだろう。小さく辰巳が頷くと、口許を覆っていたフレデリックの手が外される。 「悪ぃ」 「それで? あの状況で、キミはどうするつもりなんだい?」  若干のからかいを含んだ口調で問いかけられて、辰巳はもう一度幼子を抱える男を見た。  凶器になるような物を男は持っていない。但し、男の手は幼子の首の辺りを押さえている。大柄な男の手であれば、幼子の首などすぐに折れるだろう。店から出たものの、どちらに行くかを決めあぐねている様子だ。と、辰巳に分かるのはそれくらいのものだった。  辰巳は再びフレデリックに視線を戻すと、ガシガシと頭を掻きながら何気ない口調で言った。 「どう…って、何も考えちゃいねぇけどよ」 「本当にキミは…どうしてそう行き当たりばったりなんだろうね…」 「行った先でどうにかすりゃあいいだろうが」 「子供がいるのに?」  フレデリックの言葉に辰巳は押し黙るしかなかった。確かに、男を刺激して幼子に怪我をさせてしまう可能性はある。  そうこうしている間に男が動く気配があって、辰巳はフレデリックとともに様子を窺った。男はどうやら、こちらへと向かってくるようだった。そうなると必然的に辰巳の目の前を男は通る事になる。思わず辰巳はフレデリックを見た。  辰巳の視線の先で、わざとらしく肩を竦めたフレデリックの口角が愉しそうに歪む。 「お手並み拝見といこうか。子供は僕が預かろう」 「いいのかよ」 「こちらに来てしまったものは仕方がないんじゃないかな。但し、僕は加勢しないからね」  そのまま立ち去る事も可能な状況ではあるが、どうやらフレデリックは辰巳に任せてくれる気になったらしい。加勢はしないというフレデリックに、辰巳が嗤う。 「それで十分だよ」  騒ぎを受けてすぐ後ろまで来ているセキュリティーの人間に、フレデリックは何やら指示を出している。辰巳は苦笑を漏らすと、忙しなく辺りを窺いながらこちらへと近づいてくる男を見た。  幼子を抱えているのと、距離を取りながらもレストランから数人のスタッフと、幼子の両親らしき男女が追いかけてきていることで辰巳たちの存在にはまったく気付いていないようだ。  男の背中が、辰巳とフレデリックが身を隠している角に差し掛かる。辰巳は一息に男へと詰め寄った。突然の襲撃に男の目が見開かれる。  辰巳は無造作に腕を伸ばして幼子の喉元にある男の腕を捻り上げると、そのまま態勢を低くして下から男の腋窩へと肘を突き上げるように叩き込む。  急所を突かれて男が痛みに呻く。反動で男の手から幼子が落ちるのを辰巳は易々と抱き止めて、すぐ後ろにやってきたフレデリックへと放り投げるように手渡した。 「辰巳、後ろ」  言いながらフレデリックが、即座に安全な場所まで下がった。  男へと向き直った瞬間に飛んでくる拳を左腕でブロックして、その拳の重さに辰巳は思わず口許を歪める。身長は幾分辰巳の方が勝っているが、ウエイトは男の方が上だろう。長期戦は避けたほうが良さそうである。  腕をそのままに辰巳は右膝を繰り出した。予想通り、男が腰を捻ってガードする。辰巳は構う事なく蹴り上げた右足で男の懐に踏み込むと、腕を掴んで躰を半分回転させた。辰巳の膝を腰で受けた男に態勢を立て直す余裕はなかった。男の躰が浮き上がり、次の瞬間には床に叩きつけられる。  床に転がった男をうつ伏せにさせて腕を取ると、辰巳は背中側に思い切り捻り上げて抑え込んだ。セキュリティーのスタッフが傍にしゃがみ込んだのを確認して、辰巳はゆっくりと立ち上がった。  辺りを見回すと、フレデリックが幼子を抱えたままにこやかに微笑んでいる。  お見事と、そう言いながら寄ってくるフレデリックの腕の中で、泣き止みかけていた幼子が再び声をあげて泣きだした。どうやら、辰巳の顔が怖かったらしい。  ガシガシと頭を掻きながら辰巳は渋い声を出した。 「あー…ったく、さっさと親御さんとこ連れてってやれよ」  見ていないで早く両親の元へ連れて行ってやればいいのにと、そう思ってしまう辰巳である。実際には辰巳が立ち回りを演じていて不可能だったのだが。  セキュリティースタッフの手によって連行されていく男をぼんやりと眺めていると、フレデリックの声が聞こえて辰巳は振り返った。 「喜んでたよ。ありがとうって伝えてくださいだって」 「まあ、無事で良かったんじゃねぇか?」 「それにしても、背負い投げとはね…。辰巳は、柔道をやっていたのかい?」 「あー…少しだけな」  学生の頃に少し齧った程度だと、そう言って辰巳はどこか苦い笑いを浮かべる。理不尽ないちゃもんを付けられたとはいえ、稽古中に師範と喧嘩になって骨折させて道場を追い出された…などとはさすがに言えない。  誤魔化すように笑って、辰巳が歩き出す。その後を、フレデリックは首を傾げながらついて行った。思わぬ食後の運動をしてしまったが、時間はたっぷりある。  しばらく歩いたところで、不意に辰巳は違和感を感じた。いつもなら隣に並んでくるはずのフレデリックが、いつまでも並んで来ない。不思議に思いながら辰巳が振り返ると、フレデリックは楽しそうに後ろを歩いていた。 「何でそんなとこにいんだよ」 「いやあ、どこに行くのかと思って」 「別に決めちゃいねぇよ。さっさと隣に来いよお前、落ち着かねぇだろ」  さらりとフレデリックが喜ぶような事を言って、辰巳が再び歩き出す。その隣にフレデリックは並んだ。  にこにこと嬉しそうに笑うフレデリックを横目に見て怪訝そうな顔をする辰巳は、きっと自分が何を言ったのかに気付いていない。そういう男だ。 「しかしまぁ、教会ん時といい今回といい、この船じゃあんな騒ぎは当たり前なのかよ?」 「うーん…。そこまで多くはないけれど、セキュリティーは居ても警察がいる訳じゃないからね。どうしても騒ぎが起きる事は…あるかな」  困ったように言って、フレデリックが辰巳を見る。 「辰巳は、ヤクザなのに正義感が強いよね。ニンキョウ…ってやつなのかな?」 「あ?」 「困ってる人がいたら、放っておけないだろう?」 「そりゃあすぐ後ろであんな騒ぎが起きたら、様子を見に行こうってならねぇか?」 「ならないから僕は止めたんじゃないか」 「なんつぅかよ、正義だの任侠だのそんな大層なもんはどうでもいいが、見て見ぬ振りは…したくねぇな」  辰巳らしい答えに、フレデリックが微笑んだ。 「キミは…本当に変わらないね、辰巳」  そう言ってフレデリックは辰巳の腕に絡みついた。  突然の事にバランスを崩して、よろけながらも踏み止まる辰巳の眉間に皴が寄る。 「お前っ、急にじゃれついてくんじゃねぇよ。危ねぇだろうが…」 「あっははっ、大丈夫だよ辰巳。辰巳が転びそうになったら僕が支えてあげるから…さ」 「転ばそうとしてる本人が偉そうに言ってんじゃねぇよ馬鹿」  呆れたように顔を顰める辰巳を、腕に纏わりつき少しだけ低くなった位置からフレデリックは見上げた。  十一年前、フレデリックは辰巳と同じように、見て見ぬ振りをせずに見知らぬ人を助けた。それはただの気まぐれだったが、おかげで取るに足りない窮地に追い込まれた事がある。  危ういところを、辰巳が助けたのだ。『見て見ぬ振りをする日本人は賢い』と、そう嫌味を言ったフレデリックに、困ったように笑いながら頭を掻く辰巳の姿を思い出す。  勘違いをしているのだと、フレデリックにはすぐに分かった。辰巳はあの時、フレデリックが言った言葉の意味を穿き違えている。あの時辰巳が救ったのは、フレデリックではない。  フレデリックを追い込んだ三人の命と、辰巳自身の命だった。  運命などというものがもし本当にあるのだとするならば、その出会いは間違いなく運命だった。…あの時、フレデリックを路地へと追い込んだ三人の若者にとって。  あの日、辰巳が声を掛けてこなければ、フレデリックは自分を追い込んだ三人をあっさり殺していただろう。死体が見つかったところで捕まるような下手な真似はするつもりがなかったし、死体を始末する事も出来た。  そして、辰巳が声を掛けた事で死体は四つに増える…はずだった。  『見て見ぬ振りをする日本人は賢い』と、辰巳に向けてフレデリックが放った言葉は、間違いなく嫌味だった。本当は『見て見ぬ振りをしていれば死ぬこともなかったろうに』という意味を込めてフレデリックは言ったのだ。それを、辰巳は今も勘違いしたままである。  あの頃既に人を人とも思っていなかったフレデリックを止めたのは、後にも先にも辰巳ひとりだ。自分とさほど変わらない体躯を持つ辰巳に、フレデリックは興味を持った。  自分好みの顔と躰。そして深く黒い闇を湛えた、意志の強い瞳に興味を惹かれた。この男を知りたいと、フレデリックが初めて興味を向けた男。それが辰巳である。  十一年前の真実を辰巳が知ったなら、どういう反応をするだろうかとそう考えて、フレデリックはやはり黙っておくことにする。卑怯だと思いはしても、今更嫌われたくはなかった。  最初はただの興味だったにせよ、今は辰巳を愛している。  少し下から見上げる辰巳の顔も、やっぱりフレデリックには男前に見える。出会った時から変わることなく真っ直ぐで、強くて、優しい辰巳を、フレデリックは愛していた。  マフィアには、沈黙の掟というものがある。自分がマフィアである事を徹底的に隠す事で、組織の存在を非公然なものにしているのだ。それを、フレデリックは辰巳のために破った。  辰巳が、知りたいと、そう言ったから。  その時にフレデリックは覚悟を決めたのだ。辰巳への愛を黙って貫き通すと。  辰巳が言うように、転ばせようとしている本人が偉そうに言う義理ではないのかもしれない。けれど、フレデリックの言葉もまた本心だった。  何があろうとも、フレデリックは辰巳を守る。そして辰巳もまた、フレデリックを守ると言うのだ。何の問題があるというのか。この二人には、何が起きたとしても心配などない。  ちょうど、二人の目の前にグランドロビーが見えた。この『Queen of the Seas』が誇るメインエリアだ。  微かに音楽が聞こえてきて、フレデリックはそんな時間かと無意識に腕時計へと視線を落とす。すると辰巳が突然奇妙な声を上げた。 「お…っ前、なんでそんな時計してんだよ」 「え?」 「それ、俺がやったやつだろ」  辰巳の言葉に、フレデリックは慌てて腕を後ろに回した。その様子に辰巳が苦笑を漏らす。  フレデリックは、どこか照れくさそうに時計をしていない方の手でポリポリと額を掻いた。 「バレちゃった…かな…?」 「当たり前だろうが阿呆」  誤魔化すように笑うフレデリックに、辰巳はガシガシと頭を掻いた。その表情が呆れている。  フレデリックの腕に嵌められている時計は、十一年前に辰巳が渡したものだ。GPSが内蔵されているそれを、辰巳は何かがあった時のためにフレデリックに持たせた。着けているのは日本にいる間だけでいいと、そう言って。 「ったく、お前って案外そういうところが女っぽいよな」 「辰巳だって僕があげたカードを大事に持ってるじゃないか」  言い合って、しばし睨み合う。だが、それは長くは続かなかった。  二人で向かい合ったまま、笑い合う。 「お前よ、一緒にいるのにそんなの着けててどうすんだよ。つぅか服と合ってねぇだろそんな安物じゃ」 「いいんだよ。この時計はドレスコードにも引っ掛からないし」 「そういう問題じゃねぇよ馬鹿」 「酷いなぁ、僕はこの時計が気に入ってるっていうのに」  フレデリックが、腕に嵌められた時計の文字盤を撫でる。その表情はとても穏やかだ。  そんなフレデリックを見遣って、辰巳が思いついたように口にした。 「んじゃよ、フレッド。今から時計を買いに行かねぇか?」 「また急にどうしたんだい?」 「あぁん? お前がいつまでもそんなシケた時計してっからだろぅが」 「うーん…。僕はこれが気に入ってるんだけどなぁ…。せっかく辰巳がくれたものだし…僕の居場所もわかるし…」  ブツブツと嫌がるフレデリックに、辰巳は財布を抜き出すとコインを一枚摘み上げた。それをフレデリックの目の前に差し出すと、そのままキンッと指で弾く。  くるくると回転しながら落ちてくるそれを、辰巳が掴んで手の甲に隠した。 「俺が勝ったら買いに行く。お前は、どっちに張る?」 「裏…かな」 「なら、俺は表だな」  そう言って、手の甲を隠している手をゆっくりと退けた辰巳の連敗記録は、止まった。にやりと辰巳の口許が歪む。それを見てフレデリックは小さく息を吐いた。  再び二人並んで歩き出す。コインを愉しそうに指で弾いては掴み弄ぶ辰巳の横で、フレデリックは悔しそうに言った。 「はぁ…、どうしてこういう時に負けるかなぁ…」 「はぁん? 新しいの買ってやるって言ってんだから喜べよ」 「辰巳はわかってない。これはそういう問題じゃないんだよ…」  拗ねるように言うフレデリックに、辰巳は苦笑を漏らすしかなかった。  ただ単にフレデリックの居場所を割り出す為だけに渡した時計は、見栄えを気にしたものでは全くない。ごく普通の、サラリーマンなどがしているような男性用の腕時計である。  辰巳としても、フレデリックが時計を大事にしてくれている事は、嬉しくない訳ではない。だが、まさか今にもなってそれをフレデリックが着けているとは思ってもいなかったのである。さすがに不釣り合い過ぎる。と、辰巳は隣を歩くフレデリックを見た。 「どういう問題でも構わねぇがよ、負けたんだから大人しく言う事聞いとけ」  さらっと言い放った辰巳に連れられ、その日フレデリックは新しい時計をプレゼントしてもらう事となった。その際、駄々を捏ねて辰巳に揃いの時計を買った事は言うまでもない。  その日の夜。部屋へと戻った辰巳とフレデリックは二人で酒を飲んでいた。  隣り合って座る事が当たり前となっている二人は、大きなソファに身を預けている。すると、不意に辰巳が思い出したように言った。 「お前、今日買った時計と前の時計ちょっと貸せ」 「いいけど…どうするつもりだい?」 「GPS移植してやんよ」  何の気なしに告げられた辰巳の言葉に、フレデリックは驚いたように目を見開く。 「嫌なら、出さなくても構わねぇぜ?」  そう言って酒を煽る辰巳に、フレデリックは言われた通りツールボックスと二つの時計を差し出した。  辰巳の武骨な指が、古い時計を持ち上げる。あっという間に裏板を取り外すと、ピンセットで中にある小さな基盤を取り出した。その小ささに、フレデリックがまじまじと辰巳を見る。 「それ…もしかして辰巳が自分で仕込んだのかい?」 「ああ。昔な」  フレデリックにとって、それは驚きの事実である。だが、現に目の前で辰巳はさっさと新しい時計の裏板を外すと、そのまま基盤を中に埋め込んで閉じてしまった。  ほらよ。と、そう言って放り投げられた時計を見れば、しっかりと動いている。手際の良さに感心するフレデリックの横で、辰巳は鼻の頭を摘まんでいた。 「あー…目が痛ぇ…」  言いながら目の周りを揉み解すようにしている辰巳の姿は、どこからどうみてもただのおっさんである。  苦笑を漏らしながらフレデリックがその様子を見ていると、突然辰巳がそのままの姿勢で口を開いた。 「それで文句はねぇだろ」 「辰巳…」  にやりと、辰巳の口許が嗤う。 「俺から貰って、お前の居場所がわかりゃあいいんだろ?」 「聞いてたのかい?」 「あぁん? 聞こえるように言ってたのは誰だよ阿呆」  目が痛いと、そう言いながら顔に手を遣る辰巳の頬が少しだけ赤いのは、酒のせいだろうか。  そんな辰巳をフレデリックが放置しておくはずは、勿論なかった。飛びつくように辰巳をソファに押し倒して唇を奪う。 「キミは本当に、僕をどれだけ喜ばせれば気が済むんだい? 辰巳」 「十一年もシケた時計大事にしてる馬鹿への褒美だよ。お前は、何をお返しにくれるんだ? フレッド」 「僕じゃ…駄目かな…?」 「はぁん? 元から俺のもんだろうが」  当然の如く言い放つ辰巳の腕が、フレデリックの胸元を掴んで引き寄せた。前のめりになったフレデリックの耳元に、辰巳が低く囁く。 「早く寄越せよフレッド。お前を…全部」 「もちろん。好きなだけあげるよ。キミが、もう要らないって懇願するまで…ね」  そう言って、あっという間に二人は服を脱ぎ捨てた。美しく引き締まった裸身を互いに曝し、吐息をを貪り合う。  その後、辰巳とフレデリックの二人が互いの躰を離したのは、空も白み始めた頃の事だった。

ともだちにシェアしよう!