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プロローグ
(今日も暑いな……つか人やべぇ)
日本で毎年2回行われ、国内で一番の賑わいを見せる同人誌即売会がある。今日はその夏の部の3日目だ。
沢山あるブースの一角、自分のスペースでネコミミメイドのコスプレをして自分のコスプレ写真集や映像DVDを頒布しながら、三島弘樹(みしまひろき)は笑顔のまま心の中で呟いていた。
「新作DVD1枚ですね、2000円です! ありがとうございまーす!」
ファンデーションが汗で垂れる。拭う暇はない。ネコミミカチューシャも落ちてくるが、ピン留めをやり直す時間もない。
(早くコスエリアに行きたい……!)
誕生日席に配置された自分のスペース前には、もうすぐ開場して1時間が経過するというのにまだ沢山の列が出来ていた。どうしても売り子を用意出来ず一人で捌かないといけない弘樹には、あまりにも過酷だった。
「みひろさん、手伝いましょうか?」
「はへ?」
スペース横から声を掛けられ、驚いてマヌケな顔を向けた弘樹は、その相手に動きが止まる。
「ああああああなたは!!」
「ほら、手を止めないで」
「すすすすみません!」
「列整理のスタッフもういなくなったんですね、後ろの方見てきます」
「すみませんありがとうございます玉山さん!」
声を掛けた男性――玉山は、手頃な白いダンボールに手書きで【『みひろのへや』最後尾こちら】【『みひろのへや』途中列】と書いて列の後ろへと移動する。その間も、弘樹はお金を受け取り頒布物を渡す作業を繰り返していた。
みひろ――それは弘樹のコスプレ名義だった。
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