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第3話
軽く顔を洗って、キッチンにいけば……ここもまた生活感がない。ワイングラスとシャンパングラスがオシャレなバー並みにカウンターに並んでいるだけ。カウンターの下には、ワイン専用の冷蔵庫があって、いかにも高そうなワインとシャンパンが綺麗に入っている。
ダイニングには小さい丸テーブルと椅子が一つ、窓に向かって置いてあるだけ。そこから見える夜景が絶景で……いつもここで一人、ワインを楽しんで眺めているらしい。
僕はキッチンに入ると、冷蔵庫を開けた。ここだけ生活がある……と僕は苦笑した。それもそのはず。小林と同棲するようになって、僕が買ってきた食材が冷蔵庫に入っているから。
日々の節約のために、弁当を作っていくから必然とここだけは生活感にあふれた。あとは小林が一人暮らしをしていたとき同様の状態を保っている。
僕は慣れた手つきで弁当の準備を始めた。
僕が転職して同じ仕事場で働いているのに、全然、生活環境が違う。あいつは本当にすごい奴なんだってつくづく思う。
弁当が出来上がると、僕はコーヒー豆を挽いてからコーヒーメーカにセットした。朝、小林が起きてきたら飲むらしいから。僕は先に出勤をしてしまうからわからないけど……朝はコーヒーしか飲まないらしい。
さくっと部屋の掃除をして、ごみを纏めて玄関へ。洗濯物を浴室に干して、乾燥をかけると僕はスーツを着る。余っている一部屋を借りて、僕の私物が置いてある。ここは……生活感が滲み出ている。
ベッドもあるんだけど、小林が一緒に寝ると言い張るから……寝室は一緒にしている。もともと小林のベッドがダブルサイズだったし二人で寝るなら……ってことなんだけど。
同じ仕事とはいえ、生活リズムが違うから別々に寝たほうがお互いに良いと思うんだけど。そこは小林が譲らなかった。
昨晩のセックスの名残か……やはり突起が擦れると痛い。誰にも見られない場所だから、テープでも貼っていきたいくらいだ。
「やばい。時間が……」
僕はヨレヨレの鞄の中に弁当を入れると、玄関に走る。ごみ袋を掴んで、家を飛び出した。
高層ビルの十五階に僕の職場がある。エレベータから降りると、豪華なフラワーアレンジメントがお出迎えをしてくれる。転職して三か月が過ぎるが……見慣れない。
受付があってそこに『美作法律事務所』と仰々しい字のプレートが置いてあった。
僕は弁護士だ。前の職場をクビになり、すぐにこの事務所に拾ってもらった。小林のおかげだ。小林がいなければ、僕は今もきっと……路頭に迷っていたはず。ここで働くのと同じくして、小林と正式に付き合うようになった。すぐに同棲も始めて……。
小林におんぶに抱っこ状態だ。あいつがいなければ、生きていけないも同然。情けないけど、事実だ。
誰もいないオフィスを歩いていく。『シニアパートナー 小林豊』と書いているガラス張りの個室を通り過ぎ、会議室を通り過ぎて、大きな室内に入る。三十弱あるデスクが並ぶ部屋が僕の仕事場だ。
『弁護士 小野寺真弥 』とデスクにプレートがのっているを確認して、椅子に座る。鞄を一番下の抽斗に入れると、パソコンを立ち上げた。
恋人である小林は、この事務所のシニアパートナーである。事務所のトップである美作麗香の右腕だ。この事務所では二番目に偉い人間……それが小林豊だ。
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