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『ハロウィン特番収録風景🎤』
足がスースーするよ。
厚底ナースシューズのサイズがちょっと合ってなくて痛いよ。
ナースキャップを固定させてるピンがいつ頭から落ちてくるか、気が気じゃないよ。
だからって収録は止まらない。
一回始まったら、もうストップはかけられない。
『さぁ、本日は昨年も当番組のハロウィンを彩ってくださった、CROWNの皆さん、ETOILEのお二人にお越しいただいていまーす! 皆さん、白衣がとてもよくお似合いですね! なんというか、迫力があります!』
「いえいえ、ありがとうございます。ってか、今年もこの番組からオファーをいただけて嬉しいでーす! これガチ! ガチ中のガチ!」
「セナ、暑い。やっと涼しくなってきてんのに。お前が暑いと俺らも年中暑いんだけど」
「ほんとほんと。しかも俺たち今はお医者さんなんだから、涼しげ〜な顔してなきゃ!」
「一人違う子混じってるけどな! この子、俺の彼女設定」
……聖南……やめて……。 ニッコニコで肩を組んでこないで……みんなの注目集めちゃってるから……。
俺は今すぐにでも家に帰ってベッドでみの虫になりたいんだよ。
だって、なんで、なんで、俺だけ毎年女性もののナース服なの?
このミニスカートの長さは誰が決定してるの?
そして聖南、なんでそういう事言っちゃうの?
去年のこの時期と同じ番組のハロウィン企画で、コスプレして出演する事が嬉しくてたまんないのは分かるけど、聖南ははしゃぎ過ぎだ。
俺がこんなに、聖南と恭也の間で根暗オーラ出して座ってるのに全然気付いてくれない。
あ、……もしかして、去年の〝イメプレ〟思い出してるのかな。
『えっ、そうだったんですか!? 視聴者の皆さんも、私も、ハルくんはてっきり恭也くんの恋人の設定なのかと……!』
「違う違う。去年も今年も、俺の彼女設定!」
「……セナ、ハルが困ってる」
「いつも以上に「帰りたい」オーラ出してるよ、ハル君」
聖南、設定って言い切った!!
これ絶対去年のイメプレ思い出してルンルンなんだよ。
俺もかなり燃えちゃったから人のことは言えないよ? 言えないけど……。
『さて、今回は昨年とは違う組み合わせでのパフォーマンスを披露していただける、との事ですが。組み合わせの発表をお願いします!』
「はいはーい。まずはケイタと恭也。アキラはソロ。俺と葉璃。この三組になりましたー」
聖南が今年の三組の組み合わせを発表すると、その度にカメラの向きが変わる。
スタジオにお客さんの居ない収録スタイルだから、いつもよりは緊張しないはずなのに……いつパンツが見えてもおかしくない衣装のせいで何も考えられない。
正直、聖南と二人で歌って踊ることが公の場では初めてだから、この話が決まった時はとっても嬉しかった。
動画サイトで流行ってるアップテンポで可愛い曲だし、家で練習してる時も、ずっと聖南とニコニコし合ってたくらいすごくすごくすごく楽しかった。
「……なんかさぁ、今年の組み合わせ……圧力感じない?」
「感じる。ハルのこと彼女設定とか言ってる奴のだろ」
「そうそう〜。まさか設定を忠実に守ろうとしたわけじゃないよね、セナ?」
「んなわけねぇじゃん。俺は、構成作家とPとの打ち合わせで案出しただけよ?」
「ほら! 圧力発生してるじゃん! 会議にまで参加して!」
「お前にいつそんな時間があったんだよ」
「いやだってな、去年俺たちも楽しかったじゃん? しかも視聴者からも好評だったーとか聞いちまうとヤル気が漲ってきたんだ。メラメラっとな」
……ほんとにそれだけかなぁ?
多忙な合間を縫ってわざわざ企画会議にまで参加して(多分一度や二度じゃないと思う)、前回と同じコスプレを選んだ聖南の思惑を勘繰ってしまったのは、俺だけじゃなかった。
ケイタさんもアキラさんも、俺の隣でおとなしい恭也も、きっと聖南の魂胆を分かってる。
俺の事となると公私混同がひどいからなぁ、聖南……。
それが結果的に、視聴率にもファンの人達からの喜びの声にも繋がるから、聖南には誰も何も言えないんだ。
『それで前回と同じコスチューム、というわけですね?』
「そう! みんなの期待とリクエストにお応えしたくて!」
「どうだかねぇ~」
「……よく言うよ」
「うるせぇぞ、アキラとケイタ。 あ、あと来月のスペシャルで俺たちのコスプレ特集してもらえるっつー事で、そこでは五人揃ってのマル秘パフォーマンスもありますんで楽しみにしてもらえたらと思いますー。 どうぞよろしくー」
「よろしくー。 今めちゃくちゃ練習に励んでるよな、みんな」
「来月のは内容言っちゃダメなの?」
──……うん、来月のこの番組のスペシャルにもCROWNとETOILEはセットで呼ばれていて、あることをみんなで練習してるね。
でもそれは、ラジオとかでお話ししたらいいんじゃないのかなぁ。
CROWNの三人が揃うとトーク時間が長いんだよ。
みーんながそれをファンサービスだと認識してるって分かるんだけど、超ミニスカートを履いてドキドキしてる俺の気持ちはどうしたら……。
『あーっと、それはNGだそうです! プロデューサーが大きなバツを作ってます!』
「そうか、残念。まぁ他局になっちまうんだけど、ちょっとしたヒントは俺言ってるんで。ファンの子達なら分かるかもしんねぇな」
「あぁ! それセナにしてはすごくいいヒントだね」
「確かに言ってたわ。てか俺が言ったのをセナが拾ったって感じ。……あ、これ言い過ぎ? セーフ?」
……やっぱり聖南たちはすごいや……芸歴が長いだけあってスラスラ喋ってる……。
このまま俺と恭也には何も質問が飛んでこない事を祈るしかない。
収録が終わったらすぐに着替えて、聖南より先に局を飛び出して一目さんにお家に帰りたい。
『せっかくなので恭也くんとハルくんにもお話を聞けたらと思うんですが、お二人はお互いの衣装をご覧になっていかがですか?』
えぇぇ、俺たちにも質問が来るの……!?
そんなの台本にあったっけ……。
「んー……。葉璃の衣装姿は、……可愛いです。去年も可愛かったですけど、今年の方がもっと可愛いです。どこが、とか言えないですけど。全部可愛いです」
『お熱いですねぇ!! ハルくんは、恭也くんのお医者様コスプレどうご覧になっていますか?』
「え、あの…………かっこいい、です。以上です」
「プッ……! 以上ですって! 葉璃、それは端的過ぎねぇか?」
「だって、それ以外、思いつかないので……」
「あっ! じゃあ俺は? ハル君、俺はどう?」
「ハル、俺のもジャッジして」
「えー!! じゃあ俺もジャッジしてよ、葉璃!」
『CROWNの皆さんによるハルくんの争奪戦が始まりました! 面白くなってきましたね!』
聖南のツッコミのあと、その場に立ち上がって矢継ぎ早に問うてきたアキラさんとケイタさん。
俺の事を恭也がベタ褒めしてくるから、俺も同じ熱量で返さなきゃとは思ったんだけどなかなか言葉が思いつかなくて。
あがり性だって知ってるはずの二人がジャッジを求めてくると、聖南までそれに乗っかってもっとトーク時間が伸びた。
俺は早くこの衣装を脱ぎたいんだってば……。
「三人とも、かっこいいです。素敵です。……以上です」
言い切って恭也の背中に隠れてしまうと、カメラがそれを〝ETOILE二人のイチャイチャだ〟って撮ってるのが分かった。
そのスタッフさんの意向と、根暗を最大限に発揮してトークを切り上げた俺って、ほんとにアイドル失格だよね。
……って、俺がみんなと同じドクターコートを羽織ってたら、もう少しだけマシな事言えたと思うんだよ。
誰かさんが俺にそれを与えなくて、選曲も組み合わせにも口を出して、今日の夜にはお家でまた……日向先生が俺にお仕置きするんだよ。
〝俺のこと一番にかっこいいって言ってくんなかった。 よそ見してたとみなす〟
ってね。
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