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昔からなんで団子が嫌いだったのか分からない。
米は好き。白米三杯食える時もある。だが、お正月やイベント事に食べる餅や団子は好きでなかった。
もっちもちとした食感が嫌い?
それとも甘みがあるから?
米を潰してるから??
もう何年も考えたが答えは見つからない。
「龍君」
「あ、里谷さん」
振り返るとネクタイを緩めた里谷さんがいた。ツーブロックにしたクールヘアなのに童顔で低身長のせいか似合わない、なんて言わなかった。
「お、今夜は満月なんだな!」
よっこらせ。隣で胡座をかいた里谷さん。彼は俺が幼い頃に近所に住んでいたお兄ちゃんだった。
縁側で月を見ながら二人きり。いい雰囲気だった。
「お、お団子!」
いや、そうじゃないな。ズボンからお肉がはみ出ている里谷さんはお皿に作っておいた団子を二三個口に入れた。
「そんなんじゃダイエット出来ないですよ?」
「あはは。そんなこと言わないでくれよ。今日の昼はサラダだったんだから」
黒い太眉を下げ、笑って言う彼はまた二個取った。説得力がまるでない。
(でもな……)
もっもっもっ。頬張っている姿は三十路の男といえどとても愛らしい。
「リスみてぇ」
「ん?何か言ったか?」
「別に何も」
「そうか〜…んっ、む、おっむ……っ。月を見てたのか?」
月より団子の人でも一応、月が分かるのか。
「はい。秋の夜空は特に綺麗に見えます」
「へぇ〜。んっ、ん。綺麗な月だもんな」
(うん。そう……)
俺はさらに山座りした太ももの中に顔を埋める。
俺の視線の先には銀色の輪っかが見えた。大事な人にプレゼントしてもらったそうだ。
「同じ月、見れるといいな〜」
(明日、帰るんだもんな)
そしたらきっと、いいや、もう。里谷さんは帰って来ない。
笑う彼には十数年貯めた想いを伝えることはなかった。
「なぁ、さすがに何かないのかよ」
えーー?振り返ったら口に何やら柔らかいものが触れ、中に入ってきた。
「なっ!?!?」
驚きながらも咀嚼する。甘い米の味が口いっぱいに広がってきた。
苦手とはいえ、勿体ないので食べ終わると頬を膨らませた里谷さんがいた。もう団子は食べ終わったはずなのに。
「何か言うことはないのかよ……!」
「?さようなら?」
深いため息の音が聞こえてくる。俺にはさっぱり分からなかった。
「……なのに」
「えっ?」
「だから!お前がここに予約を入れたんだろ…っ!?」
鼻につくくらい目の前に出されたのは左手のーー
「薬指?」
「オレが十五の頃……お嫁さんにしてくれる……って、言ってたじゃねーか」
だから、わざわざここにはめてたのに。
秋の空に消えていく一音一音はどれも惜しいほど愛らしくて、何かのスイッチが押された。
包み込んだ里谷さんは餅のようにもちもちしていて、ふわふわで、甘いお米の匂いがしていた。
あぁ。そうかーー
オレは彼を食べちゃうんじゃないかと思ってたんだな。
(昔から狼なんだな)
「……狼め」
視線を移せば真っ赤に染まった耳が見える。可愛い。
「満月の下では狼は吠えますので」
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