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第17話
「朱月」
俺は唇をきつく噛みしめ、流れる涙もそのままに夜霧の手に自身の手を重ねた。もう片方の手で格子を掴むと、そっちは夜霧が手を重ねてくれた。
「お前が何のために屋敷に来て、何をされ、何を見るのか。俺は初めから終わりまで、その全てを知っている」
互いを映す俺と夜霧の目は、同じくらい濡れていたかもしれない。
「お前がどうなろうと知ったことではなかった。お前は俺が頭首になるまでの単なる暇潰しの相手で、俺の『所有物』――生贄の道具としか見ていなかった。神社で倒れたお前を助けたのだって当初はそういう理由だった。大事な生贄に何かあっては困る。だから俺はお前を……」
「………」
「だけど俺や村長達からどんなに蔑まれようと、お前は決して諦めなかった。どこまでも素直で前向きなお前は、いつしか俺にとって直視できないほど眩しい存在となっていた」
夜霧の声は微かに震えていた。
「……同時に、何も知らないままでいるお前を見ているのが辛くなった。お前に気持ちを打ち明けられた時など、内心気が狂いそうになったほどだ。……本当はあの場でお前に応えてやりたかった。だけど、そんなこと出来る訳がない……!」
「夜霧……」
「そうだろう。お前の告白に応えておきながら生贄として男達の群れに放り出すなんて、これ以上残酷なことがあるか」
「………」
「……初めからお前は、籠の中に捕らえられていたのに」
俺は夜霧の手を強く握り、呟いた。
「それは夜霧も同じだ」
「え?」
「何不自由ない生活をして、見た目には何もかもを手に入れていたはずなのに。……本当は夜霧もずっと、見えない籠に閉じ込められていたんだ」
「……お前を見ず知らずの男達に差し出して頭首になるなんて、受け入れられるはずがない。頭首になることへの決意の裏で、ずっと葛藤していた」
冷たい格子越しに俺と夜霧は見つめ合い、やがて、どちらからともなく目を閉じた。
「夜霧……」
格子と格子の間で唇が重なり、舌が絡み合う。涙の味がして切なくなり、夜霧も胸を痛めてるんだと思った。
「ふ、……う」
鉄格子の存在がもどかしい。今すぐ夜霧の胸に飛び込んでしまいたいのに。両腕で強く、思い切り夜霧を抱きしめたいのに……。
「朱月……」
唇が離れた後、夜霧がはっきりと俺に告げた。
「言っておくが俺は、お前をそんな目に遭わせるつもりはない。それを言いにここへ来た」
「……でも、もう全てが決まってる。今更そんなこと言ったってどうにも……」
夜霧が目を細めて、唇の端に小さく笑みを浮かべた。とんでもない悪巧みをしている時の笑い方だ。突拍子もないことを言い出す時の表情だ。
「俺に考えがある。朱月、俺に賭けろ」
俺の大好きな、自信に満ち溢れた夜霧の顔だ――。
「いいか」
夜霧が顔を近付け、そして内緒話をするみたいに口元に手を添えて囁いた。
「お前が初めから穢れていれば、それだけでもう生贄としての価値はなくなる」
「え?」
「たった一度でも最後まで男を知った体を紫狼様に捧げるなんて、親父達がそんな無礼な真似をする訳がないからな。そもそも生贄の意味がない」
どこか楽しそうに語る夜霧。俺はようやくその意味を理解し、顔を赤くしながら慌てて首を振った。
「で、でもそんなことしたらまた夜霧が怒られるんじゃ……」
「俺は先祖が勝手に決めただけで、紫狼様が生贄を欲しているなどとは思わない。それが分からない親父には、強硬手段を採るしかないだろう」
「でも俺は牢の中な訳だし、一体どうやって……」
「この俺が、何の用意も無しに来ると思うか」
「あっ……」
掲げた夜霧の手には、古びれた小さな鍵が握られていた。牢の端にある小さな入口には南京錠が取り付けてある。そこに夜霧が鍵を差し込むと、呆気ないほど簡単に錠が外れる音がした。
「夜霧……」
「待たせたな、朱月」
「夜霧っ……!」
もつれ合うようにして畳の上に倒れ込んだ俺達は、互いを強く抱きしめながら夢中で舌を絡ませた。
「ん……」
俺の身体を弄る夜霧の大きな手。初めはこうされるのが怖くて仕方なかったはずなのに。
「よ、ぎり……」
今はこんなにも心地好くて、温かくて、安心できる。
「思えば、初めて会ったあの日から今日まで……色々なことがあった」
俺の髪に指を絡ませながら夜霧が囁き、俺もそれに頷いた。
「お前が屋敷に来なければ、俺は間違った考えを持ったままで頭首になっていただろうな。村の未来も変わっていたかもしれない」
「………」
「お前が来たことで俺の周りに新たな風が吹いたんだ。……朱月、感謝する」
「う……」
堪えきれずに零れた涙を、夜霧がそっと舌でなぞる。嬉しくて堪らなくて、俺は夜霧の首にしがみ付きながら何度もその頬にキスをした。
この際俺は犬だっていい。夜霧と今こうしていられるなら……明日、目が覚めなくたって構わない――。
俺の頭の下に夜霧の腕が入ってきて強く引き寄せられた。そうしながら首筋に優しくキスを繰り返す夜霧に、俺は潤んだ瞳を向ける。
「夜霧。……その、この前付けて貰った印が……」
「今更印など必要ないだろう?」
「………」
唇を噛む俺を見て噴き出した夜霧が、大きな手で俺の頭をくしゃくしゃに撫でる。
「そんな目をするな。ちゃんと付けてやるさ」
「ん。……あ」
皮膚を強く吸われた瞬間、苦痛と喜びで胸が震えた。続いて反対側の首筋にも、夜霧の唇から淡い快感と痛みが与えられる。薄汚れたTシャツが捲られ、胸元に、脇腹に……何度も、何度も……夜霧の「印」が刻まれてゆく。
「ふ、ぅ……夜霧……」
「これで益々、親父達には見せられない身体になったな」
薄く笑って俺を抱きしめる夜霧を力一杯受け止める。二人共既に息は上がっていた。俺と夜霧の熱で、狭い牢内の温度がぐんぐん上昇していくようだった。
「はぁっ……あ、あ……」
露わになった肌に唇を這わせながら夜霧が俺のシャツを脱がして行く。「う、ぁっ……」舌でなぞられる度に腰がうねり、どうしようもなく淫らな気分になってくる。
脱がした俺のシャツを放り、夜霧が体を起こして今度はジーンズのファスナーに手をかけてきた。俺も下から手を伸ばして夜霧のシャツのボタンを一つずつ外して行く。はだけた胸元が美しかった。薄らと割れた腹筋が堪らなかった。主導権を握っているのはいつだって夜霧の方だけど、今に限っては俺も夜霧の体に欲情しているんだろうと思う。
そんな俺を見下ろしながら夜霧が笑った。
「自分から脱がしに来るとは珍しい、お前も相当溜まっているらしいな」
「違っ、別にそんなんじゃ……」
「何も隠すことはない。こんな場所に閉じ込められていたのだから、当然のことだ」
「ち、違うってば」
暗い牢の中で良かったと思う。俺の顔は耳まで真っ赤だ。
「強がるなら意地でも吐き出させてやる」
「……んっ」
夜霧の手に両頬を包まれ、再び塞がれた唇の間で舌が絡み合う。何度も、激しく、蕩けてしまいそうなほど……。
「んっ、あ……あっ!」
熱く尖った乳首に夜霧の指先が触れる。
「お前の弱点は熟知しているからな、こうされては一溜まりも無いだろう」
「や、ぁっ……、あっ、あ」
指で揉まれるその部分から身体中に電流が行き渡るみたいだ。心地好いのにどこか切なくて、訳もなく涙が溢れてくる。
「ふあっ、あ……!」
被せられた唇の中で夜霧の舌が乳首を転がした。それと同時に、下着の隙間から夜霧の手が入ってくる。
「あぁっ……。夜霧、ぃ……あっ」
「まだ意地を張るか?」
乳首を舐める濡れた音。下着の中で弄られる卑猥な音。耳の奥から夜霧に犯されているような気分だ。プライドや羞恥心なんてどうでも良くなるくらい、堪らなく気持ちいい――。
「……んっ、うぅ……あっ!」
「本当にお前は良い顔をする。教えなくても、初めからな……」
俺の胸元から顔を上げた夜霧が満足げに囁いた。同時に俺の下着の中にあるそれを捏ねるように揉みしだき、先端を擽るように指を這わせてくる。身体は熱いのにゾクゾクして、震えと汗が止まらない。
「素質がある、ということなのか?」
「素質なんかないっ……。夜霧だから、ぁっ……夜霧にしかっ……あぁっ」
俺は夜霧の首にしがみつきながら喘いだ。
「他の男に見られたり、触られるのは……嫌だっ……」
夜霧がからかうように囁き返す。
「夕凪には一度、見られたけどな?」
「あ、あれはっ……!」
途端に夜霧が噴き出して、赤くなった俺の頬に口付けた。
「悪かった。もう二度と、お前を他の男に触らせないさ」
「……ほ、ほんとに……。あ……」
下着の中を散々弄っていた手が抜かれる。
自分の指に付着した俺の体液を舌で掬うように舐めてから、夜霧が薄く笑って言った。
「その証拠として、俺が頭首になったら――朱月。お前を嫁にしてやる」
「え? な、何言って……」
言われてふと気付いた。
夜霧は矢代家を次の世代に繋げるために、いずれは結婚して子供を作らなきゃならないんじゃないか……。どこかのお嬢様と夜霧が並んでいる所を想像するだけで、胸の奥がきゅっと締められたように苦しくなる。
「夜霧の後の……六代目は、どうするの……?」
俺が不安に思っている部分を察知したらしく、夜霧が得意げに笑って言った。
「そんな顔をするな、俺が女を抱かないのは親父も知っている。親父は計算高いからな、俺の次は斗箴を頭首にするつもりなんだろう」
「夜霧……斗箴に頭首の座を押し付けたくないって言ってたのに」
「今は、の話だ。斗箴がその年頃になる時には俺が全てを変えている。本家での暮らしも今よりずっと自由で、丑が原は県内一住みやすい村になっているはずだ」
本当にそんな未来が来たなら――いや、夜霧なら必ず実現する。
「だから朱月。安心して俺の嫁になれ」
「で、でも」
「口応えするな。お前は俺の言いなりになっていればいい」
嬉しくて体が震え出す。夜霧に身も心も任せられることの心地好さ、安心感。温かな水の中に浮かんで眠っているような、そんな満たされた感情が湧き上がってくる。
「……ふ、ぅ……、夜霧っ……」
冷えた肩に、首筋に胸元に、夜霧の唇が荒々しく這う。口付けられた部分から、身体中に夜霧の熱が浸透してゆく。
俺は夜霧の灰色がかった黒髪に指を絡ませ、太い息を吐きながら天井で灯るオレンジの明かりを見つめた。こんな場所でプロポーズされるなんて、何だか可笑しい。
「あっ……」
油断していたら不意に下着を下ろされて、俺の体がビクリと跳ねた。
「さすがにもう出来上がっているな。今にも零れそうだぞ」
「は、恥ずかしいから……言うなって」
「今更何を恥ずかしがる。朱月、頭を向こう側にして俺の上に乗れ」
シャツとジーンズを脱いだ夜霧を横目に俺も下着を全部脱ぎ、言われるまま夜霧の上に体の向きを反対にして乗っかった。
目の前には逆さまになった夜霧の下半身。下着越しに大きく盛り上がっている。それをいとおしむように撫でていると、夜霧が何の躊躇も無く下から俺のそれを握って頬張った。
「ふあっ、あ……!」
蕩けるような快感に頭の中がぼんやりしてくる。俺は震える両手で夜霧の下着をずらし、中から現れたそれを握って唇を寄せた。優しくキスを繰り返し、乾いた唇を湿らせてから先端をゆっくりと口に含む。中で舌を動かすと、夜霧の腰がほんの一瞬浮いた。
「はぁっ、あ……あっ……」
根元から丁寧に舌で撫で、更に裏側にも舌を這わせる。横に咥えて愛撫し、先走りの体液を残らず口に含む。夜霧の表情は見えないけど、時折聞こえる吐息混じりの声で悦んでくれているのが分かる。それが嬉しかった。
夜霧は俺のそれを下から咥え、更に指で無防備な俺の入口を擽ってくる。じれったくて、むずむずして、だけど気が遠くなりそうなほど心地好くて、俺は堪らず叫んだ。
「夜霧、好きっ……好き。あっ……」
「なるほど、こうされるのが好きか」
「違……、あぁっ!」
「そう焦るな。身体を俺の方に向けろ」
のろのろと身体を起こし、今度は向きを同じにして夜霧の上に倒れ込む。胸板に頬を寄せると夜霧の心音が伝わってきて安心した。俺と夜霧は今、同じ気持ちでここにいるんだ。
「朱月。痛かったら我慢しなくてもいい、無理するなよ」
「う、うん……」
夜霧らしからぬ優しい言葉に、俺は戸惑いながらも頷いてみせた。
夜霧の上で四つん這いになった俺の股の間から、夜霧の手が入ってくる。指先で入口をなぞられ、ほんの少しだけ中に入ってきてすぐ抜かれ、また少しだけ入ってくる。妙な異物感に眉が引きつったけど、間近にある夜霧の顔を見ているだけで痛みも恐怖も和らいでいくようだ。
「んっ。……はぁ、あっ……」
あてがわれていた指がゆっくりと俺の中に侵入してくる。できるだけ力を抜こうとして、変な声が出てしまった。
「痛いか」
「ん、……少し、だけっ……」
中を慣らすように夜霧の指が蠢いている。その度に夜霧の体を跨いだ脚が痙攣し、背中が波打った。指一本でこのザマだ。夜霧の熱を持ったそれが入ってくるとなったら、俺はどうなってしまうんだろう。
「い、ぁっ……! あ、あぁっ……」
「流石にキツいな……」
「だ、大丈夫……。絶対、平気だからっ……」
もはやその言葉は夜霧にというよりも、自分に言い聞かせているようなものだった。
「俺、大丈夫だから……」
身体を支えていた腕に力が入らなくなる。俺は尻を突き出したままの格好で夜霧の胸に上半身を倒し、強く唇を噛んで目を瞑った。
「………」
俺の震えはとっくに伝わっているはずだ。……大丈夫。怖くて仕方ないけれど、夜霧以外の男に犯される屈辱や絶望に比べたら――。
「怖いか、朱月」
言われてハッとする。気付けば、背中に回された夜霧の腕が俺を優しく抱きしめていた。
「う、ううん。そんなことは――」
「………」
夜霧がゆっくりと身体を回転させ、震える俺を畳の上に組み敷いた。そのまま片脚を持ち上げられ、恐怖にヒクつく入口に夜霧のモノの先端があてがわれる。
「夜霧っ……」
「心配するな。……それなりに俺も、心得ている」
夜霧の発言には少々引っ掛かるものがあったけど……今はそれについて詮索している場合じゃない。俺は一つ覚悟を決めて唾を飲み下し、夜霧に向かって頷いた。
「力を抜け。俺の顔だけ見ていろ」
「わ、分かっ……」
夜霧がグッと腰を入れた瞬間、俺の下半身に激痛が走った。鋭い痛みはその部分からじわじわと身体中に広がり、無意識のうちにそれを拒絶しようとして脚に力が入ってしまう。
「う、ぁっ……あぁ、やっ……!」
夜霧が俺の頬を撫で、唇を寄せてくる。そうされるとまた安心感から余裕が生まれて、身体の強張りが緩んできた。
「あ、あ……」
さっきよりも強く、夜霧が腰を入れてくる。
「あ、ぁっ……! よ、夜霧っ、……」
初めの激痛よりも一段と強い衝撃が身体中を駆け、俺は目を見開いて間近にある夜霧の顔を見た。
「くっ……」
夜霧も俺と同じように苦悶の表情を見せている。だけどその顔はどこか満足げで、不思議な美しさがあった。
「……安心していい、朱月。お前の生贄としての価値は完全に無くなった」
言葉の意味するところはすぐに理解できた。
今この瞬間、夜霧が俺の中に――。
「う、嘘っ……? ――あっ、あ、あぁっ!」
夜霧が腰を前後に動かし始める。
「いっ、あ……! 夜霧っ……! あっ、あぁっ!」
打ち付けられる度、痛みを感じるより先に声が出てしまう。夜霧の目を見つめていても、自然と涙が溢れてきてしまう。
「あぁっ……。あ、あっ……夜霧……」
「……朱月……」
「ん、ぅっ……! あぁっ!」
「朱月……」
腰を前後させながら何度も夜霧が俺の名前を呼ぶ。俺には分かっていた。そのうちに、その名前が変化するということを。
「夜霧っ……」
「……緋月」
はっきりと聞こえた俺の名前。この村に来てまず初めに奪われた、俺の本当の名前……。
「緋月……」
「呼ばないで……。俺は、朱月だからっ……、呼ばないで……!」
喘ぐように懇願すると、夜霧は少し複雑そうな顔をしてから口元を弛めた。
「悪かった。朱月……」
「う、あっ……夜霧っ、ぃ……」
緋月の名前を捨てた訳じゃない。だけど夜霧と初めて会った時から今まで、俺は朱月として存在していたんだ。無理矢理に凌辱された時も、夜霧が怖かった時も大嫌いになった時も、はっきり好きだと告げた時も……。
俺は今までずっと、夜霧の「朱月」だった。そしてそれはこれから先も変わらない。
永遠に、夜霧だけの朱月でいたい。
「朱月」
腰の動きはそのままに、夜霧が俺の頬に張り付いていた髪に触れた。それを優しく耳にかけ、唇が寄せられる。
「あっ……」
耳の縁をそっと舌で撫でられ、つい夜霧の肩に置いていた手に力を込めてしまった。そんなことにはお構いなしで、夜霧は俺の耳の形をなぞるように舌を這わせてくる。同時に開いた両脚の間にあるそれをゆっくりと扱かれ、いよいよ余裕がなくなってきた。
「は、あっ、……夜霧……。あ、……」
耳を舐める濡れた音がダイレクトに伝わってきて上半身がゾクゾクする。かぶりを振って夜霧の舌から逃れると、唇が離れる寸前、再び耳元で低い声が俺の名前を呼んだ。
「朱月」
どんな高価な物よりもずっとずっと価値のある、その声。
「愛してる」
その、言葉――。
「よ、っ……」
驚く暇も喜ぶ暇も、涙する暇すら俺に与えず、夜霧が俺の唇を強く塞ぐ。
「んっ、んぅ……。ん、ぁ……」
涙は遅れて溢れてきた。
「う、……。っく……、よぎ、り……」
ずっと欲しかった言葉を告げられ、体が繋がったままで激しく口付け合う……自分で思ってるよりも今の俺は綺麗なものじゃないだろう。汗と涙で顔はぐしゃぐしゃだし、上手く息ができないために唇の隙間から涎が垂れてくる。夜霧に扱かれているそれだってもう限界だ。
それでも、――「愛してる」――涙が止まらない。
「お、俺も……好き。夜霧のこと、大好きっ……!」
夜霧の手の動きが速度を増す。もともと我慢に我慢を重ねていたんだ。当然これ以上耐えられるはずもなく、俺は両手両足で夜霧にしがみつき、すぐそこまで押し寄せてきている快楽の絶頂を受け入れた。
「う、あっ……夜霧、イく……っ!」
その瞬間はいつでも、頭の中が真っ白になる。
「俺も……」
俺の身体を強く抱きしめながら、夜霧もそのまま中で果てた。熱い体液が俺の身体中に行き渡るような、そんな満ち足りた想いで俺の中が一杯になる。
「はぁっ……、あ……」
「………」
呼吸を荒くさせながら、俺達は長い間繋がったままで互いを見つめ合った。
汗で濡れた身体。夜霧の匂い。体温、視線、心臓の音――。
夜霧の全てが、好きで堪らない。
「夜霧……」
「うん?」
「俺、夜霧のこと信じてるから……。ずっと、付いて行くから……」
「付いて来る必要なんて無い」
大きな手が優しく俺の頭を撫でる。
「……お前は、俺の隣を歩けばいい」
何か言おうと思ったけど、声が掠れて出てこない。代わりに力無く微笑んで頷き、そのまま夜霧の唇に口付ける。
しばらくの間キスをしてから、俺達は顔を見合わせて笑った。
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