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「お前その恰好はどうにかならんのか……」
呆れた顔でこちらを見てくる千堂 センパイにわざとらしくにへっと笑ってみせる。
「ならないですねぇ」
自分の格好がこの学校において異端とされるものである自覚はあった。でもしょうがないじゃん、この方がかっこいいんだから。ごつごつとしたピアスにじゃらじゃらとしたチェーン。その他シルバーアクセサリー。髪は脱色して銀色に。指定の制服は着ずに私服を着用。というかそもそも買ってない。誰が着るかあんなだせぇブレザー。進学校らしいというか、なんというか。一応進学校であるこの高校の制服は、例に漏れずかっこわるいものだった。
だからといって風紀委員長であるセンパイがそれを容認してくれる筈はないのだが。
ぷぅ、と口に含んでいた風船ガムを膨らませるとセンパイの顔が引き攣る。
「う~お~ぬ~まぁ~」
「ふぁ、ふぃふぃふぉっふぉ」
「舐めてるのか、舐めてるのか魚沼……!」
ぱちん、風船が割れる。もごもごとガムを口内に回収し、首を傾げる。
「ガムは噛むものですよ?」
「ガムの話じゃねーよッ!」
「じゃ、何スか。俺の話ですか。こんな格好してるやつが舐めてない訳ないじゃないですか。少しは考えてくださいよ」
「俺が悪いのかッ!?」
ショックを受けた顔をするセンパイに、「当然そうでしょう」と返す。そんな訳ないだろう。
「センパーイ、もういいですか、いいですね。ありがとうございましたー」
「あ、待て魚沼ッ! 話はまだッ」
「しつれーしましたー」
一方的に言い放ち風紀室を後にする。中庭に差し掛かったところで身を潜めていた彼は姿を現した。
「いいのか、あんなに勝手に」
「ダメでしょ、目上の人に対する態度じゃないし」
クスクスと笑ってみせると彼は不可解そうな顔をする。
「わっかんねーな」
「それ言うなら俺だって分からないよ、マーサ」
「何がだ」
「お前、何で幽霊のくせにセンパイといる時隠れてたんだよ」
きょとん、としたマーサこと真麻 は空中でくるりと一回転をし、うーんと唸り声を上げる。
「……部屋の隅でフヨフヨしてるとか、幽霊っぽくて楽しいだろう」
「そんなことしなくてもお前はれっきとした幽霊だよ」
やっぱり意味なんてなかったのか。知ってたけど。
「あ、笑うなよ。じゃあお前があんな態度を取った訳を教えろよ。俺だけ訳を言うんじゃ不公平だろ」
「不公平かぁ~?」
「不公平だろ。どう考えても」
そうだろうか。
俺の右上を漂いながら付いてくるマーサにちらりと視線を寄越すと片眉を吊り上げこちらを見ている。どうやら折れてはくれなさそうだ。
「……お前は、幽霊が見えるなんてトンチキなことができる俺がまともに人と関われるとでも思ってるのか」
「それ、は」
しゅん、と落ち込んだ素振りを見せるマーサに若干呆れる。言葉を続けようとしたところでクラスの女子に「魚沼くーん」と声を掛けられる。
「はーい堀さん何~?」
「化学の課題回収するから出してー」
「机の中に入れてるから持ってってくんね? 俺次ふけるから」
「もぉ~。しょうがないな。勝手に漁るよ?」
「うん、よろしく」
手を合わせてみせると堀さんは苦笑いをしながら了承してくれる。
「そういえば魚沼くん、さっき誰かと話してたの? 誰もいないように見えたけど」
不思議そうに問う堀さんに、俺はニヤリと笑ってみせる。
「ゆーれい。俺見えるんだよね~」
「もぉ~揶揄わないでよ。じゃあ、課題持ってくからね」
「うん、よろしく~」
パタパタと走り去っていく堀さんに手を振っていると、マーサが俺の襟を掴み揺さぶってくる。無論、幽霊だからすり抜けてしまうのだが。
「お前!! 超馴染んでるじゃないか!! 何が『まともに人と関われるとでも思ってるのか』だよ! くっそ関われとるじゃねぇか!!」
「何言ってんだよ。当たり前だろ。最低限の人望さえありゃ大抵のことは何とかなるんだよバカか」
普段から俺に憑いてるくせに何でンな簡単な冗談も分からないのか、こっちの方が驚きだ。ギャグが通じなくてこっちの方が焦ったわ。
掴めもしない襟をぐいぐいと揺さぶるマーサを適当にいなす。
「結局! 何であんな態度取ったんだ!」
最早聞きたいというより意地になっているだけな気がする。
「俺曰く~ある程度適当にした方がぁ~期待を寄せられなくて楽だそうですよ?」
「アホくさ」
「あんなに聞いてきたくせに一言で片付けやがった」
「大体あの先輩がお前に期待とかしてる訳ないだろ」
「いやいや、分かんないよ~?」
肩を竦めながら言ったところでピンポンパンポーンと放送が鳴る。あー、あーとマイクテストをする声は先程風紀室で聞いたばかりだ。
『一年一組、魚沼圭一。くそ、一が多いな。魚沼圭一。至急風紀室に戻るように。お前に頼みたいことがある。至急戻るように』
ぶつん、と元電ごと落としたかのような乱暴な音と共に放送は終わった。沈黙が廊下を占める。いつの間にか授業が始まったのか廊下から人気は消えていた。
「……な?」
俺の言葉に、頭上を漂うマーサは嫌そうな顔をした。気持ちは分かる。
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