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8/13(火) from宗平

「ざけんじゃねーぞ!てめぇ!」 少し低音だが、明らかに女の子の声だと分かるそれは映画館から少し離れた狭い路地裏から聞こえてきた。 2,3人ギャラリーが集まっていたのを押して顔を覗かせると、スカートを履いているにも関わらず舞山さんの横を蹴ったような形で壁に脚をつける優奈ちゃんが見えた。 「てめぇがそんなんだからこっちは犯罪者にでもなった気分だよ!いい加減にしろよ!」 と舞山さんの胸倉を掴んだ優奈ちゃんを見て堪らず春人が2人を止めに入る。 俺はギャラリーを退散させてから2人の元へ向かった。 今まで俺に接してきた大人しく控えめな印象と真逆の言葉遣いと表情でがなり立てる優奈ちゃんは、制してきた春人を「外野は引っ込んでろ!」と怒鳴り弾き飛ばす。 反動でよろめいた春人を支えて、未だ怒り心頭な様子の優奈ちゃんに声を掛ける。 すると、漸く俺に気付いたらしい優奈ちゃんが先程まで怒りに赤くさせていた顔を青くする。 「やだ…え?宗平くん。いつから…。」 俺の知る普段の声で焦ったように服や髪を直しだす彼女に舞山さんがハッと笑った。 「優奈、ほんとにその人のこと好きなの…?」 その言葉にバカにされたようで少しムッとしてしまうが、俺より先に反応したのは優奈ちゃんだった。 1度ガンッと舞山さんの横の壁を蹴ると、「黙ってろ。」と吐き捨てる。 なんというか…このギャップはかなりの衝撃だ。悪い方の意味で。 優奈ちゃんは特別気になるという訳でもなかったが、このまま親しくなっていけばもしかしたら付き合うことになるかもしれないと思っていた。 だが、言葉遣いがどうのとかでなく、ここまで完全にキャラクターを偽ることができるその技術と心持ちが少し恐ろしかった。 とりあえず舞山さんと優奈ちゃんを一緒に居させていてはいけないと思い、舞山さんの元に残ると言った春人を置いて優奈ちゃんと2人で映画館に戻る。 春人は…今日も舞山さんと2人で出かけていたみたいだ…。 先日俺が誘った時にその日は用事があるからと断られていたのだが…そうか。舞山さんと出掛ける用事があったのか、と納得し少し心をザワつかせる。 やっぱり、春人は舞山さんと付き合っているのか…? この前、花火の帰りに考えついたこと。 もしこれが事実だとするのなら今度こそ春人のあの痕の理由に合致するのではないだろうか。 彼女ではなく、彼氏。 裕大の笑いは、同性愛者に対しての冷笑。 やたらと締め付けられた手首は…本当にただのファッションだったのかもしれない。 そして相手は…舞山さん。 多少の違和感こそあるが、今度こそ全てが当て嵌って見えた。 だが、確証なんて無い。 春人のことを、俺はまだ何も知らない。 優奈ちゃんとはデートを続行する気にもなれなかったのでチケット代は無駄になってしまったがその場で別れ、その後気になって路地裏に戻ってみたのだがそこに残してきた2人の姿は既になかった。 俺の知らない春人の1面が増えていくような、そんな気がした。

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