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第1話
【カツカレーと恋】
「君は本気で好きだったんだな」
東(アズマ)は男にそう諭されたが、認めなかった。
「だーかーらー。っあーもー」
東は呂律の回らなくなった舌で尚も続ける。男はそれを静かに眺めていた。よくあるチェーン店の飲み屋。2人の前には使用済みの竹串が竹筒に何本もある。食べかけの揚げだし豆腐はすっかりだし汁を吸い、豆腐にぐずぐずとまとわりついていた。
男2人、ただ飲んでいるだけなのに、その姿は何やら危うげだ。
なにせ男が東を見る目が甘い。まるで可愛い女の子を愛でているようだ。
「ねーえー、じろーさーん、オレくやしいよー」
東は男の肩にもたれかかった。そしてしばしの沈黙。男は戸惑うでもなく、東の髪をそっと撫でてから、店員に精算の目配せをした。
「っふう〜」
東は床にどっかりと腰を下ろした。男、緒川治郎は冷蔵庫からペットボトルを取り出し、グラスに注ぐとローテーブルにコトリとおいた。
「飲めよ」
東は俯いたまま、グラスに両手を伸ばした。
「ねぇ……」
「ん?」
東は緒川を見上げた。目にかかる前髪の隙間から、一瞬キラリと目が光った。
「オレ…何でこんなにくやしいんだろう?やっぱアイツのこと嫌いになれない…」
緒川は両手で東の前髪をかき分け、その顔をじっと見つめた。酔って少し赤くなったまぶたが、とろりと目を溶かしている。やや焦点の定まらないその眼差しは、緒川ではなく他の誰かを見つめているようだった。緒川はふっと頬を緩めると、ぽふっと東を抱き寄せた。
「いいんだよ、今はそのままで。東は東のままでいいんだよ」
そして緒川は東にそっと口付けた。顔が離れると、東は一瞬ぽかんとしていたが、すぐにまたとろりとした笑みを浮かべ、緒川の胸に頭を当てた。
緒川は東を抱き寄せたまま、そっと床へ倒れこみ………
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