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待ち人来る(2)

 空港から車を走らせること二時間くらい。ようやく地元まで戻ってきた。  亮汰の住むマンションがあるのは、大通りから曲がり、市道へと入る。  そこには昔、薄暗く不気味な森があった。小学生の頃、そこで白い影を見たとか、宇宙人が居たとか、そんな噂があった。  夏に肝試しをしようということになり、夕暮れ時にその森に行ったが怖くて途中で逃げてしまった、そんな思い出がある。 それが今では開けてマンションが建ち並ぶ。 「ここってね、小学生の頃にオバケがでるって噂のあった森があった場所よ」 「あぁ、あのオバケの森か」  懐かしいなと隆也が笑う。やはり、夏に肝試しにいったんだと言って笑った。 「あれ、実家ってここの道を通るんだっけ?」 「行けば解るわ」  と言うと、車はあるマンションの地下駐車場へと入っていく。 「え、マンション?」  引っ越しをしたのかと口にするが、 「ふふ」  含み笑いをして質問に答えぬまま、マンションの地下駐車場へと入って行く。  車を止めて外へと出ると、ついて来てと桜が先に歩いていく。エレベーターで五階へ昇り、一番奥の部屋へと向かい鍵を開けた。 「さ、入って」  とドアを開け、隆也はスーツケースを玄関に置いたまま上へとあがる。  一番奥にリビングダイニングキッチン。シンプルな部屋はどうみても女性というより男性が好むような内装だ。 「ここって……」  隆也が何かに気が付いたようで、ゆっくりと亮汰の方へと顔を向ける。 「当たり」  そう、ここは亮汰の住まいだ。 「実家はね、私の家族が一緒に住んでるのよ。だから隆也の部屋がないの」  桜の旦那は婿養子で、二人の間に三人の子供がいる。元々、親とは一緒に住むつもりだったとかで、どうせならと家を建て替えて広くした。  建て替えが終わった後、亮汰の家族が招待され、その時に部屋は全部見て回った。 「家のことは全て桜ちゃんにまかせっきりだったし、そのことに関しては俺は何もいわないよ。そういうことなら、当分の間はホテルに住むよ」  流石に亮汰に悪いというが、 「俺から言い出したんだ」 「え、亮汰が?」  流石に本人を目の前にして断りにくいと思ったか、額に手をやりため息をついた。 「そうよ。隆也が居た頃と変わってしまったから、不便がないようにってね」 「そうなんだ」  どこか困ったような、そんな表情。もしかして有難迷惑というやつだろうか。 「あのさ、隆也さんが一人がいいっていうなら……」 「いや、折角の申し出だもの。お世話になるよ」  亮汰の言葉をきるようにキッパリという。 「そうしなさいな。私もその方が安心だもの」 「はは、俺は子供かよ」  母親みたいだと桜にいうと、こんな大きな子供はいないと隆也の背中を叩いた。 「いてっ。桜ちゃんの馬鹿力」 「うるさい。亮汰ぁ、ごめんね。こんなおっきい子供の面倒を押し付けて」 「いいよ。桜ちゃんにはお世話になっているし」  隆也がいなくなってから桜は亮汰のことをよく気にかけてくれた。それでどれだけすくわれたことか。だから桜の頼みは断れない。 「ちょっと、二人とも」  流石に情けない顔で隆也が見ている。桜は亮汰と顔を合わせて笑い、 「ふふ。じゃぁ、私は帰るから」  と隆也の肩を叩いた。 「うん。桜ちゃん、ありがとうね。明日、実家に行くから」 「わかった。お母さんに言っておくわ」  玄関まで桜を見送り、手を振って別れると二人はリビングへと向かった。

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