42 / 42
告白・5
「おはようございます!」
「おう桃陽、朝から元気だな。……それに引き換え、雀夜はどうした?」
俺はニッと笑って松岡さんに向かってピースした。俺の後ろで、雀夜が一つくしゃみをする。
「こいつの風邪がうつった……」
「俺のウィルスだから、たぶんしつこいよ」
「心配するな。全力で追い出す」
「どうかな」
そんな俺達のやり取りを遠目で見ていた遊隆が、少しだけ気まずそうな顔をしながら近付いてきた。
「大丈夫か、雀夜……」
「おう」
「本当、殴って悪かった」
「……別に効いてねえし。ていうか、お前を怒らせた俺が悪いんじゃねえの」
無愛想に雀夜が言うものだから、遊隆はますます暗い顔になる。
俺は遊隆の手を取り、極上の笑みを浮かべて言った。
「大丈夫。雀夜のこれは、照れてるだけだから!」
な! と雀夜に同意を求めると、雀夜はプイとそっぽを向いてしまった。やっぱり照れてる。
「マジで怒ってねえの?」
不安げな顔で耳打ちしてくる遊隆に、俺は声をひそめて笑いながら言った。
「それより遊隆、その時の話、後で詳しく聞かせてよ」
「も、桃陽っ……」
「くだらねえこと喋ってねえで、行くぞ!」
どうやら聞こえていたらしい。雀夜は不機嫌そうに、だけど例によって少しだけ赤くなって俺の腕を引いた。
「おーい、雀夜と桃陽。準備できたら一旦撮影部屋に集合しろー」
「了解です、今行きまーす」
俺の手首を掴んだ雀夜の手が、少しずつ下がってきているのに気付いた。触れ合った手と手。雀夜の指と、俺の指先。
「今日は写真撮りだからな。お前と俺の初仕事だ、気ぃ抜くんじゃねえぞ」
「うん。わ、分かった」
仕事も恋愛も、未来も。何が起こるかなんて分からないのだから、結局のところ、今後どうなるかは自分次第なのだ。この先ももちろん怒ったり泣いたり、大きな挫折やどうしようもない絶望。いろんなことを経験するだろう。
だけど、隣に雀夜がいてくれるなら。
「終わったら俺の家で反省会だな」
「は、始まる前から反省会の予定?」
例え凶の目が出たって、そんなものいくらでも覆せる。
「雀夜と桃陽、入ります!」
これから先もずっと、繋いだ手が離れないように。
俺は握った手に小さな祈りを込め、その不機嫌な横顔を見上げて笑み零した。
終
ともだちにシェアしよう!