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オトナノキス

CMプランナーの山部と磯村は頭を抱えながら、その資料と睨めっこをしている。 クライアントからの仕事は新製品の清涼飲料水のCM。 【本日はキス日和】 このキャッチコピーで爽やかに、とディレクターから指示が来た。 三十歳過ぎのおじさん二人には難題のキャッチコピー。 時計は二十三時を指している。こんな時間まで執務室で二人残っていた。 「もういっそのこと、実践してみる?キス日和」 磯村が頭を抱えたままポツリと言う。 「は?誰と」 「俺とお前」 椅子から立ち上がり、山部の方に近づいてきた。 まてまてまて、と慌てる山部。 「…俺は気にならないよ」 磯村に反論しようとした途端に唇を奪われた。 触れただけのフレンチキス。 「…!」 柔らかい唇の感触に山部は背中がゾクリとした。 それは不快とかじゃない気がする。 「女の子の気持ち、わかった?」 磯村が山部の顔を触りながらそう聞いてきた。 「わ、わかんねぇよ!」 「じゃあもう一回」 顎を上げてまた唇を重ねる。 「ん…っ」 今度は、フレンチキスではなく。 「ね、口開けて」 そう囁かれて山部は素直に口を開ける。 隙間から磯村の舌がチロチロと入り込んできた。 深夜の執務室で二人キスをする。 ちゅくちゅくと音が響く。 長い長いキスの後に磯村が耳元で囁いた。 「この歳じゃもう爽やかになんて、出来ないよね」 【了】

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