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第8話

明け方のプライベートビーチは静かだ。 ハイヒールを途中で脱ぎ捨てて、オレはしっとりした砂浜を一人で歩いた。引きずらないようにと裾を持ち上げたのは最初だけ。長いドレスの裾は、オレの足跡を消すように砂をならしていく。 背中の紐は解けたまま。でも、誰も見てないから問題ない。 比呂(ひろ)(たくみ)に何度も求められ、目覚めた時にはカーテンの隙間から白い光が差していた。男3人が横になっても余裕のあるベッドからそっと抜け出して、オレは体液で汚れ乱れたドレスのままでビーチに出た。 見上げると、丘の上には昨日の教会がある。2人が永遠の愛を誓い、祝福された場所。そしてその上には、幸せな2人がまだ眠っているだろう、スイートルームの窓が見えた。 ずっと幸せでいてほしい。 今は心からそう思う。 比呂のことも匠のこともすごく好きで、いつかオレを好きになってくれないかなって思ってたけど。 オレはただ、「誰か」に愛されたかっただけだから。 信頼して、尊敬して、唯一無二の存在だと認めあいたい。 愛した人に愛されたい。 でもオレのその相手は、比呂でも匠でもない。 それが、やっとわかったんだ。 昼間はカップルと家族連ればかりのビーチも、時間をずらすだけで別世界だ。 1人でジョギングする男。 波間から手を振ってくる男。 その気になれば出会いなんて、いくらでも転がってるんだよな。 オレはドレスの肩紐から腕を抜き、生地をウェストで折り曲げた。裸の胸に、朝の潮風が気持ちいい。その姿で手を振り返したら、海の方からピュウッと甲高い指笛が聞こえた。 なんだか嬉しくて、自然に笑みがこぼれる。清々しい気分だ。 もしオレだけを愛してくれる人ができたら、もうタチでもネコでもいいやって、今は本気で思ってる。 身体よりも心が強く繋がってる。 いつかオレにも、そんな相手ができたらいいな。 そしたらその時は、勝ち誇って2人に言ってやろう。 もうおまえらにつきあってやんねーよ! ってさ。 【了】

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