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第9話 不要の子供
「望まないって……」
まるでドラマのような真実を突きつけられ、日向は言葉を失った。
「そんなことよりもさ、久しぶりににいちゃんと遊ばないか?」
「……嫌」
「あんなガキよりも日向を気持ちよくしてやるよ。日向の良い所、にいちゃんは全部知ってるからな」
「嫌っ!」
この男は悪魔だ。自分の兄だなんて信じられない。
「助けて!」
日向は力の限り叫んだ。今は夕食前で、階下には両親がいる。もちろん聞こえているはずだ。
それなのに、階段を上がる足音も、うるさいと注意する声もない。
「父さん! 母さん! 助けてっ!」
どれだけ無視されようと、どれだけ両親が兄を溺愛して日向を無碍に扱っていたとしても、この異常事態に気づかないはずがない。
「助けて――っ! お願い! 助けて!」
「……わかっただろう?」
日向の学生服を脱がせながら、月翔が悲しげに言った。
「前に行ったよな? お前を傷つける全ての奴らから、俺が守る。日向を泣かせる奴は許せない。そうだろう、日向? アイツらは日向のことなんかどうでもいいんだ」
「そんなことない! 僕だって――」
「愛されている? ある意味そうかもしれない。俺に過干渉だった分、お前には放任主義を貫いているからな。俺はアイツらと違って優しいから、あの女の中絶の件、俺なりに真剣に考えた。向こうは知らんが、俺はアイツらにも相談したんだ。そうしたら、何て答えたと思う? 金は出さない。ただそれだけだ……っ」
むき出しになっていく素肌と同じように心もすうっと冷めていく。無関心な両親より、過剰なまでの執着を向ける月翔のほうが、日向のことに向き合ってくれていたなんて。
これから犯されようとしているのに、日向は抵抗を止めた。
覆い被さってくる月翔が顔をぐしゃぐしゃにして泣いていたからだ。
「日向……あの女の中絶費用は俺が立て替えたんだ。わかるだろう? お前は俺に借りがある……俺だって、俺だって、こんな卑劣なやり方でお前を縛りたくなかった……」
月翔は混乱している。感情と言葉が噛み合っていない。
「にいちゃんのせいじゃないよ……」
日向はそう声をかけるのが精一杯だった。
「俺を慰めてくれるか?」
「うん」
「日向を守れるのは俺しかいないんだ……わかってくれ」
「うん」
「一生俺のものだ」
日向は月翔に身も心も捧げた。
相変わらず乱暴で快楽に程遠かったが、月翔の混乱を抑えられるのは自分だけだというのも痛いほどわかっていた。
それに日向は月翔との時間が残りわずかに迫っていることも知っていた。
あと半年。
あと半年耐えればいい。
新三年生になると同時に、月翔はひとり暮らしをすることが前々から決まっていたのだ。そのためにアルバイトを掛け持ちして、月翔は貯金をしていた。
すべては毒親である両親から逃げるために。
日向は月翔の企みを心の底から応援していた。
月翔さえいなくなれば両親の愛情はすべて日向に注がれると信じているからだ。
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