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廃墟にて
警史とともに風紀改善協会のダラスがモリーハウスの駒鳥亭に突入したとき、そこにいるのは一人の美しいモリーだけだった。蒼いダマスク織りのステイズと、微妙に色合いの違う青のペチコートを重ねて纏っている彼女は、長い金の髪を床に流して、ひとり廃墟となったモリーハウスにいた。
青い眼は虚空に向けられ、ダラスたちを見つめることすらしない。彼女の腕には白い髑髏が抱かれ、薔薇色の唇は美しい旋律で物悲しいアリアを口ずさむ。
これは、あのときの少年だとダラスにはすぐわかった。愛しいルカをこのモリーハウスへと導き、堕落させた悪魔の子だと。
ウェストミンスター・スクールに共に学んだ自分たちがその道を踏み外したのはいつのことだろうか。彼女は、いや彼、エドワードはそのきっかけをつくった人物なのだ。
この美しい悪魔に魅入られ、ルカは破滅の道を突き進んだ。
「ロビン・フォーカスをどこへやった?」
アリアを口づさむモリーにダラスは語りかける。ダラスの言葉にモリーは歌をやめ、自らの持つ髑髏を掲げてみせたのだ。
そうして彼女は嫣然と微笑み言葉を紡ぐ。
「ロビン・フォーカスは僕と共に、ここにいる」
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