23 / 33
告白
赤い髪を翻し、その人物は萌黄色の鋭い眼でルカを睨みつける。その瞬間、ルカの顔に鋭い衝撃が走った。体が吹き飛ばされる、そう気がついた時にはもう遅く。ルカは床に倒れ込んでいた。
辛うじて顔をあげると、床に伸びているダラスの姿が視界に映りこむ。そのダラスを蹴る長身の人物がいた。尼層の服に身を包んだ、駒鳥亭の女主人だ。
彼女の腕にはエドワードが抱きあげられ、その眼差しはルカを射抜かんばかりに睨みつけている。
「私の息子に何をしていた?」
低い声が、廃墟に響き渡る。
その低い声を聞いて、ルカはぞくりと快感が体を駆けのぼるのを感じた。目の前にいる女性が、女だと思えなかったからだ。
痛みの走る頬を庇いながら、ルカは立ちあがる。その顔には溢れんばかりの微笑みが広がっていた。
「あなたはなに……? マダム」
「ただの尼僧だよ。ついでにこの子の保護者だ」
片手で器用にエドワードを抱き寄せ、マダムはもう片方の腕をそっとルカへと差し出す。マダムの手には、小さな拳銃が握られてた。
「ここであったことを忘れて立ち去るのなら見逃してやる。坊やはさっさとお帰り」
「いやだ……」
ルカは首を振る。
こんなにも創作意欲を掻き立てられる者たちに出会って、それを忘れろだなんて死ねと言われているのと同義だ。
何より、このマダムの美しさに気がつけなかったのはなぜだろう。こんなにも長身で男のように引き締まった体を持つ女がいるだろうか。
「いやだ。僕はあなたたちが欲しい。あなたたちを描きたい。そのためなら何だってする……。僕は悪魔の子だもの。あなたたちソドムの民と共にあるべきだっ!」
大声がルカの口からはっせられていた。その声を聞いたダラスが呆れた様子で顔をあげてくる。こちらに銃を向けるマダムは、唖然とルカを見つめることしかできない。
「いいよ、僕を殺してもいい。でも、条件がある。あなたたちを描かせてっ! 美しいエドワードを描かせてっ! そしたら僕はもう、地獄に落ちたってかまわないっ!」
両手を広げ、ルカは叫ぶ。あらん限りの幸福な笑みを顔に張りつけながら。その笑顔を見つめるマダムは顔を引き攣らせ、マダムの腕の中にいるエドワードは怯えた様子で体を震わせる。そんなエドワードとマダムに嫣然と微笑みながら、ルカは言葉を紡いでいた。
「描かせてっ! あなたたちを描かせてっ! それができたら、僕は死んでもいい!!」
ともだちにシェアしよう!