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突然現れたワンコ 1
――コイツと出会ったのは約1ヶ月前のことだ。
***
よく晴れた日。のどかな昼休みの屋上で昼飯を食べていると、突然パーンと乾いた音が響いた。
「雄一郎 くん、サイテー!!」
真っ赤な顔をして俺のことを叩いたのは、さっきまで楽しく一緒に昼飯を食ってた彼女。
本当に今の今まで笑っていたはずの彼女と、なぜこんなことになったのか理解できずに呆然としていると……。彼女はその大きな目から涙をポロポロ流し、一言だけ告げた。
「もう、別れる……」
…………えっ! 今なんて?
「はぁ?えっ、別れる?って……えぇ――!?」
なんで!? どうして!? 何がどうしてこうなったんだ!?
全く状況がわかっていないのにどうして別れなきゃいけないんだと、オロオロしながら彼女の腕を掴んだ。
「なんで? 俺のこと嫌いになったの?」
すると彼女からはまた理解できないことを言われる。
「……嫌いになったのは雄一郎くんの方でしょ?もう辛いの」
いや、待て待て。
俺は一度も嫌いになったなんて言ってないし、好きなんだけど。
すると彼女は涙を一杯ためた目で俺のことを見上げた。
「理香のこと……80くらいしか好きじゃないって言った」
「は? そ、それは理香ちゃんが俺のことを100って言ったからで」
「前にも同じこと聞いたもん! でも、いつも理香より低い数字しか言わなかったもん。雄一郎くん『好き』って言葉で言ってくれるけど、なんかその重さとか感じられなくて自分ばかり好きみたいで辛くて耐えられないの」
そう言って自分の弁当箱を持って去っていこうとする彼女の腕を強く掴んで引き寄せた。
「待ってよ。俺は好きだって!」
そうは言っても彼女の決意は強く、それが眼差しに現れていて思わず手の力を緩めずにはいられなかった。
「……雄一郎くんの好きは、なんか軽い。ごめん、もう無理なの」
そして彼女の足音が遠ざかっていく。
彼女が去っていった屋上で、フェンスにもたれかかりながら力なく座り込み空を仰いだ。
そして流れる雲を眺めながら、心のなかで『あぁ、またか……』と思う。
こうやって振られたことは、実は今回が初めてではない。
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