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第9話

 いつもどこか違う場所を見つめる瞳に映りたいと思っていた。虚ろな瞳に映りたい。ただ、それだけの願いだった筈なのに……と嘆いても俺を見つめることはないのを知っている。 生粋のアルファの家系に生まれた俺は欲しいものを手にいれてきた。 ただひとりのオメガ以外。誰でも掌握は簡単だと思っていた時に現れたその男に興味をもった。 「……僕は君のものじゃない」 最初に映れたのは「嫌悪」。 オメガなのだからはやく番を作りたいのではないかと思い、声をかけた時だった。 静かな嫌悪。 声をあらげない強かな声。 それでも、その瞳に映れた事が嬉しかった。 もっと映りたいと、感情をぶつけてほしいと思った。 だから、俺はお前を「番」にした。 首筋を噛むことはない「番」は自分のフェロモンを纏わせてフリーだと判らなくさせる。 それだけでも、十分だった。発情期になれば情愛を交わし、ゆっくりと、ゆっくりと、愛を勝ち取ろうと思っていた。  あの日、街でみた君の瞳を見るまでは……。

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