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第3話 記憶(2)

 翌日、僕は予告した通り昨日の場所へきていた。 (ああは言ったけど、本当にまだいるのかな。)  少し期待も交えつつ、心の中でそう呟く。 「・・・やっぱりいないかあ。」  見ると、思った通り、昨日の悪魔はいなかった。 「でも折角来たんだし、もう少しゆっくりしていこうかな。」  少しの意地と、諦めと。入り混じった感情で動いた。  ガサッ。不意に、茂みのあたりで音がした。 「・・・!来てくれたんだね。おいで、他の傷も治してあげる。」  見ると、昨日の悪魔が茂みの中からちょこんと顔を覗かせていた。 「じゃあ、治していくね。」  ぽうっと、昨日治さなかったところにも光を滑らせ、細かい傷を治していく。 「・・・」 (僕、何時の間にこんな悪い子になったのかなあ。)  これは禁忌だ。天使の掟を破った僕は、罪人だ。きっと、その烙印が押される。逆十字の紋章が。 「はい、全部治ったよ。」  悪魔の身体からは、傷跡がすべて消えていた。 「・・・ありがとう。」 「!」  悪魔から発せられた声は少し低く、男の子なのだと分かった。 「どういたしまして。」  ぶっきらぼうに御礼を言ったその少年が可愛くて、思わず笑みが零れてしまう。 「なあ、」  感傷に浸っていたら、少年から声を掛けてきた。 「何で助けてくれたんだ?あんた天使だろ。普通俺を狩るんじゃないのか。」  当然の質問だった。天使が悪魔と関わる事・・・つまり縁を結ぶことは禁じられている。そしてそれは、悪魔も承知の上だった。殺すことで縁が繋がれることはあるが、助けるなんてことはまずない。縁は繋がれた瞬間早々に断ち切る。 「・・・何でって、なんでだろ?」 「は?」  自分でもよく解らない。何故こんな事をしているのか。何故僕は禁忌を破ってまで悪魔を助けたのか。 「何でかなあ?」  何故。何故。何故。いくら考えても答えが導かれることは無かった。

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