3 / 18
第3話 記憶(2)
翌日、僕は予告した通り昨日の場所へきていた。
(ああは言ったけど、本当にまだいるのかな。)
少し期待も交えつつ、心の中でそう呟く。
「・・・やっぱりいないかあ。」
見ると、思った通り、昨日の悪魔はいなかった。
「でも折角来たんだし、もう少しゆっくりしていこうかな。」
少しの意地と、諦めと。入り混じった感情で動いた。
ガサッ。不意に、茂みのあたりで音がした。
「・・・!来てくれたんだね。おいで、他の傷も治してあげる。」
見ると、昨日の悪魔が茂みの中からちょこんと顔を覗かせていた。
「じゃあ、治していくね。」
ぽうっと、昨日治さなかったところにも光を滑らせ、細かい傷を治していく。
「・・・」
(僕、何時の間にこんな悪い子になったのかなあ。)
これは禁忌だ。天使の掟を破った僕は、罪人だ。きっと、その烙印が押される。逆十字の紋章が。
「はい、全部治ったよ。」
悪魔の身体からは、傷跡がすべて消えていた。
「・・・ありがとう。」
「!」
悪魔から発せられた声は少し低く、男の子なのだと分かった。
「どういたしまして。」
ぶっきらぼうに御礼を言ったその少年が可愛くて、思わず笑みが零れてしまう。
「なあ、」
感傷に浸っていたら、少年から声を掛けてきた。
「何で助けてくれたんだ?あんた天使だろ。普通俺を狩るんじゃないのか。」
当然の質問だった。天使が悪魔と関わる事・・・つまり縁を結ぶことは禁じられている。そしてそれは、悪魔も承知の上だった。殺すことで縁が繋がれることはあるが、助けるなんてことはまずない。縁は繋がれた瞬間早々に断ち切る。
「・・・何でって、なんでだろ?」
「は?」
自分でもよく解らない。何故こんな事をしているのか。何故僕は禁忌を破ってまで悪魔を助けたのか。
「何でかなあ?」
何故。何故。何故。いくら考えても答えが導かれることは無かった。
ともだちにシェアしよう!