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0❥CROWN
一度不登校になるとなかなか学校へ行き出すタイミングが難しく、かつ昼夜逆転の生活を続けていたせいで最近は引きこもりがちになっていた。
紅色天賦を離れて一ヶ月以上が経つ。
後から現れたあの二人は総長にとっても目の上のたんこぶのようで、本当に例の雑誌撮影の日以来、聖南は光太から呼び出される事がなくなった。
毎日暴れて、街を暴走し、独りではない生活をたったひと月過ごしただけで、以前の暮らしに戻った聖南は塞ぎ込んだ。
あんなに眠れなかったのに、今は常に眠たい。
定期的に来てくれていたハウスキーパーのおばさんも聖南自らが断りをいれたので、家は散乱し汚れていて、キッチンに立つのも面倒で食事もまともに取っていない。
ここ何日か、ベッドから起き出すのはトイレに行く時と水道水を飲む時だけ。
あとはひたすら惰眠を貪った。
───空虚だ。 何にも縛られず、固執する事もなく、ただただ息をしているだけ。
誰も自分を必要としていない。
要らない人間ならば生きていてもしょうがないだろう。
愛される事のなかった自らの一生は、塵のように些細で、粗末で、ふわっと舞った瞬間に風で吹き飛んで誰も気付かない。
日向聖南という存在は、きっと誰も知らない間に消えてゆくのだ。
心に侘しさを抱えたまま、ベッドの上で大きな図体を丸める。
本当は、愛されたかった。
聖南も、愛してみたかった。
無償の愛など無いと思い知った今、孤独な現状に涙の一つも出やしない。
「どうでもいい」のに、寂しさだけがずっと聖南の胸を焦がし続ける。
───早く大人になりたかった。
十四歳は幼過ぎた。
平日の昼間、学校へも行かずに自宅で寝ていた聖南を、事務所の人間が五人も訪ねてきた。
一体何事なんだと寝惚けて問う聖南は素っ気なく無視されて、連れて来られたのは社長室であった。
スウェット姿で、根本から五センチは黒くなった金髪の髪は寝起きでボサボサだ。
社長室のソファにだらしなく腰掛けていると、重厚な扉がガチャ…と開いてそちらに視線をやる。
するとすぐに、随分と久しぶりに会う社長と目が合った。
「……聖南! お前……っ」
社長は聖南の姿を見た途端、物凄い形相で聖南の元まで歩み、信じられないとばかりにしばし言葉をなくして愕然と見下ろしていた。
派手で、多少不良っぽくはあったが、数カ月前までの聖南は中学生にはとても見えない大人びた小綺麗な少年だった。
しかし現在の聖南は以前の姿からは想像も出来ないほど汚らしく、大人びているどころかまず人間味が感じられない。
ロクに食事をせず、陽の光を浴びていない聖南は見るからに不健康にやつれていた。
据わった目で、驚愕に固まった社長を見上げる。
「久しぶり」
「せ、聖南…っ、お前どうしたんだ、そんなに痩せて! 身なりも…!」
「ダイエットした」
「馬鹿もん! そんな嘘が通るか! 食事していないのか!?」
「食事……してるけど。 水飲んでる」
「水…っ? 水だけか!? いつからだ!」
「そうだな…固形物は一週間くらい食ってねぇかも」
「〜〜〜ッッ馬鹿もん!」
「………うるせぇなぁ…声でけぇよ…」
生きていてもしょうがないとまで思っていた無気力状態の聖南に、社長は大声で叱り飛ばしながらとある雑誌をデスクから手に取った。
「連絡も付かない、レッスンにも来ない、学校にも行っていない、どういう事なんだ! 何故そんな状況になった!?」
「そうそう。 俺不登校」
「聖南、お前は赤ん坊の頃から親父さんから預かった、私にとっても息子のようなものだ! 何があったんだ、この写真と関係があるのか!?」
「………写真?」
「これだ!」
手にした雑誌をパラパラと捲り、目当てのページを開いて聖南に突き出す社長の手は、怒りに震えていた。
何故、何故、そうなってまで大人を頼らないのかと。
本来なら、このよく分からない危ない連中との写真を突き出して、「よくも事務所の名を汚してくれたな」と怒鳴り付けるつもりでいたのだ。
だが、やつれてボロボロになった聖南の腕は細かった。 顔色も悪く、髪の質も落ち、恐らく心が何事かで荒みきっている。
勝ち気で今風な整った顔立ちと、それとは反対に憂いを含んだ寂しげな瞳が聖南の持ち味だったが、目の前のこの聖南はとてもじゃないがメディアに出す事は出来ない。
輝きを失った聖南の瞳を間近で見てしまうと、怒鳴り付けるなどもってのほかだった。
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