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 今年で九年目を迎えるオープニングのテーマ曲は、今年の春から一新された。 聖南が創った三十秒の明るいメロディーである。  ブース内で定位置についた三人が、それぞれの飲み物を脇に置いてマイクに向かった。 「───はーいどうも、こんばんはーCROWNのセナでーす」 「アキラでーす」 「ケイタでーす」 「七月最後の土曜の二十一時、皆さんいかがお過ごしでしょうか」 「台本通りの挨拶なんて何年ぶりだよ」 「あはは……! セナいっつも台本無視だもんねー!」 「人聞き悪りぃな。 俺はオリジナリティー溢れてるだけ」 「めちゃめちゃ良いように言ってるよ!」 「それがセナの味だ」 「そうそう、アキラうまいこと言うじゃん。 俺の旨味はオリジナリティー」 「何それ」 「何だそれ」 「いきなり突き放すのやめろよ!」  台本上でのオープニングトークは約三分ほどと記されているが、三人は毎回それで収まった事がない。  本日も十分経過目前で、ブースの向こう側からガラス越しに巻きの指示が入る。  それに気付いたケイタが、テンション高めに企画内容紹介をした。 「今日はみんな大好きCROWNの恋愛相談の日でーす! パチパチ〜! あッ、セナとアキラも! パチパチ〜!」 「パチパチ〜」 「パチパチ〜」 「この回の告知するといつにも増してメッセージ多いよな」 「ケイタのパソコンにも続々とコメントが届いてるし。 あ、セナ。 まずは一曲流しますか」 「オッケー。 その一曲目なんだけど、俺チョイス流していい?」 「セナチョイスきたー!」 「勝手に予定変更するのも、セナの味」  思うところのある聖南は、台本とは違う曲をセレクトしたかった。  ギリギリまで悩んだのだが、どうしても無性にあの曲が聴きたかったのだ。  企画の内容とも合っているし、恋しいあの子の声を聴きたくてたまらない聖南はマイクをオフにしてサブ側としばし話し合う。  その間を繋ぐのは、もちろんアキラとケイタだ。 「セナ、マイクオフってるよ」 「こういう打ち合わせは普通なら本番前にするんだけどな。 セナだと許される不思議」 「まぁね、セナは王様だから」 「どこのだよ」 「CROWNが頭に乗ってる、大塚国の王様」 「おぉ〜〜。 ケイタ、今日頭冴えてんな」 「 "今日" を強調するのやめて?」 「───王様のお帰りだ」 「ははぁ〜」 「ははぁ〜」 「いやいやツッコめよ。 俺どっちかっつーと家来タイプじゃん。 王様なのはアキラ。 ケイタは女王様の膝の上で寝てるネコ」 「え!? その発言ツッコミどころ多過ぎ! なんで俺がネコなの!? 人間ですらないけど!」 「…………ぶはっっ!」  思わず吹き出したアキラが、咄嗟に自身のマイクのスイッチをオフにして腹を抱えて爆笑した。  「セナはどう考えても王様じゃん」「ケイタがネコなのはめちゃくちゃ分かる」と溢しながらゲラゲラ笑う。  そんなに笑うほどの事か?と聖南がマイクに向かってぼやくと、さらに爆笑に拍車がかかりアキラは過呼吸気味になっていた。 「ちょっとセナ! アキラが窒息するよ!」 「だな、てか何にウケたんだよ?」 「あははははは……っっ!」  笑いの止まらないアキラはマイクから遠ざかり、手を叩いて笑っている。  葉璃と同じく、付き合いの長いCROWNの長男役である彼の笑いのツボも謎である。  相変わらず必死な巻きの合図が目につくので、気を取り直した聖南は早速曲紹介に入った。 「それでは本日の一曲目です。 目を閉じてじっくり聴いてみてください」 「このままの流れでじっくり聴けるわけ……」 「うるせぇぞケイタ♡」 「ごめんなさいにゃ」 「ぶふっ……!」  当番組の一曲目は、オープニングから約十分後に流すよう台本にはしっかりそう書かれている。  しかし現時点で十五分以上が経過していた。 台本通りであったのは、冒頭の聖南の挨拶のみだ。  それがまかり通る三人のラジオ番組は、九年目を迎えても尚リスナーが増え続けている。 「……この流れでsilentかよ」 「待て待て、こんな流れにしたのお前らだから」  三人ともがマイクをオフにし、聖南がセレクトした一曲目がスタジオ内に小音量で流れる中、アキラが目尻に浮かぶ涙を拭いながら聖南を見た。  今聖南が聴きたかったのは、ETOILEの "silent" だった。 「それにしてもsilent流すなんて久々だね。 一曲目変更してまでどうしたの?」  ケイタに首を傾げられた聖南は、実はリスナーの恋愛相談に乗っている場合ではない自身の大きな悩みの種を思い出し、やや誤魔化すように苦笑した。 「……感傷に浸りたくて」 「は? やっぱうさぎちゃんと何かあったのか」 「やっぱって何? またセナ落ち込んでるの?」  葉璃の存在を外で語る際、三人は随分前から彼の事を「うさぎちゃん」と呼んでいる。  それには二つ理由があるが、それはさておき聖南の浮かない表情に気付いたケイタまでも追及に参戦した。 「落ち込んでるわけじゃねぇよ。 ……あとでゆっくり話すわ」 「オッケー」 「了解」  

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