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商店街や道路沿いを歩く街ブラロケ。
カンカン照りの中、聖南や出演者の皆さん、スタッフさん達は時々汗を拭いながら町の人とふれあったり食リポをしたりで、カメラを回してから約一時間半が経過した。
今日ばかりは、その一時間半がちょっと長く感じた。
町の人達は突然現れたCROWNのセナに大興奮で、少し離れた場所から見てた俺にもその黄色い悲鳴が届いていた。
聖南目当てに少しずつ集まってきたギャラリーは、まるで大名行列みたいになって一緒に移動し、俺とルイさんは途中から見学するどころではなくなったほどだ。
ただしたとえ騒ぎになりかけても、スタッフさんより確実に影響力と指示力のある聖南が率先して場を収めていて、さすがだと思った。
あのヤンチャな笑顔には誰も逆らえないよ。
真面目なコメントも出来て、抜群の間で笑いを取るセンスもあって、スタッフさんや出演者さんへの気遣いも欠かさない。
遠くから見ているだけで、俺は惚れ惚れした。
ロケのお仕事を学ぶ絶好の機会だったのに、個人的な想いが先行して聖南一人にばっかり目がいってた。
途中からあんまり見えなくなって、背の高いルイさんが羨ましかったくらい……。
「ハルペーニョ、飲み物買うてくるからここを動くなよ」
「……はい」
残り一時間くらい撮って終わりらしく、一旦ロケバスに撤収していくスタッフさん達を見届けて、ルイさんもすぐそこにあったコンビニに走って行った。
それにしても暑い。 日陰にいたって風も無ければ日除けにもならないなんて……八月のロケはナメちゃいけないって事だけは学べた。
持ってたタオルが湿ってしまうくらい汗をかいた俺は、顔が火照って頭と瞼が重たくなるのを堪えながら聖南の姿を探す。
でも……見当たらない。
休憩の間は出演者さんと一緒に過ごすのかもしれないと、聖南探しは諦めて俺はとりあえずしゃがんだ。
ほんの少し目眩がしたからだ。
容赦の無い太陽から少しでも遠ざかりたくて、纏わり付く暑さが苦しいと感じ始めたこれって……まずいのかな……?
「───おい、葉璃っ? どうした!?」
目蓋を閉じてすぐ、駆け寄ってくる足音と声に顔を上げると、サングラス姿の聖南がそばに来てくれた。
人目につかないところに居たのに、聖南の後ろには女性が何人かついてきちゃってる。
「あ、……聖南さん。 休憩ですか? お疲れさま、……です」
「ちょっ、顔赤いじゃん! ちょっと待ってろ!」
え?と問うより先に、狼狽えた聖南はロケバスの方へ走って行ってしまった。
そんなに赤い……? 周りにバレないように深く俯いて自分の顔を触ってみたんだけど、外も体も手もぜんぶ熱くてよく分かんない。
ジッとしゃがんだままでいると、大急ぎで聖南が戻って来た。 ……と同時に顔に濡れタオルを押し当てられて、お姫様抱っこをされる。
「行くぞ。 バレたくねぇならとりあえずこれで顔隠せ。 冷たくてきもちーだろ」
「わぷっ、? ど、どこに……」
「俺の車。 葉璃、熱中症なり掛けてる。 ……ごめんな、昨日あんま寝かせてねぇのに俺が見学来いなんて言ったから……」
「え、いや、俺なら大丈夫ですよっ?」
どうしよう、冷たいタオルで顔は隠してるけど、聖南がお姫様抱っこなんてしてるから周りがザワザワしてるのが聞こえるよ。
そんな事は意に介さず、聖南はスタッフさん達に事情説明をして、ファンの人達が聖南に付いて来ないよう即席ガードマンをお願いしていた。
……また俺、聖南やみんなに迷惑かけちゃった……。
「いいから車で少し寝てろ。 ルイは……っと、来たな」
「セナさん! ハルペーニョ倒れたんすか!? 下に居らんかったから慌てましたよ!」
さっきの立体駐車場に到着するなり、聖南は俺を後部座席に寝かせてエンジンを掛けた。
ガタガタと車のシートの移動をして、俺が快適に寝られるようにしてくれてるのはありがたいんだけど……この濡れタオルだけでも充分復活した気がするから、そんなに心配しなくても大丈夫なのに……。
「倒れてはねぇけど、これ以上外に居させるのは無理だ。 後半巻きで撮ってくっから、俺が戻るまでここで寝かせとく。 ルイ、悪いけど運転席で……」
「了解っす! 俺がハルペーニョ見とくんで、セナさんは行ってらっしゃい!」
「あ、あぁ……」
事態の飲み込みが早いルイさんまでも巻き込んで、のんびり寝てるわけにいかない。
せっかくロケ見学に来たんだから最後まで観たい。 ……そう思って上体を起こそうとしても、後部座席のドアを開けた聖南に「ダメ」と優しく肩を押されて寝かされた。
「聖南さん、俺ほんとに大丈夫ですからロケに戻……」
「これ葉璃用に買っといたアイマスクだ。 付けて寝てろ、いいな? 飲み物はここ。 手届くか?」
「……はい」
「次の仕事までに回復してなかったら、問答無用で俺がスケジュール変更の連絡するからな。 絶対に無理はするなよ。 とにかく体を休めろ」
「……はい」
「セナさん過保護っすね〜」
「当たり前だろ。 葉璃のためなら何でもする。 何のために俺が居るんだって話だ」
うぅ……っ、ルイさんの前でそんな事言ったら怪しまれちゃうよ、聖南……。
でもキュンってした。
迷惑かけてごめんなさいって思いながら、聖南の心配性が嬉しい俺はやっぱり甘えてる。
運転席に乗ったルイさんからは見えないように、去り際、聖南から手を握られてもっとドキドキした。
炎天下に居る時とは全然違う、ドキドキだ。
「すげぇ〜かっけぇ〜」
「………………」
足早に駐車場を去っていく背中を見ながら、ルイさんが呟いた。
うん……カッコいいよね、聖南。
外見だけじゃなくて中身もすごく素敵なあの人は、俺の恋人なんだ。
濡れタオルをほっぺたにあてると、ジュッて音がしそうなくらい熱くなってるような気がした。
「セナさんって昔からプライベートでもあんな感じなん?」
「……はい。 出会った時から、聖南さんは優し過ぎるくらい優しいです」
「出会った時から? あぁ、親戚やからな。 それにしてもあんまり似てないよな」
「し、親戚ですからっ」
「ふ~ん。 そういうもんか」
俺は動揺を隠すために、聖南が用意してくれてたというアイマスクを装着した。
ちゃんと寝てないと、ロケ終わりで戻って来た聖南からいよいよ怒られちゃうもんね。
仕事に穴を開けるのも、聖南の心配を加速させるのも嫌だから、先輩であり恋人でもある人の言うことは聞く。
でもね、聖南。
俺用のアイマスクが異様に可愛いデザインなんだけど……これについて、あとで詳しく聞いてもいいかな?
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