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 本来加入予定だったメンバーが三人から一人になったという事は、五人体制となったETOILEのお披露目は時期をずらすよりほか無い。  結局、今回のオーディションはルイの一人勝ちで幕を閉じたが、この結果のみでは幹部もスタッフも社長も到底納得はしないだろう。  ETOILEに関しては十月中に新曲のレコーディングに入らなくてはならず、CROWNとレイチェルも遅くとも十一月中旬までに色々と準備をしなくてはならない。  聖南には自身の仕事の他にこなさなくてはならない責務が目白押しで、これから二ヶ月は睡眠もまともに取っていられない事態になる。  正直なところ、聖南は近頃かなり無理をして葉璃との時間を作ってきた。  夜中のまどろみが無くては自身を保てないと分かっていたので、作曲の途中だろうが撮影が押そうが、遅くとも0時前には必ず帰宅して葉璃を愛でた。  聖南の安定には葉璃の存在が何より重要で、彼と共に眠るささやかな幸せを感じなくては日々のモチベーションそのものが生まれない。  そのため、居るはずのない葉璃の姿を探すように足が勝手に裏口の扉へと向かう。  心の広い、寛大な恋人のフリというのは難しい。  溜め息を吐き、特に用のない扉を開ける寸前、背後に気配と足音を感じた。 「──セナ」 「……ん」  振り返るとそこには社長が居た。  聖南をどこか心配気に見やり、腕を組む。 「成田と林に連絡して各々のスケジュールを確認した。 明後日の午後、ルイを交えた話し合いの場を設ける事にしたのだが良かったか」 「あぁ……いんじゃね? スタッフがいいって言うなら」 「あやつらを納得させるのは大変だろう」 「いやそれは社長が五人にこだわってるからだろ。 ルイだけ加入の三人体制じゃダメなのかよ」 「……様子を見る。 今はそれしか言えんな」  ETOILEの名付け親である社長はどうやら、こうなった今も五人体制を諦めていない。  大きな事務所故、そうそうCROWNやETOILEだけに構っている暇は無いと思うのだが、譲らない意思を感じると聖南もそれには従わざるを得なかった。  プロデューサーを担っている聖南だが、総合的に見てETOILEの実権を握っているのは社長と、そして葉璃、恭也の二人だ。 「あ、待てよ」  話は終わりとばかり踵を返そうとした社長を引き止める。  聖南には一つ、気になる事があった。 「さっきルイに時間聞いてたじゃん。 あれ何?」 「ああ……あの様相でルイに何があったかは、セナも見当がついているだろう?」 「……まぁ」 「ルイの婆さんは生前から直葬を望んでいたのだ」 「直葬? って、何だっけ」 「一般的な葬儀、告別式をせず火葬するだけの葬儀だ」 「は、……? て事はもしかして、十時って……」 「そうだ。 恐らく私が行ったところで火葬場内に入れんだろうが、婆さんとは本当に長い付き合いだったからな……その後のケアは怠りたくない。 明日の午後、状況を聞いて自宅に赴くつもりだ」 「……そうなんだ」  〝長い付き合い〟という言葉で、ようやく納得がいった気がした。  廃れかけた聖南にもそうだったように、ルイにも過剰に肩入れしている風だった社長の温情の理由は、昔馴染みの友人の孫だったからなのだ。  果たしてそれが〝友情〟からくるものなのかは、首を突っ込まないでおいた。 「セナ、ハルも婆さんの事を知っていたんだな?」 「……あぁ。 でも俺が言ったんじゃねぇよ。 俺が社長に聞くもっと前から、葉璃は知ってたと思う」 「ルイが話したという事か?」 「だろうな。 葉璃は俺に何も話さなかったけど。 今もそうだ。 ワケはルイの許可取ってから説明する、今はルイについててやりてぇって……行っちまった」 「……そうか。 ヤキモキするな、セナ」 「どういう意味だよ」  ふっと苦笑した社長に、聖南の口元も歪む。  幼い頃から聖南を見てきた父親同然の社長には、何もかもお見通しなようで居心地が悪い。  渦巻くドス黒いものを見破られた事を悟り、眉間に皺が寄っていく。  言葉にされると、我慢していた気持ちが一気に溢れ出てしまいそうになる。  狭量さを認めたくないのだ。 恋人として、葉璃に寛大な心を見せた後なだけに。 「二人の関係が私にバレたと分かった途端、セナはこれからガンガン私情を挟むと笑っていただろ。 そう言いながらしっかり線引きしているセナの事は、やはり頼れる男だと見直しているんだぞ」 「あーもう。 また社長、何が言いてぇのか分かんねぇ言い方してるよ」 「セナによく似たルイが、ハルに惚れんと良いがなぁ。 せっかくのオーディションが本当に水の泡になってしまうからなぁ」 「はぁっ? やめろよ、そんな物騒なこと……っ」 「ルイの件は内密だ。 セナ、ここは我慢してくれ」 「……分かってる」  遠回しな言い方をするなと言った直後、ダイレクトに聖南の心を抉る言葉が続いて思わずよろめいた。  去っていく社長の背中を見詰め、さらに不安が増した胸中から溜め息が絶えない。  社長の顔を潰すような事は出来ず、葉璃の信頼を失くす事も望まない聖南は今、珍しく発言権の無い立場にある。  だとすると、本当に〝我慢〟しなくてはならないではないか。  何かあっては遅いのに、何も出来なかったらどうしてくれる。 「怖え事言うなよ……」  葉璃が居なくなった途端に、よくないと分かっていながら悪い方へ考えてしまう。  それは大好きな恋人から伝染ったネガティブ故か、もしくは虫の知らせか──。

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