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… … …
ルイさんのおばあちゃんの最期を見届けた翌日、俺と聖南、恭也の他にオーディションに関わっていたスタッフさん達が大集合して、すごくすごく短い話し合いが行われた。
その結果、ルイさんのETOILE加入が正式に決定した。
話さざるを得なくなったルイさんのプライベート事情が、みんなの知るところとなったのはちょっと複雑だけど……それは仕方がない。
おばあちゃんが経営していたスナックについてとか、相続がどうとか色んな話を弁護士さんと進めるため、ルイさん直々に丸一週間は休ませてほしいと言われた。
亡くなったおばあちゃんの身内はルイさんしか居ない。 状況的に、すぐにレッスンだ何だと取りかかる事は出来ないってちゃんとみんな分かってたから、俺は「いつでも待ってます」と返した。
それと、やらなければいけない事が終わり次第、年内は俺の付き人を続行してもらうことも決まった。 恭也の映画の撮影が年内いっぱいの予定だから、林さんはそっちの方が助かるって言ってたし、何より俺も心強い。
ルイさんがついててくれる現場と、一人で現場に行くのとじゃ気持ちが全然違うんだもん。
だから今日からまた一緒に仕事に行けると思うと、遠足の前みたいにワクワクした。 おばあちゃんの棺の前でたくさん……俺が寝てしまうギリギリまで語り合ったからか、もはやルイさんは昔から知ってる友達みたいな感じ。
でも、一つだけ心配な事が残ってる。
「はるー」
「……はーい」
「眠い? ボーッとしてるけど」
「いえ、全然」
朝の九時十分前。
聖南に事務所まで送ってもらった俺は、ルイさんがやって来るのをロビーで待つために車を降りようとした。 それを引き止めた聖南も今、ルイさんの到着を待っている。
……俺達が一緒に居ちゃマズイんじゃないのかな。
ただでさえルイさんは俺と聖南の関係を疑っていそうだったし……。
〝セナさんに迫られてるのか〟って聞かれた時、心臓が痛くてしょうがなかった。
あの時も平然と受け答え出来た気がしないから、それを問い詰められたら次こそボロが出てしまいそうでこわい。
「……聖南さん、……」
「ん?」
「言い忘れてたんですけど、……」
「うん、何? そんな神妙な顔して。 何関係?」
「な、何関係? えーっと……俺と聖南さん関係、ですかね……」
それしか、言いようがない。
車内の暖房を弱めた聖南が、「は?」と俺を見る。 少しだけ目を細めて、顔にかかった前髪をかき上げた。
「葉璃ちゃん、やましい事でもあんの? 俺達の関係がどうにかなっちまうような事したの?」
「そうじゃないですよっ」
「それなら何言われても大丈夫。 俺が何とかする」
「まだ何も話してないですけど……」
「そうだった」
聖南のその、そこはかとない自信は昔から大好きだよ。
俺が聖南を裏切るような事をしなければ、それ以外だったら何でも解決してやるというのも、何事も有言実行する性格だっていうのも知ってる。
でもなぁ……これはちょっと、そういうのとはまた違う話で……。
今日も変わらず綺麗な顔で見詰めてくる聖南を、俺も真っ直ぐに見返した。
「あの……すごく言いにくいんですけど、ルイさんに俺と聖南さんの仲を疑われてます。 あの日、親戚じゃないっていうの、バレちゃって……」
「ああ、それな。 俺嬉しかったんだよねー」
「えっ? ……聖南さん?」
……ん? 話通じてる? 今、会話出来てた?
もし万が一ルイさんにバレてたとしても、世間に広まるような事はないだろうってそこは信頼してるんだけど。
親戚という嘘がバレてるのは確かだから、ここで聖南がニコニコするのは違うと思うんだよ。
聖南は言葉通りの嬉しそうな笑顔で、おもむろにスマホを取り出した。 どこに連絡するんだろうと、画面を覗き込む。
すると、……。
「あ、……っ?」
俺のポケットに入ってたスマホに、聖南からの着信があった。
表示された文字を指差して、もっと笑みを濃くする。
「これ、見られたんだろ」
「…………っ」
「初めて葉璃の部屋行って、これが最後って覚悟で告白して、キスして、……葉璃のスマホに俺の番号を登録した。 あの時のまんま、葉璃は俺の名前変えてなかったんだ」
「あー……」
それで聖南は、「嬉しい」って言ったんだ。 あんまり意識してなかったけど、聖南が自分の名前をハートマーク付きで登録してたものを、わざわざ変えるなんて事は考えもしなかった。 聖南が打ち込んでくれた文字を打ち直すって発想にさえ、いたらなかった。
あの日の聖南からの告白は今も胸に残ってる。 何なら、聖南が帰ってしまった後にすごく寂しい気持ちを抱いた事まで鮮明に覚えてる。
俺にとってはいつも通りの着信画面が、ルイさんには違って見える、捉えられるって事にも気付かないほど。
「〝親戚のお兄ちゃん〟の名前にハートマーク付いてたらおかしいよな」
「ですよね、……」
「ETOILEに加入したいって強い意思が見えたから、ルイにはヒントだけ教えといた。 俺もルイから追及されてな」
「えぇ!? ひ、ヒントって……!」
「〝俺は、ハルポンさえ居れば何もかも失ったって構わねぇ〟」
「うっ、ちょっ、……!? それを言っちゃったんですか!? ルイさんに!?」
「うんッ♡」
「いやそんな元気に頷かれても……っ! そんな……っ、そんなこと言っちゃったんなら絶対バレてます! もう確実に俺達の関係バレちゃってます! わぁぁ、……今から会うのにどんな顔してたら……っ」
聖南が言った事がほんとなら、その言葉は〝ヒント〟じゃない! 正解を教えてるようなもんだよ!
俺が迂闊だったからルイさんに疑問を抱かれてしまったのかもしれないけど、そんなに決定的なこと言ったらもう、……もう……っ!
「そういう事は早く教えといてくださいよ!」
「葉璃も〝言い忘れてた〟って言ってたじゃん。 おあいこ」
「ぇえ……っ、んっ」
「いただき♡」
「ちょっ、……聖南さんっ」
面食らう俺の唇を奪った恋人は、「今日も頑張れそ♡」と笑っていた。
そっか……ルイさんはすでに、俺達の関係を知ってしまったんだ……。
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