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…………え? ……俺? なんで?
写真の被写体は聖南とレイチェルさんじゃないの?
どうして俺が当事者なの?
もちろん間接的には関係あるのかもしれないけど、ゴシップそのものとは何も……。
「……と、当事者……? ……え? 俺が、ですか……?」
心の声そのままに、険しい表情の社長さんに戸惑いをぶつけた。
ここに呼ばれた時点である程度の覚悟はしてたし、俺にこの件の話が通ってるかの確認をされたって事は、間違いなくゴシップ絡みなのは分かってた。
でもいきなり俺が当事者呼ばわりされるなんて思ってもみなくて、驚くというより唖然としてしまう。
社長さんはそんな俺の心中を察して、険しかった表情をわずかに曇らせた。
「そうだ。 単刀直入に言う。 この件が下火になるまでセナとの同居はやめなさい」
「……えっ!?」
「ハルは現在のセナの住まいの隣の部屋に住民票を移しているだろう? それの通り、そちらに住むんだ。 もしくは一時的に実家に帰るか」
「……なっ……?」
なんで……? なんで聖南と離れなきゃいけないの……?
確かに聖南は、誰かに何かを勘繰られても言い逃れ出来るように、わざわざ母さんを説得してまで隣の部屋に俺の住民票を移したと言っていた。
同じマンションに帰宅し、エレベーターで同じ階に上がろうとも、隣同士だからって言い訳がきく。 新人の俺があんな高級なマンションに住んでる事自体が怪しまれそうなものだけど、それに対する言い訳も聖南は考えていて、〝俺が衣装部屋として借りてるところに後輩を住まわせてるだけ〟なんだそうだ。
そう、聖南は俺と同棲するため、万が一が起こっても対処できるよう抜かりがなかった。
「あ、あの……なぜ、でしょうか」
レイチェルさんとの写真を撮られたからと言って、一緒に住む事を禁じられるなんてますます意味が分からない。
この件が下火になるまでって、そんなの理由もなく受け入れられないよ。 何より聖南も、絶対に納得するはずない。
少し反抗的になってしまった事にも気付かないほど、俺は不審感と疑念の目を社長さんに向けた。
けれど俺の問いに対する社長さんの答えは、思いがけないものだった。
「例の写真の送り主、……いやアレを激写した人物を特定した」
「──えっ!?」
「その者は恐らく、セナではなくハルの失墜と精神崩壊を目的としている。 これがどういう意味か分かるか?」
「………………」
お、俺の……俺の失墜と、精神崩壊……?
写真を撮ったその人は、聖南じゃなく俺を標的にしてる、……? 聖南のゴシップを使って、……?
どういう意味か分かるかってそんなの……分かるわけないじゃん。
もう何が何だか……頭の中がぐちゃぐちゃだよ。
なんでここには俺一人だけしか呼ばれてないの?
社長さんは何を考えてるの?
聖南はこの事、知ってるの?
俺を陥れようとしてるその人って……いったい誰なの?
次々と湧く疑問が、頭の中で複雑に交錯する。
知らないところで、いつからか俺が、聖南の火種になっていたという事実。
どれだけ気を付けていても、秘密にしていたいと思っていても、俺自身では防ぎようのない他者からのマーク。
〝失墜〟するほどのものを持たない俺が標的になるなんて、そんなことあり得るの……?
膝の上に置いた自分の手元に視線を移して、脳内を飛び交う疑問に俺はただただ愕然とした。
「申し訳ないが、まだこちらも証拠を集めている段階でその者の名は明かせん。 ただし用心してほしい。 相手は〝普通〟ではない」
「………………」
「自らの手を汚さんよう上手く動いているのだ。 今は必要以上にセナと関わらない方がいい」
「………………」
「〝ヒナタ〟の正体も知られている可能性が高い。 残り一ヶ月、レッスンに出向く事も避けなくてはならん。 それについてはすでにSHDと話をつけてある」
「……レッスンも、ですか……」
「そうだ」
そんな……そんなところまで知られてるの……?
〝ヒナタ〟はごく一部の人間しか知らない。 そのうちの誰かが口外してしまえば確実に、両事務所を巻き込んだ大騒動に発展する超極秘事項なんだ。
その秘密を握られてしまっているかもしれないとなると、社長さんのこの表情も頷ける。
未だ俺の頭の中は大パニックだけど、受け取る情報があまりに多過ぎて処理が追いつかない。 おかげで感情的になれもしない。
「セナの住まいは素人ではやすやすと侵入する事は出来んかもしれん。 しかし住人を装いセキュリティーを突破し、いずれ決定的証拠を撮られ世にばら撒かれるだろう。 それはハルが一番恐れている事ではないのか?」
「……ま、待ってください。 という事は、もうその人には俺と聖南さんの関係を……」
「ああ、大方知られているとみていい。 まだ相手は二人の関係を裏付ける決定的証拠を掴んでおらんだけだ。 あの写真をこちらに送り付け、まずは私達の反応を見ているのが何よりの根拠だ。 世間に恋人が居ると宣言しているセナなら、ツーショットを撮られたと分かるや何かしらの反応をするだろうと踏んだのだろうが……現状セナはよく堪えてくれている」
「………………」
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