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 〝期待〟してた。  俺が元気そうにしてたら、もしもここに来てくれたら、パフォーマンス終わりの聖南がどんな状態か俺はもう知ってるから、だから……。 「ちょっとだけでいいんで」 「いやいや、ちょっ……葉璃ちゃん? 何言ってんの? 熱上がってきた?」 「元気です。バリバリ」 「バリバリって……」  唖然とした聖南に、俺はなおも食い下がった。  キスしてくれない。抱きしめてもくれない。  いつもだったらベタベタくっついて甘えてくる聖南が、俺を気遣ってくれてるのは分かる。  でもこんなに近くに居て我慢してほしくない。 「お願いです、少しだけ」 「いや待て。少しだけとかちょっとだけとか言ってるけどな、それどういうつもりで……」  聖南、ほんとは俺に触りたくてしょうがないんでしょ?  どもらずに言って、聖南に手を伸ばす。するとそれは容易く握り返してくれて、困ったように眉間にシワを寄せた。  ギョッとしてるわりには、握った手のひらに力を込めてくる。  俺が誘うなんて滅多に無い事だから、薄茶色の瞳が落ち着かない聖南の心は、確実に揺れている。 「ちょっとだけです」  今日ばかりは、聖南が一番弱い〝最終兵器〟の俺の瞳を使わせてもらう。  我慢しないで触って。ギュッと抱きしめて。「葉璃ちゃん、舌出して」って言って。  自惚れでもいい。  俺のことが好きなら、誘われてよ──。 「……分かった。ちょっとだけな」  思いを込めて見つめ続けると、渋々頷いた聖南が俺のほっぺたをさらりと撫でた。  誘えた……! とは思わないけど、明らかに聖南の瞳の熱量が変わった気がする。  最終兵器の威力が証明された。  いつもだったら、なんてはしたない事を言っちゃったんだって後悔するんだけど。  頭の中で昨日からの出来事がぐるぐる回ってる俺は、聖南に会いたくてたまんなかったから。  布団を捲られた瞬間、期待値は最高潮に達する。  さっき一人になったのをいい事にこっそりしていた準備を思い出して、打算的な体が疼いた。 「あっ! あのっ……」 「うん?」 「お尻、きれいです。たぶん……」 「なっ!?」  薄い水色の病院着に手を掛けようとした聖南が、またギョッとした。  後から知られて恥ずかしい思いをするなら、今白状した方がいいと思って打ち明けたんだけど……。 「コラッ! 何言ってんだ葉璃ちゃん! 盛大に煽るなよ!」 「だって俺、トイレとシャワーでちゃんと……っ」 「うるせぇ! 今日はちょっとだけだ! マジで!」 「……ちょっとだけ……」 「なんで不満そうなんだよ! 葉璃が自分で言ったんだろっ?」 「そうですけど……」  ちょっとだけ、にこだわる意味が分かんないよ。  最終兵器に誘われた聖南は、いくら俺がそう言ったとしてもいっつも聞く耳持たないじゃん。  苦い顔して「はぁ……」ってため息吐くくらいなら、襲えばいいのに。 「葉璃がムラムラしてんのは分かった。でもここでヤっちまうほど俺は鬼畜でもねぇし、飢えてもねぇ」 「むぅ……」 「そんな顔してもダメ。葉璃の体に負担かけたくないんだ」  そんなの分かってるよ。  昨日からたくさん迷惑かけてる俺が、性懲りもなく聖南の腕を掴んで離さないなんてどうかしてるとしか思えない。  ただムラムラしてるんじゃないよ。  俺が倒れたところを見て青くなってた事も知ってるから、今手を出すべきじゃないと思ってるのも分かるよ。  でも、会いたかった聖南がここにいるのに、俺に触ってくれないのが悲しいだけ。  まだ理性を保ってる聖南が、簡単に誘われてくれないから寂しいだけ、……だもん。 「……お尻……」 「あ?」 「……きれいなのに……」 「まだ言うか!」  「ったく……」って、そんなに怒んなくても……。  この病院着が罪悪感を抱かせちゃうのかな。  腰で結んだ紐をじわっとほどかれると、躊躇はされていても拒否されてるとは感じない。  自分で言っておきながら〝ちょっとだけ〟の境が分からない俺は、らしくない聖南の遠慮に心がムズムズした。  頑としてベッドには上がらない聖南の戒めが、迫ってくる。触れようとすると、すかさず手首を取られた。 「おっと……俺に触るのはダメ」 「なんでですかっ」 「お尻、きれいなんだろ? 触られたら挿れたくなる」 「…………っ」  手首を握られたまま、「触るのは俺だけ」と囁かれた。  こんなの生殺しだ。俺だって聖南に触りたいのに。 「あっ……」  躊躇いっぱいの手付きで病院着の前を開かれて、パンツ越しに性器を揉まれた。  思わず声が出てしまった俺に小さく笑いかけた聖南は、背中を丸めてパンツを太ももまでずり下ろし、俺のフニャちんを取り出す。  俺は聖南に触っちゃダメらしいから、どこにやったらいいか分からない両手は目元を覆う事にした。 「いい匂いするな。食べてい?」 「えっ? あっ……そんな、っ……ぁあっ」  それは躊躇しないの……っ?  温かくて大きな手のひらでふにふに遊ばれた後、湿った唇で先っぽにキスされた俺は顎を仰け反らせる羽目になった。  腰が浮きそうになるも、俺のものを咥えた聖南がさりげなくベッドに押さえつけてくる。 「葉璃、声抑えろ」 「……んっ、……っ!」  無理だよっ……! だってまさか、フェ、フェラされるとは思ってなかったんだもん……!  手のひらよりもっと熱くてぬめった舌が、俺の小さな性器にまとわりついてくる。  フニャフニャだったそれも、ドキドキうるさい心臓も、たちまち期待を蘇らせていた。 「ふぁ……っ、ん……っ!」 「葉璃ちゃーん。声出てるー」 「……っっ!」 「めちゃめちゃ濃いの出てんぞ。気持ちい?」 「……っ、……っ」 「そっか」  このまま声を出し続けるのは、聖南に言われるまでもなくマズイ。  慌てて口元を押さえて何回も頷く。  聖南の唾液でピチャピチャ鳴ってるのかと思ったら、俺が濃いやつ出してるんだって。  俺のを咥えたままそんなこと言われると、恥ずかしいよ。  興奮、しちゃうよ……。 「……クソ……ちょっとだけだ、ちょっとだけ」  気持ちいい、と視線で訴えると、横目で俺を窺っていた聖南が突然右手でお尻をむぎゅっと鷲掴んできた。  俺の渾身の誘い文句を繰り返しながら、触れてもらえないと思ってた孔にふと指を沿わされる。 「ひっ……!」 「おい、指すんなり入るんだけど。なんでこんなヌルヌルしてんの? 葉璃ちゃんやらしー」  中指を挿入した聖南は、そこがほんとに期待に満ちてた事を知って口角を上げた。  聖南に白状した通り、俺はお尻をきれいにした。でもそれだけじゃなく、なぜか洗面台にあったミニボトルサイズのローションらしきものでしっかり慣らしていた。  俺の中を知り尽くす聖南には、その柔らかさがどういう状態なのかすぐに分かったみたいだ。  口元を覆った指の隙間から、我慢できない声が漏れる。  くちゅくちゅとかき回すように中指を抜き挿しされて背中を浮かせた俺を、器用な聖南はさらに追い立てる。 「ここだろ、葉璃の好きなとこ」 「んんん……っ!!」  唇を窄めて舌で性器を愛撫してくれながら、中で指を少しだけ曲げられる。聖南に教えられた前立腺で、電気が走ったように体がビクンッと揺れた。 「……すげ、めっちゃ締まる……」 「んんっ……! んっ……ん、っ……!」 「この音、外まで聞こえちまってたらどうする?」 「……っ! や、……っ!」 「中キュンキュンさせやがって」 「う、……んっ……! んん……っ!」  お尻と性器を同時に攻められて、さらには意地悪な聖南の声にまで興奮した。  視界が虚ろになってくる。  俺を攻め立てる二つの音と、滑らで温かい舌の愛撫と、たった一本で俺を満たす巧みな中指が、理性と思考を奪っていく。 「限界っぽいな。……葉璃、イっていいよ。飲んでやるから」 「んーんっ、んーんっ」 「イヤなの? でも葉璃のイヤイヤは〝気持ちい、もっとしてー〟ってことだからな。分かるよ、そのくらい。何百回セックスしたと思ってんの」  俺のものを咥えたまま喋る聖南を、薄目にも見てられなかった。  執拗に前立腺を擦られて、敏感な性器を根元まで咥えられて上下に動かれたら、そんなのひとたまりもない。  せめて電気を消してから誘えば良かった──そんな遅い後悔を脳内にチラつかせ、俺は「んくっ」と息を詰める。 「ひぅっ……! う、うぅ……っ! うぅぅ……っっ」  下半身が三回くらいビクついた。  半分くらい入った中指を締め上げ、ラストスパートをかけた聖南の口の中を三回に分けて汚してしまった申し訳なさで、閉じた瞼が痙攣するように震えた。  にもかかかわらず、俺が吐き出した精液をぜんぶ飲み下し、いやらしくツヤツヤした唇の端を上げた聖南は満足そうにニヤリと笑った。 「ドロッドロ。俺ら何日セックスしてねぇんだっけ?」 「わ、かんな……っ」 「少しはムラムラ治まった?」 「…………」 「かわいかったよ、めちゃくちゃ。って事で、俺はバスルーム行ってくる」 「せ、聖南さん待って……! 聖南さんのも俺が……っ」 「……それだけで済むわけねぇだろ。黙っていい子に寝てな。添い寝はしてやるから」 「…………!」  俺がメロメロになるのを知っての〝手銃〟を向けると、タオルを手渡してきた聖南はほんとにバスルームに行ってしまった。  後始末も出来ないくらい、……切羽詰まってるんだ。 「聖南さん……」  我慢強くない聖南が、俺だけを気持ちよくして、いつかみたいに自分は一人で……抜きに行った。  納得いかないけど、俺が今バスルームに行っちゃうと我慢を頑張った聖南の気持ちを踏みにじる事になる、よね……。  何よりも俺のことを最優先に考える聖南が、今日はしないって決めた。  それなら、俺はこれ以上誘っちゃダメだ。  どんなにお尻がムズムズしても、──今日はもう……ダメ。

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