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「そりゃそうだろうな。俺のスキャンダルなんて扱っても無意味だって言われてた身だし。宣言してからマスコミに追われ出してんのは事実だけど、俺の恋人は……そうだなぁ。俺が別の女と撮られて〝交際発覚か!〟とか書かれる方がショック受けると思うんだよね。根も葉もないこと書くじゃん、おたくら」  たまに真実って感じで。と冗談めかして笑うと、記者の顔から表情が消えた。  青褪めた、とも言う。 〝耳が痛いです……〟 「あぁ、別にそれが悪いって言いたいわけじゃねぇんだ。そっちも仕事だし。俺で数字取れるなら好きなだけ使ってくれていいと思ってる。てかこれは大塚のタレント全体に言えるよ。すべてがマイナスに繋がるわけじゃねぇもん。証拠があるならいくらでも書きゃいい。俺らは共存しねぇと成り立たないじゃん? ……な、俺って寛大だろ?」  茶目っ気たっぷりに笑う聖南が機嫌を損ねたわけではないと分かると、一瞬ピリついた空気が漂った記者達に笑顔が戻る。  これが互いの仕事なのだから仕方ない部分も多々あると理解を示したが、それは最近のことではない。  物心付く前から業界にいる聖南にとって、マスコミとタレントは二つで一つのようなところがある。この認識は幼い頃から変わらない。  さすがに一つの写真でまったくのデタラメを憶測で書かれた場合は、訂正と謝罪を出版社側に求める事態へと発展するが、前提としてタレント側も撮られることを意識し日々行動していなくてはいけない。 〝ははっ……さすが、芸歴二十四年ともなると我々の苦悩まで察してくださる〟 「ゴマすりみたいでヤだけどさ。俺はマジでマスコミに追われること自体は嫌いじゃねぇんだ。遡って見てくれたら分かると思うけど、追っかけてくれた人には俺超フレンドリーに接してんだよね。そりゃヤバイ事件とかもあったし、何かと世間を騒がせてきた俺だけど、もうそんなことはないって言い切れるよ。マスコミの世話にはなんねぇ」 〝恋人の存在があるから、ですか?〟 「そ。プライベートで俺を叱ってくれんのって、その恋人だけだから」  脳裏に浮かんだ葉璃の寝顔に、目尻が下がる。  聖南は記者達の前で、あまりメディアでは見せないようなとても優しげな笑みを浮かべていた。  仕事をきちんとせず、スタッフに迷惑をかけたと分かるや「そんな聖南さんは嫌いです!」とめくじらを立てた葉璃こそが、聖南の原動力であり心の安定剤だ。  誰もが聖南に媚びを売る。はじめはバックが強大だからという理由だけだったが、アイドルデビュー後、CROWNが爆発的に人気を得てからは何でも思い通りになった。  幸いにも一度落ちぶれた経験のある聖南は関係者に対し横柄な態度を取ることはなかったが、発言すべてが通ってしまうというのはなかなかに奇妙なものだ。  常に地に足をつけていようと心がけてはいたけれど、気を張っていた聖南はある時期から過労も重なり眠れなくなった。そうなると嫌でも寂しかった過去を思い出し、寒々しくなった心に従った結果、私生活が乱れに乱れてしまった。  そんな時に現れたのが葉璃だ。  葉璃は、めいっぱい聖南の心を満たしてくれるだけでなく、向かう所敵なしだった聖南を頭ごなしに叱ってまでくれた。  〝俺のことが好きなら離れるな。俺がちゃんと仕事してるかどうか心配なら、すぐそばで見張ってろ。〟  年下の葉璃に、こんな駄々っ子のようなことを胸を張って言った。しかも何度も、縋るようにして。  大好きな人が〝叱ってくれる〟存在であることが、聖南の中ではとにかく重要だったのだ。  葉璃がいるから、聖南は輝ける。何に対しても意欲を失わずにいられる。 「フッ……ごめん。顔ニヤけちまった。今俺のこと撮るなよ」  妄想に耽った聖南に一眼レフカメラのレンズが向けられるも、言葉と視線で制されたカメラマンは瞬時に一歩引いた。  記者の隣でインタビュー風景をいくつか撮影していたカメラマンが、メディアではまずお目にかかれないデレデレとニヤけた聖南の表情を撮りたがるのも当然かもしれない。  こういう質問をされていると、自然と脳裏に葉璃がよぎってしまう。だから嫌なのだ。  恋人についての質問は……。 〝セナさんの恋人ともなると、さぞお美しい方なんだろうなぁ〟  プライベートが絶好調なことを窺わせる聖南の表情に、記者が独り言のように呟いた。  これは質問ではなかったのだが、脳裏に葉璃の残像が残る聖南は饒舌に答えた。 「美しい……まぁそうだな。ちょっと前まではかわいー 一択だったんだけど、最近めちゃめちゃ綺麗になってる」  そうなんですね、と記者が頷きながら返す。  聖南はこの時、ベテラン記者とカメラマンが頻繁に目配せしていることに気が付いた。  ──なんだコイツら。俺失言したっけ。    思い返すも、今日も今日とて明確な回答はしていないはずだ。  少々葉璃を蘇らせてニヤつきはしたが、これは記者らの前ではしょっちゅうある事。  違和感を覚えた聖南が次なる質問に身構えた矢先、記者が思わぬことを言い出した。 〝ちなみにその方は……日本人ですか?〟 「……は? それどういう意味」

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