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第20話 困るぼく
ギュッ、とぼくの手を握られ、激しく狼狽する。
待って待って! そんなこと急にやられると照れるんですけど!
「あの、先輩っ?」
「勘違いしないでほしいんだけど、男だったら誰でもいいってわけじゃない。お前だって好みのタイプとか容姿とかあるだろ。ちゃんと考えて出した答えだ」
先輩の顔がどんどん寄ってくる。
どうやら先輩はぼくの思ってる以上にちゃんと考えてることがあって、そしてカッコイイ!
いくら好きじゃない相手と言えども、こんなふうに顔を寄せられると胸がドキドキしてしまう。
まるでこっそり浮気でもしている気分だ。
変だ、ぼくの心臓がおかしいくらいにバクバクと音を立てている。
「ちょっと鈍感でトロそうなところもあるけど、悪い奴では無さそうだし。マナーはきちんと守りそうだしな」
信号をきちんと守るというのがよほど好印象だったらしい。
「お前は? 俺のどこらへんを好きになったの」
「あっ、えっと、その、先輩ぃぃー……」
ちょっとトイレに……と嘘を吐いて、この場から逃れようと目論む。
先輩はあっさりと顔を離して「ドア出て右の奥」と言い、ポテチを口に運んだ。
先輩になんて切り出そうか、と悩みながら用を足してリビングに戻る最中、ドアが半開きになっていた部屋の中を、いけないと思いつつもこっそりとのぞいてしまった。
そこには仏壇があって、写真立てには人工的な水色を背景にした女性が写っていて。
ハッとして、先輩の元へ戻った。
「先輩っ。あの、もしかして」
「何?」
「お母さんって、亡くなってるんですか」
「うん。子供の頃に」
先輩は何も気にしていないふうにゆっくりと立ち上がり、奥の部屋へ入った。
近くで遺影を見ると、先輩と目元や口元がそっくりだ。
ぼくは一緒にお線香をあげさせてもらった。
「すみません。てっきり、出掛けていていないっていう意味だったのかと思って」
「謝るなよ。何も悪いことしてないだろ」
先輩はしゅんと肩を落とすぼくを気遣うように声を掛けてから手を合わせ、またリビングのソファーへ戻った。
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