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第62話 歩太先輩に誘われました。
数日後。ぼくはドリブルの練習をしながらも意識は常に別の所にあった。
カラコン野郎がいつ何処から出てきてもいいように待ち構えている状態だ。
「おい、集中しろ」
「あっ」
聖先輩に指摘された途端、ミスってボールが転がっていった。
取りに行って帰ってくると、口の端をひくつかせた先輩に顎を持たれて上を向かされた。
「お前はよそ見しながらでも出来るようになったとでも思ってるのか? 大した余裕だな」
「すいません! なんだか気になっちゃって」
「何が」
「あ……いや、別に」
言いかけて、やっぱりやめた。
先輩には変に心配はかけたくないし。
こうされている最中もどこかであいつが見てるんじゃないかとソワソワして、やっぱり目玉を動かしてしまう。
先輩はこんなぼくを見てため息を吐いた。
「まぁでも、ミスすることは大分減ったな。明日からはパスも出来るように練習してみよう」
「わぁ、じゃあ今日は練習終わりですか」
「手首も痛くなってきただろうしな」
そんな時、歩太先輩が僕らに近づいてきた。
「二人とも、お疲れさま。ところで、この後って何か予定ある?」
「えっ、特に何もっ! どこか行くんですかっ?」
ぼくはノリノリで答えてしまったが、聖先輩に視線で殺されそうなくらいにガン見されていることに気づく。
あぁ、こういうところがダメなのに直せないっ!
聖先輩は不機嫌ながらも歩太先輩に問う。
「どこ行くの」
「それは行ってからのお楽しみだよ」
「はぁ? 今教えろよ。じゃないと小峰も行かないって」
な、と同意を求められ、ぼくは激しく首を縦に振った。
怒ってます。完全に怒ってますよね?
「うーん……しょうがない。じゃあ聖には特別に教えよう」
歩太先輩は内緒話をするみたいに聖先輩の耳元に手を当てる。
しばらくしたら、聖先輩の目がカッと見開き、急に輝きを増した。
「行くぞ。小峰」
「えっ」
先に歩いて行ってしまう聖先輩。
一体どんな魔法の言葉をかけられたのだろうか。
「高橋先輩、これから一体どこに行くんですか?」
「俺も聖も、喜ぶ場所だよ。小峰はどうか分からないけど」
先輩二人が喜ぶ場所?
それってまさか、いかがわしい店とか⁈
気になって問い詰めても「着いてからのお楽しみね」とだけ言って歩太先輩は白い歯を見せた。
ぼくは先輩たちが持ってきた皿の上の物を見て目を白黒させる。
シュークリーム、モンブラン、シフォン、ベイクドチーズケーキ、ミルクレープ……小さくカットされたものを思いのままに皿の上に乗せてきたようだ。
「先輩方、そんなに食べれるんですか?」
「余裕余裕。な?」
歩太先輩の問いかけに、無言で頷く聖先輩。
視線はずっとケーキに向いている。早く食べたくて仕方ないみたいだ。
イタリアンパスタやピザも食べ放題みたいだけど、今のこの時間帯は皆ほとんどスイーツを食べている。
周りのテーブルは女性客やカップルばかりだが、ごく稀に男性同士で座っている席もある。その人達と歩太先輩の目的は一緒だろう。
ピンクのエプロンを付けた店員さんがやってきて、歩太先輩の前に皿を置いた。
「お待たせしましたー。野乃花ちゃんの期間限定スイーツでーす」
皿の上には、アイドルの野乃花がプロデュースしたというイチゴのレアチーズケーキがのっていた。
表面はイチゴのソースでコーティングされていて色鮮やかだ。短いポッキーが向き合うようにささって、真ん中に大きなハート型のチョコが乗っているのは、きっといつも手に持っているステッキをイメージしているのだろう。
歩太先輩はあらゆる角度からそのケーキを撮影してから口に運ぶ。目元も口元も緩んでいて、なんかすごく幸せそう。
お値段の割には少量すぎる気もするけど、限定のピンバッジも貰えるとの事らしいので、歩太先輩は充分すぎるほど大満足らしい。
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