緊張の中、試合開始となった。 　乙葉がジャンプボールをしたが、相手チームに虚しくもボールを取られてしまい、そいつがドリブルをして一気に掛けていく。だが途中でパスカットをした乙葉はボールを奪い返し、ゴール下までボールを運ぶと 「雫っ」 　ぼくを振り返って、急にパスをまわしてきた。 　ボールはぼくの体の横をすり抜け、たまたま後ろに居合わせた相手チームの一人に渡ってしまった。 「あぁ～、雫、パス出すって言ったじゃん」 「いきなりすぎるよっ！　急すぎて全然準備してなかったよ！」 「とりあえず戻るぞっ」 　乙葉の背中を追いかけるように、ぼくも駆け出す。だが相手の足が早く追いつけずに、レイアップシュートを決められてしまった。 　相手チームはほとんどバスケ経験者なのか、皆上手で入り込む隙がない。ぼくも乙葉も決して手を抜いている訳じゃないけど、どんどん点を決められてしまって、圧倒的な力の差が歴然とした。 　けれどぼくらのチームは、さっき歩太先輩たちと対戦した相手チームのように険悪なムードになることはない。「次次ー」と乙葉も明るく声を掛けるから、チームメイトもポジティブに試合に臨んでいる。 　このチームで本当に良かった。 　そして試合も終盤に差し掛かったところで、チャンスがまわってくる。 　たまたまボールを受け取ったぼくは、ほんの数メートルだけど走りながらドリブルをすることに成功した。 　乙葉にパスを出してからゴール下に待機する。 　そして乙葉から、パスをもらった。 　決めようとか外そうだとか、そんなややこしい事を考えている余裕なんてなく、ここ二週間の練習で一連の動作が染みついていた体は勝手に動いていた。 　ボールが手から離れようとしたその時、こちらに勢いよく向かってくる人の影を視界の隅に捕らえたが、怯まずにシュートを打つ。 　だが── 「小峰！」 　聖先輩の叫ぶような声が耳に届いてすぐ、ズンッと脇腹に鈍痛が走る。 　(あ……あれっ……) 　視界が回り、体が落下していく。 　次の瞬間にはもう、頭を硬い床に打ち付けていた。 　そのまま、ぼくの目の前の景色が急に消えた。