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田舎編 4

翌日。 山野の家に集金へ行った際、昼食を誘われた明彦は言葉に甘えて家に上がる。 奥さんの手料理は絶品で、何度か弁当を差し入れしてくれた事もあった。 ホクホクしながら家に上がると大和がいた。 こっちを見ると明らか様にイヤそうな顔をしたが、明彦はグッと我慢する。 (美味い昼飯のためなら…!) 広い客間に通されて食卓を囲む。 料理に舌鼓を打っている時に、山野が昨日は秋祭り楽しめたかと聞いてきた。 口に料理を詰めたまま、コクコクと明彦はうなづき、慌ててお茶を飲む。 「いろんな人たちと楽しめましたし、何より神楽が!」 神楽と聞いて、山野と大和の手が止まる。 「神楽がどうしたん?」 「すげーーカッコいいですね!俺初めて観たんです!」 興奮して語る明彦に山野は大きな笑顔を見せた。それは嬉しそうに。 「鬼もかっこよかったし音楽もよかったけど、あの退治する二人がかっこいいですね!!」 特に太刀を持ってた方!アレは男でも惚れそうです!と言い切った明彦に大和が飲んでいた茶を吹いた。 「何だお前きったねーな!」 咳き込む大和に、山野夫妻は肩を震わせながら笑う。 「なんかおかしい事、言いましたかね?」 「いや、何でもないよ」 キョトンとしながら、明彦は里芋の煮っころがしに箸を進めた。 それから少し経ったある日。 営業中に、電信柱に貼られたチラシに気づく。 他の地区でまた秋祭りがあり、神楽奉納と書かれていた。しかもその隣には神楽団の名前が記載されており、いま住んでる地区の名前だった。 新井に聞いて明彦は初めて神楽を舞ってるのが地区の人間で、仕事をしながら夜練習していることを知る。 あんなに激しい舞を素人がしているのかと驚き、これはまた観てみようとチラシにあった秋祭りに出向く。 幾分遠い神社だったので、近くまで車で来た明彦だったが思いの外早く着いてしまい境内を覗いてみた。 舞台を準備しているのは確かに見覚えのあるメンバーだ。 (高畑さんに、三木さん、山野さんまで!) 本当に普通の人がやってんだなー、と感心していると その中に背中を向けた男がいた。 背が高く見るからに他のメンバーより若そうだ。 (もしかして) 男が横を向いた時、それが大和であることに気づいた。衣装を持ちながら作業している。 明彦はあいつも手伝ってんのかと感心した。若いから駆り出されてるんだろうな、と。 日も落ちて、境内の舞台がライトで照らされる。時々大きな蛾が飛んできて子供達がキャアキャア奇声を上げていた。 そうこうしているうちに神楽奉納が始まる。 今日の演目は「八岐大蛇(やまたのおろち)」 頭が八つの大蛇を退治する素戔鳴尊(すさのおのみこと)の話だ。 生贄にされる予定の奇稲田姫(くしなだひめ)を守るため、大量の酒で大蛇を眠らせて斬る、というもの。 姫の登場、老夫婦の登場、大蛇の迫力…。 子供も大人も、食い入るように見ている。 そして大蛇退治をかって出る、素戔鳴尊。 髪を垂らした素戔鳴尊の演者は、強くそして凛と見せるように化粧を施している。 歌舞伎のように真っ白ではなく目と鼻のみであとは素顔だ。 一体誰が演じているのだろうと明彦はジッと顔を見るがライトの加減でよく見えない。 セリフの声を聞いても、ぴんと来なかった。 (まあいいか…) それにしてもこれが全部、自分の知っているメンバー達がやってるのかと思うと、明彦は感動すら覚える。 いよいよ、大蛇退治の場面。笛も太鼓も激しくなって行く。 大蛇と格闘する素戔鳴尊は、太刀を振りかざしながら舞う。 豪華な衣装と、長い髪が躍動するたびに力強さを感じさせた。 (やっぱりかっこいいなあ…) 大蛇に巻きつかれながらも、もがいて斬りつけていく。 動きが少し少なくなった時、素戔鳴尊と一瞬、明彦は目が合った。 (…大和…?!) さっきまで全く気がつかなかったが、目があった瞬間にそう気付く。 そういえばあんなに背丈があるのは大和くらいしかいない。 セリフ言っていた声は、いつものように大和の声と違っていたのは演じていたからか。 呆然と見ているうちに素戔鳴尊は体に巻き付いていた大蛇を切り刻んで、自由の身となる。 そして一太刀。大蛇に突き刺して絶命させた。 一斉に大きな歓声と拍手が送られる。 何かに取り憑かれたような大和の素戔鳴尊は大蛇の尾の中から出てきた剣を「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)」と名付け天照大神に捧げるための祝いの舞を捧げる。 明彦はもう、素戔鳴尊を、大和をずっと見ていた。 その様子はいつも嫌味ったらしく明彦に絡んでくる大和ではなかった。 凛々しい素戔鳴尊が、そこにいた。

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