7 / 15
田舎編 7
そんな出来事があった3日後の定期練習日。
たまに練習を見に来る山野の元に、大和がいた。
大和が話があると切り出してきた。大和は改めて正座をすると、畏まって頭を下げる。
「…俺に団長、継がせてください」
大和のその言葉に山野は満足げに微笑んだ。まるで大和が言ってくることが分かっていたかのように。
「やっと言ってくれたか。皆、待ちくたびれたわ」
「山野さん…」
大和は更に頭を下げる。
そして一つお願いがあります、と告げた。
明彦は最近、何をするにしても「こころここにあらず」な状態だった。
新井が呼んでも気づかなかったり、お茶をこぼしてしまったり。
体調が悪いわけではない。ただ…
(何であんなこと言ったんだろ)
大和に怒鳴りつけてしまったこと。自分の気持ちだけぶつけて逃げたこと。
大和だって色々考えてるはずなのに。
それと。
『皆に見せつけてやれよ!もっと惚れさせてみろよ!』
何でそんな台詞になったのか、思い出すたびに赤面してしまう。言葉のチョイスがおかしいだろ、と自分自身にツッコミをいれた。
それにしても、今日の練習日は見に行くべきなのか。
大和とまた言い合いになるんじゃないか…と考えながらも足を向けた。
意を決して練習場として借りている公民館に着くや否や、山野に呼ばれた。
何事かと思っていたら大和が団長を継ぎたいと申し出があり、メンバー全員から承認受けたと教えてくれた。
「大和が…?」
(何だよあいつ…)
自分にはあんなに食らいついてた癖に、と口を尖らせていると、山野が一つ大和が言ったことがあると教えてくれた。
「自分は神楽バカだから、舞うことはできても運営は難しい。なのでサポート人員が欲しいと。じゃけ明彦を迎えて欲しいと」
「…え」
「団員たちも大歓迎だとよ。どうする?」
ニヤニヤ笑う山野。
「やりますっ!お願いします!」
「大和を説得してくれたのも、お前さんなんだってな。聞いたよ。助かったよ」
どうやら「浜や」にいた客に山野の知り合いが居たらしく、そこから聞いたらしい。
山野は嬉しそうに自分の頭を撫でる。
「じゃあ後でまた皆に紹介するけ」
「はい!」
深々と頭を下げる明彦。
(大和に謝らないと)
大和はいつも練習前に公民館裏の喫煙所でタバコを吸っていた。
この日もタバコを吸っていると後方から明彦に声をかけられた。
「大和、この前はごめん!あと、団長継ぐって…」
「ああ。お前がうるさいからな」
短くなったタバコの火を消して大和が明彦を見た。
うるさいってなんだよ、と明彦が口を尖らせていると突然大和に抱きつかれた。
「色々吹っ切れた。お前のおかげだ」
抱きつかれて硬直している明彦。
「お前がいないと俺がダメなんだ」
大和は更に力を込め、抱き締める。
明彦の顔はみるみるうちに真っ赤だ。
(お前も言葉のチョイスがおかしいだろ〜!)
「お、俺もサポートするから!大和が苦手なとこ任せとけ」
大和の体を離れさせて明彦はしどろもどろ。
対する大和は嬉しそうに笑う。
「頑張ろうな」
新しい団長と、新しいメンバーはすんなりと受け入れられ、まるで以前からそうだったかの様にすんなりとことが運んだ。
メンバーたちは二人を歓迎し、大和に握手しながら礼を伝えるものもいた。
みんな神楽団をなくしたくなかったのだ。
明彦は事務や運営などを一手に引き受ける。公演の手続き、経費処理や団員たちのお弁当準備などなど正に縁の下の力持ちだ。
手が空いた時は練習を何時間も見ている。
メンバーたちの舞う姿。とりわけ大和の舞う姿に明彦はジッと見ていた。
「最近、明彦の様子おかしくねぇか」
そう言ったのはメンバーの中でも年配の立川だ。
練習あとのプチ宴会での中。
立川の言葉に数人が頷く。大和もその場にいた。
「よくため息つきよるし、いつも何か考え事しよる」
体調が悪そうではないけど、浮かない顔をしてることが多いと皆が言う。
「そらあ、あの年頃じゃけ、女よ」
中堅どころの山根が答える。おお、そうかと皆が笑い出した。ここには女が婆さましか居らんから、元いたところに彼女でもおるんじゃないかと憶測が飛び交う。
「大和は何も聞いとらんのか」
「特に…」
恋人がいるとか、プライベートな話はほとんどしていないことに大和は気づいた。
彼女がいてもおかしくない。むしろ結婚話も出ていい歳だ。
明彦も、大和も。
モヤっと胸が重くなる。
(あと何年一緒に居られる?どれくらい自分の横に…)
飲んでいた緑茶が急に渋く感じた。
ともだちにシェアしよう!