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幕間 小学五年生と高校三年生

「どこいったんだよ……。はぐれるなよって言っておいたのに」 通っている公立の小学校もわりと綺麗なほう。 でもいまいる私立学園の高等部の校舎はそれよりもさらに綺麗で立派だった。 その空間は今日とてもにぎやか。 教室はお化け屋敷や喫茶店とか展示コーナーだとか、そんないろんなものが催されてて、高校生たちが楽しそうに働いてそして見物してる。 それは今日がこの学園の文化祭だから。 だから、こうして小学生の俺も遊びにきてるんだけど。 「ばかアキ、コウ」 一緒にきた幼馴染の晄人と今年クラスメイトになって仲良くなった浩輔は好き勝手に動きだして気づけばいなくなってた。 走るなって言ったのに、ここはグラウンドでもないのにアキとコウは競争するように走っていった。 二人一緒にいるのかな。 もしそうだったら逆にはぐれたのは俺ってことになるんだけど。 一応着いていってたつもりなのに見失ったのはどこか教室入ったのかな。 ため息が出る。 ため息ついたら寿命が縮むとかバカなこと言ってたのはコウで、だったらこうしてため息ばっかりの俺の寿命が大幅に縮んだらコウとアキのせいだ。 探し回ってたせいでひと気のないところまで来ちゃったし。 携帯電話で連絡とれればいいんだけどコウは持ってない。アキは持ってるのに忘れたって言ってたし。 アキのバカ。 「紘兄のところ行ってみようかな」 三年生は文化祭自由参加らしいけど紘兄のクラスはメイドカフェ。 女子生徒メインで男は裏方……男が作るスイーツのメイドカフェだとか。 あんまり食べたくないな。 なんかむさ苦しい……ような。 とりあえずその前にトイレ行きたくてキョロキョロあたりを見渡す。 文化祭では使われてない棟なのか本当ひと気ない。 少し進んで角曲がったらトイレはあった。 男子トイレまでも広くて綺麗。 さっと見回したら個室がひとつだけ閉まってた。 小便器の前にたって用を足そうとしたらガタガタってぶつかるような物音が背後でした。 個室からの音だけど、なんか不気味に感じて早くトイレ出たいなって思ったら、今度は鍵が開く音と同時にバタバタと走り去っていく足音。 思わず入口のほう見たら後姿が一瞬見えて消えて。 なんだったんだろって思いつつホッとしておしっこをする。 だけど、後ろからもう一つ足音がして身体が強張った。 え、だって個室ひとつしかドア閉まってなかったのに。 しかもなぜか俺のすぐ後ろで足音が止まって。 誰って不安と、ほんのちょっとだけ鼻を掠めた独特な匂いを感じた途端、 「なんだ、もう剥けてるんだな?」 耳元で声がした。 思わず顔を上げると紘兄が覗き込んでた。 「……びっくりした」 「お前こそ。晄人と康祐は?」 ふらりと俺から離れて紘兄は洗面台のほうへと行く。 俺も紘兄にのぞかれたものをしまってそっちへ向かった。 「はぐれた」 言ったら紘兄はおかしそうに笑う。 その横顔をちらり盗み見ながら、個室はひとつしか閉まってなかったのにって答えを探すように頭の中をぐるりと考えがまわった。 「……TPO考えないの」 前、彼女がいたのを見たことあった。 さっきこのトイレから走っていったのは男だった。 ーーーそういうどちらでも大丈夫ってひとがいるっていうのは知ってた。 「TPO? いまどきの小学生はそんな言葉使うのか? 相変わらずお前はマセガキだな」 手を洗ってハンカチで拭いて、からかうような声に紘兄のほうを向く。 「まあ、でも」 胸ポケットから紘兄が眼鏡を取り出す。 制服の乱れなんてまったくなかったけど、眼鏡をそういやかけてなかったんだっていま気づいた。 「TPOを踏まえた上で……だから楽しいんだろ?」 眼鏡をかけて俺に向けられたのはとっても人の良さそうな柔らかな笑顔だった。

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