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第11話

   だが、男たちは雄叫びをあげながら執拗に追いすがる。  矢がひゅんひゅん飛んでくる。そのうちの一本はサギリの頬を()ぎ、別の一本はアモウの肩に刺さった。  蜘蛛の巣のように地中に張り巡らされた線路の跡を、逃げて逃げて、なおも逃げる。  東の空が明るむころ、地底湖の(ほとり)に追いつめられた。  この湖底を棲み処とする獣が、獲物の匂いを嗅ぎつけて水面(みなも)に浮上したとみえて、波紋が広がる。  殺気立った包囲網が、じわじわと狭まる。村長の息子が、これで首を()ねてやると予告するように鉈をひと振りした。  アモウは不敵に笑うと、枕木を投げつけて返す。息子がもんどり打って倒れるのをよそに、サギリをひたと見つめた。 「泳いで向こう岸に渡るぞ。俺のそばから離れるな」 「おまえこそ。手足をもがれても、おれについてこい」 「さすが、にいちゃんだ。頼もしい」  ふたりは、むしゃぶりつくように唇を重ねた。先を争って結び目をほどき、互いの口腔を隈なく荒らす。  根こそぎにする勢いで舌を搦め取り、たぐり返されて、狂おしく貪り合う。魂が共鳴して、妙なる調べを奏でるようだ。  運命に翻弄されようとも、永久(とこしえ)に共にある。  くちづけを交わす合間に雄々しく誓う。  新天地へ、新天地へ! 何も恐れることはない、どこまでも泳いでいこう。緑したたる場所を求めて、時空を超えて。  ふたりは手に手を取って、蒼黒く澱んだ湖に飛び込んだ。力強く水をかいて、ぐんぐん岸から遠ざかっていく。  その光景は、二頭の若いイルカが遥か南の海をめざして旅立つさまを髣髴(ほうふつ)とさせた。  アモウ、サギリ、と呼び交わす声が希望にあふれて響く。ふたりの姿は、やがて波間にまぎれて見えなくなった──。

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