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Fanfare
「うぁ、サイアクっ!
雨降ってるじゃんかっ!」
学校の乗降口を出た所で自然と口をついて出た俺の言葉に、昴は笑って答えた。
「...そんなにカリカリ、しなくても。
雨が降らなきゃ、作物だって実らないんだよ?」
そんな事は知ってる。分かってる。
でもやっぱこういうジメジメした雰囲気も、体がべちゃべちゃに濡れる感じも、どうしても好きになれない。
「...昴は雨、好きなのかよ?」
彼は少しだけ考え込み、それから答えた。
「嫌いじゃない...、かな。」
その曖昧な返答は、なんだか俺と彼の関係そのものという感じで、歯痒くもどかしい。
なのに傘を開きながらニコッと笑う顔が、死ぬ程可愛くて。
...つい、視線をそらした。
雨音できっと聞こえないと思ったから、自分の耳にも届かないくらい小さな声で聞いた。
「...なら、俺の事は好き?」
昴からの、返答はない。
...そりゃそうか。
聞こえるような声で、言ってないんだから。
いつも俺達が別れる、交差点。
雨の日はアスファルトがキラキラと輝いて、まるで宝石箱をひっくり返したみたいだと昴が笑う。
信号機は既に何度もその色を変えていると言うのに、今日もなんとなく勿体無くて、中々別れの挨拶が切り出せない俺。
「じゃあ、また明日っ!」
満開笑顔で、昴が言った。
今日も名残り惜しい気分を残したまま、俺もその言葉に答えようとした。
なのにそれよりも一足早く、昴は大きな声で...笑顔で言ったんだ。
「...彰の事は、好きだよ。
大好きっ!!」
それだけ言うと昴は、逃げるみたいに駆け出した。
だから俺は慌てて昴を追い掛け、追い越した。
...信号は既に忙しなく、点滅し始めていたけれど。
透明のチープなビニール傘が、空を舞う。
腕を掴んで力一杯彼を抱き締めた瞬間、まるでファンファーレみたいに車のクラクションが鳴り響いた。
この日。
...嫌いだった雨の事が、少しだけ好きになれた気がした。
【...fin】
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