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淵源
「ねぇ、俺、ずっと郁のこと好きだったんだけど。」
高校2年の春。
俺は、幼稚園からずっと一緒にいる幼馴染みに告白された。
「うん。じゃあ、付き合う?」
そして、俺はすんなり受け入れて、恋人になることを提案した。
そんなこんなで晴れて俺たちは、俗に言うカップルになった。
「は?え、は?え、お前本気で言ってんの?」
「だから、さっきからそうだって言ってるじゃん。」
考えたり焦ったり忙しいコイツは高校で初めて仲良くなったやつ。
「え、俺はね、郁はちゃんとその、、麟也くん?のことが本気かって聞いてるの。」
「なんだよ、大地疑ってんの??」
「そーいうわけじゃないけど!!」
お母さんっぽくてちょっとうざいけど、俺のことをしっかり理解してくれている存在の1人だ。
「冗談冗談!心配してくれてさんきゅーな。大丈夫だから。」
「、、、ならいいけどさ。」
大地は、俺が人を全く好きになろうとしないことを知っている。
だからこそこんなにもしつこいのだろう。
俺が中途半端なことをすれば、俺も相手も傷つく。
その最悪な事態を阻止しようとしているのだ。
本当に良い奴。
でも、俺はそんな大地を欺いている。
人は人を完全に分かることなんてできない。
想い合うなんていうのも何らかの条件がちょうどよく重なっただけでただの幻想。
その考えが俺の中から消えることはない。
だから、本当は今回だって分からないんだ。
ただ、幼馴染みでこれからもその心地よい位置を守りたかっただけ。
「郁、なにしてんのー。帰るよ」
「わりぃな大地。迎え来たから先に帰るわ。」
「、、、おう。楽しんでな。」
付き合ってから、麟也はこうして俺を毎日迎えに来る。
「あれ、だれ??すごく仲良さそうだったね」
そして、必ず俺の人間関係を探る。
「あー、あれね。高校で初めてできた友達なんだ。大地っつーんだけど、めっちゃいいやつだよ。」
「、、、、ふーん。」
麟也と付き合ってわかったこと。
それは、思った以上に麟也は心配性だということ。
いつもいつも不安。
だから、俺が他の男と仲良くするとこうして探ってくるのだ。
「大丈夫だよ。俺は麟也だけだから。」
「、、、うん、、。」
俺がどんなに甘い言葉を吐いたって、顔が晴れることなどない。
むしろ余計に顔を曇らせる。
「ねぇ、郁。」
「ん???」
「今日、うち来ない?」
突然の誘いにドクリと心臓が跳ねる。
「、、、えっと、、」
完全に油断していた。
まさか、こんな状況で誘ってくるなんて。
俺が動揺していると、麟也の瞳の奥が暗く歪んだのがわかった。
あ、いけない。
身体が俺に注意警報を鳴らす。
『ブブッブブッ』
そんな時、携帯のバイブが淀んだ空間に鳴り響いた。
「ごめんね。母さんから電話だ。」
「、、、、おう」
麟也が向こうへ離れた途端、身体がガタガタと震え出す。
恐い。恐い。恐い。
付き合ったばかりだけれど、俺は、麟也の異常な得体の知れない何かを感じ取っていた。
前までは、そんな素振りを見せたことなどなかったのに。
幼馴染の俺ですら分からない何かを麟也は隠している。
知りたい。
だけど、恐い。
矛盾した気持ちをモヤモヤと胃の中で掻き回していると、麟也が戻ってきた。
「どうしたの。顔色悪いよ??」
「あ、、いや、大丈夫!!大丈夫!!」
「そっか、、。ならいいんだ。今、母さんから電話あって、やっぱり今日は家はダメみたい。ごめんね。」
「ああ、、そっかそっか!残念だな、、ははっ」
身体の力が一気に抜けていくのがわかった。
「それでね、埋め合わせって言ってもなんだけど、今週末、連れていきたいところがあるんだ。予定合う??」
そして、また身体に緊張が走る。
ドクドクといやに脈拍が鳴っているのが聴こえる。
「え、あ、、」
口籠もる俺に、麟也の瞳が揺れる。
だめだ。だめだ。だめだ。
頭ではわかっていた。
わかっていたのに。
「あ、、、うん。大丈夫!!麟也と遊ぶの久しぶりで楽しみだなぁ、、、」
交わしてしまった約束。
これが全ての始まりだった。
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