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「残念。違うよ」
真横でナニかが始まるのかと思って咄嗟に逃げようとした俺の腕を、獅琉が掴んで止 まらせた。
「ほ、本番じゃないんですか……?」
「違うけど、ある意味本番よりエロいやつ」
「パフォーマンスみてえなモンだな」
そう言って、潤歩が屹立した獅琉の上面を手のひらで少し自分の方へと寄せた。寝ているためか腹に付くくらい反り返っていた獅琉のモノが垂直になり、その裏側に潤歩が自分のモノを擦り付ける。
「んっ、あ……これマジで好き。潤歩、先端の裏のとこ、もっと」
「あいよ、リーダー」
潤歩がその通りにすると、大袈裟なほど背中を逸らせて獅琉が喘いだ。
「――あっ、ああ! 気持ちい、……硬いのと、柔らかいのが、すっげ、擦れて……あぁっ!」
屹立した潤歩のモノと、それから二つの膨らみが、獅琉の敏感な部分を何度も何度も擦り上げる。動きとしては潤歩が腰を前後させながら、同時に獅琉のそれを自身に押し付けているような感じだ。快楽に喘ぐ獅琉はもちろん、潤歩の余裕のない顔も何だか新鮮でやらしかった。
「く、……は、獅琉、……腰浮かすなって。やりにくいっての……」
「潤歩、二輪挿しして」
下になって「されている」側の獅琉の方がまだ余裕があるらしく、この状況で明らかな主導権を握っている。潤歩は言われるままだ。
――二輪挿しって何だろう。
俺は真っ赤になった顔を隠すように両手で覆いながら、二人の次の行動を息を呑んで見つめていた。尋常でない量の汗が額から噴き出ている。鼻の奥がツンとなったけれど、それよりも股間が痛くて――
「ん、あっ、……キツいけど、気持ちいっ……」
潤歩が自分と獅琉のそれを合わせて包み込むように握り、更に強く締めるように力を込めているのが分かる。そうしながら腰を動かしてるのだけれど、潤歩の方が辛そうだ。
「うっげ……マジでお前、これ好きな。キツいほどいいとかMなんじゃねえの……」
「ん。……好き。もっと締めてよ潤歩、足りない」
「クッ、ソ野郎……!」
がああ、と獣みたいに吠えた潤歩が、やけくそに腰を動かした。
卑猥な音をたてながら手の中で擦れ合う二人のそれは、まるで熟れたクダモノみたいだ。
気持ちいいんだろうな、と想像する。
「おい亜利馬」
夢中で見ていたら潤歩に呼ばれ、ハッとして顔をあげた。
「お前、握るの代われ」
「えっ? そ、そんな……」
できません。――言うより早く、潤歩に腕を掴まれてしまった。
「しっかり締めとけ。俺らがイくまで弛めんなよ」
「で、でもでも、そんなの、やったことないし……!」
「ごちゃごちゃ言ってねえで、握るくらい童貞でもできんだろ。早くしねえと口に突っ込むぞ」
「は、はいっ!」
結局言われるまま俺は、二人のマスターベーションの手伝いを請け負う羽目になった。
「っ……」
握ったそれは熱い。火傷してしまいそうなほどだ。力加減が分からずにまごついていると、獅琉が「想像してる二倍は強くしていいよ」と助言してくれた。
「い、いきますよ。ちょっと強めに握りますよ?」
「ん。いいよ、早く……」
獅琉のとろけた声に背中を押される形で、俺は二人のそれをぎゅっと握りしめた。
「は、あぁっ……」
「圧迫したまま扱け、亜利馬」
「はいっ……」
両手の指を組ませて、手首から上を上下させる。にち、にちっ、と聞くに堪えない音がしたけれど、男のモノに触りかつ扱くという行為自体には、不思議と嫌悪感はなかった。
「あぁっ、……亜利馬、すっごい、気持ちいいよっ……」
獅琉が声を張り上げ、仰向けの開脚状態で腰を動かしている。
「……はあ、ガキの癖に上手いじゃねえかよ」
潤歩が俺の肩に腕を回し、やはり腰を動かしながら低い声で笑う。
「………」
気付けば上唇が濡れている感触があった。……どうせ鼻血だ。
「ふあぁ、気持ち良かった!」
「……クッソだるい。何で俺こいつの部屋で無駄イキしてんだ……」
艶々と湿った肌をタオルで拭う獅琉と、ベッドに倒れて溜息をつく潤歩。俺はティッシュで手と鼻を拭いてから、未だ熱くなったままの股間を見下ろした。何度確認しても同じだ。男同士の絡みを見て勃起してしまった事実が、今ここに存在している。
「だらしないな潤歩。セックスしたわけでもないのに……体力落ちたんじゃない?」
「うるっせえ、この性欲化け物。……こちとらジム帰りなんだよ馬鹿野郎」
息切れしている潤歩に対して、獅琉はもうけろっとしている状態だ。一ミリも体力消耗していない俺だってまだ心臓が高鳴っているのに――これはまた別の問題か。
「でも亜利馬、そこまで鼻血出なかったね」
「そ、そういえば。でも風呂場で一度、結構な量が出たので……。昨日の分も合わせれば、もう残ってないのかな?」
「そういうシステムなの?」
よく分からないけど、確かに俺にしては少なく済んだ方だ。未だかつてないほどの壮絶な現場を目にしたというのに、出たのはティッシュ二枚で収まる量だけ。もちろん興奮したしドキドキもしたけれど、風呂場で獅琉の全裸を見た時の方がずっと衝撃的だった、……ような気もする。
「もしかしたら、サプライズ的なものに弱いのかもね。流れがあったり心の準備が万端にできてれば、多少は違うのかも」
「サプライズ、ですか……」
「うん。例えばいきなりエロい話されたりとか、いきなり裸見たりとか、そういう時。予想してなかった分、急に血が上っちゃうのかも」
確かに獅琉の言っていることは一理ある。ついさっき潤歩に羽交い絞めにされた状態で獅琉の裸を見た時も、頭は沸騰したけど鼻血は出なかった。
それに、昨日オナニー撮影をした時も。あれだけの妄想をして直に刺激を与えていたにも関わらず、今と同じくらいの少量の出血しかしなかったし。
「お前ってさぁ」
潤歩がベッドに寝そべりながら軽蔑したような視線を俺に寄越し、言った。
「究極のムッツリスケベって感じだな。童貞だから仕方ないだろうけど」
「し、失礼なことをっ……」
「仕事でエッチなことに慣れれば、そのうち鼻血も出なくなるよ。それにしても良かったよね。仕事での撮影なら心の準備する時間もあるし、一応ストーリーとかの流れもあるから、自然と本番に移れそう」
獅琉が俺の頭を撫でて笑う。
その理屈が本当に合っているのかはまだ分からないけれど、ともあれ少しだけ安心した。AVモデルが鼻血出しながら撮影なんて、それこそマニアックな層にしか受けないだろう。
「……ありがとうございました。俺のこと鍛えてくれようとして、こんなことまで……」
「いいよ別に。最初はそのつもりだったけど、途中から自分が気持ち良くなるの優先してたし」
「でも獅琉さん、凄く綺麗でした」
「ほんと? やっぱ本能のまま行動してる時の人間って、良くも悪くも魅力的なのかもね」
「潤歩さんはノックダウンしてますけど」
見れば潤歩はベッドの上で大いびきをかいていた。射精すると眠くなるのは俺にもよく分かる。疲れていた時なら尚更だ。
「俺は全然眠くないよ。むしろこれから騒ぎたいって感じ。撮影の後もそうなんだけど、何か射精すると妙にテンション上がっちゃうんだよね」
「へえ。珍しいですね」
「続けて何回でもできるし。デビューしたての頃にメインで出たV でさ、一日の撮影でニ十回くらいイッたことあるよ。もちろん休憩は挟んでたけど」
「ええぇっ! に、ニ十回……。凄い痛くなりそう」
「潤歩とか竜介からは『性欲魔獣』とか『テクノブレイカー予備軍』とか言われるけど、俺昔からそうなんだよね。多淫症ってわけでもないし自分でも何故か分からないんだけど、スイッチ入ると幾らでもできちゃうんだ」
照れ臭そうに笑って、獅琉が言った。
「ほんと、AVやるために産まれたのかもね」
その笑顔は少し、ほんの少しだけ、……寂しそうだった。
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