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本編

 シックなインテリアで統一された空間には眩いほどの太陽光が差し込み、それを遮るように下ろされたブラインドの隙間からはビジネス街が一望出来る。  高層ビル上階に本社を置くKANUMAグループは、先代社長である鹿沼(かぬま)重之(しげゆき)が一代で築いた総合商社だ。その跡を継いで、現在社長の椅子に座っているのは重之の息子である直己(なおみ)だ。  ビル内のイタリアンレストランで軽いランチを済ませた直己は社長室にいた。  すらりとした長身に薄く筋肉を纏った無駄のない体躯に、目鼻立ちのハッキリした端正な顔立ちは、社内でも女子社員の憧れの的となっていた。  容姿端麗、セレブで二十七歳独身。何に於いても完璧な直己だったが、女性には全く興味を示すことがなかった。  セミナーやパーティーに顔を出せば、彼を狙う独身女性から声がかからない日はなかった。それでも、彼は彼女たちに靡くことなく言葉巧みにその場をあとにしていた。  そんなところも、直己の魅力の一つだと女性たちはため息交じりにうっとりと頬を染める。  直己は額に落ちた栗色の髪を煩わしそうにかきあげながら、目の前に立つ長身の男を見つめて眉根を寄せた。 「――夕方の予定ですが。十九時から懐石料理の店でFGプロダクツの会長との会食、その後場所を移動して……」 「キャンセルしろ……。全部、キャンセルだ」 「しかし……FGの……か、会長とは今後も……っあ、ふ……」  マホガニーの大きな執務机に凭れるようにして、タブレットを手にしたままわずかに顎を上向けた秘書の華原(かはら)史人(ふみと)が眼鏡のレンズ越しに直己を睨んだ。 「社長……っ」  必死に平静を保とうとしているが、自然と掠れ何かを強請るかのように甘さを含んでしまう。  タブレットを持つ手が微かに震えているのは、史人を見上げる直己の獰猛なこげ茶色の瞳のせいだ。 「――続けろ」 「は、はい……。場所を移動して……ん、はぁっ!」  ビクンと腰を跳ねさせた史人に直己が再び眉根を寄せた。  直己に引けを取らない端正な面差しは時々女性らしさを垣間見せる。スッキリとした襟足に長い前髪を後ろに流した清潔感のある髪型に、シルバーフレームの眼鏡が良く似合っている。しかし、隙はどこにも見つからない。  きっちりと締められたネクタイはランチを終えても緩む気配はない。  スマートな身のこなし、仕事も文句の付けどころがない完璧な秘書――今や直己にとって完全不可欠となった史人の存在。  その彼が薄っすらと額に汗を浮かばせながら熱い吐息を吐いた。 「社長……もぅ……ハァハァ……」 「続けろと言っただろ?」  抑揚なく硬い声音でそう言い放った直己の髪に指を差し入れた史人は、ゆっくりと自身の方へ引寄せた。 「あぁ……き、もち……いいっ」  下肢から聞こえてくるジュボッジュボッという吸引音。時折、何かを啜りあげる音も響く。  濃紺の絨毯に両膝をつき、史人の昂ぶりを口内に頬張っていた直己が銀糸を長く引きながら茎を引き抜くと、愛おしそうに手を添えて舌先でカリの括れを舐め上げた。 「っふ……あぁぁ……っ」  タブレットがマホガニーのデスクに滑り落ちる。それと同時に後ろに手をついた史人が腰をせり出すように背中を弓なりに反らした。 「――イクか?」 「イ……イカせて、くだ……さ、いっ」  たっぷりとした陰嚢の奥から見えるのは細いコード。史人の体内からくぐもった振動音が聞こえていた。そのコードを引っ張った直己の髪を節のある指ががっしりと掴んだ。 「ダメ……です! 動かさ……いでっ」 「イキたいんだろ?」 「――こんなの、ひど……すぎますっ」  吐息交じりに震えた史人の声にはいつものような冷静さは微塵も感じられない。  全く乱れのない上半身。だが、その下は貪欲に後孔に電動ローターを咥えこみ、完全に勃起した長大な茎を先端から溢れ出る蜜で濡らし、直己の口淫を受け入れている。  ワイシャツの裾を掴むシャツガーターのバンドもどちらの物とも分からない体液で濡れそぼっていた。  足元に丸まったスラックスと紐で結ぶタイプの黒い下着が直己の抑え切れない劣情を露わにしていた。  ランチを終え社長室に戻った時、直己の劣情が爆発した。 「酷い? 俺にどれくらい『お預け』をさせるつもりだ? 夕べだって……俺が誘ってるのに無視して帰ったクセに」 「それは……会議の、しりょ……うを……あぁっ」 「会議よりも俺を大事にしろっ!――まだ、イカせないからな」 「そ、そんな……あぁ!」  史人の先端に唇を寄せ、蜜が溢れ出る鈴口に舌先を捻じ込みながら手で掴んだ茎を上下に扱く。クチュクチュと濡れた音が昼下がりの社長室に響き、そこには雄の臭いと淫靡な空気が流れ始めていた。 「あぁ……ダメ! で……出てしまい、ますっ!」 「出したら許さない。お仕置きなんだからなっ」 「あぁ……社長! ゆる……してくださいっ」  直己と史人が男同士で体を重ねる関係になって一年が経つ。最初は従順な秘書。それがいつしか直己にとってフェロモンを撒き散らす『オス』に変わっていった。  一度でもあの快感を味わってしまったら、もう離れられない。直己の独占欲は史人を縛り、史人もまたその束縛に愉悦を感じていた。  今はまだ互いにセックスを楽しむ間柄。しかし、恋人まであと一歩という段階まで近づいていた。  直己は史人に猛烈なアプローチをしていたが、史人がイマイチ煮え切らない態度を見せる。 何がいけない? 何が足りない? と責める直己。史人はそんな彼にまんざらでもない様子。それなのに恋人になれない『何か』があることは確かだった。  それを知りたい――直己は気ばかりが焦り、史人と共にいる間中モヤモヤとした気持ちを抱いていた。それがありもしない疑心暗鬼を生み、他に好きな相手がいるかもしれない、直己のことを好きになれない理由があるのでは……と自身を追い込み、蓄積した想いがついに爆発してしまったというわけだ。 「今日という今日は……正直に言えよ。俺のことが嫌いなのか? 他に女がいるのか」 「いませ……んよ。あなたが一番よく……知って、る……でしょう?」 「じゃあ、どうして俺の誘いを断った?」 「だから……はうっ! あぁぁ……っ」  解放の出口を求めて隘路を駆け上がってきた熱。もう少しでイケるという時に直己が愛撫の手を止める。  脳内ではもう出せるものと思っていた思考が遮断され、熱もスーッと冷めていく。  こんなもどかしい状態を続けられたまま、スケジュールの確認作業を続けさせられていた史人はもう限界だった。  自身に悪いところはない。それなのに、どうしてこんな責めを受けなければならないのか分からない。  週に四回も身体を重ねていれば、それはそれで十分すぎるような気もする。だが、直己はそれでは満足出来ないのだ。  史人の熱が冷めたタイミングを見計らって、再び直己の手が充血したペニスを掴み上下に扱きあげる。  直己の口淫も手技も決して下手な方ではない。他の男ならばすぐに射精していることだろう。  そういう史人が遅漏というわけではない。物理的な刺激を与えられれば勃起もするし射精もする。だが、今日に限って今一つ何かが足りない。その要素を直己が与えない限り、史人は達することが出来ずにいた。 「社長……お、願いです……。もう……苦し……ぃっ」 「苦しめ、苦しめ! 俺はお前の何倍も苦しんでるんだぞ! どっかの誰かのせいでなっ」 「そんな……っ。あぁ……そこ……っ、いいっ!」  先端を吸われ、史人は熱い息を吐き出した。デスクについたままの手がしっとりと汗ばむ。  苦し紛れに足元に跪く直己の下半身を見ると、ボタンを外したジャケットの間からスラックスの生地を押し上げるようにして膨らむ彼の怒張があった。  快感を求めているのは史人だけではなかったようだ。史人は足に纏わりついた自身のスラックスから片足を引き抜いた。履いていた靴はそのままに、足だけを引き抜いた史人は靴下の足を直己の股間に押し当てた。 「――ふぐっ」  喉の奥まで史人のペニスを咥えこんでいた直己が喉を詰まらせて変な声を上げた。  黒い靴下を履いたままの史人の足が、膨らんだその場所をグリグリと弄る。  スラックスの上からでもハッキリと形が分かるほど硬く芯を持った直己のペニスに、史人は息を荒らげながら意地悪く微笑んだ。 「社長も……我慢、出来ないんでしょう?」 「黙れっ」 「ここ……熱くなってますよ。それに……こんなに硬くなってる。――っふは!」  史人の言葉に苛立ったように、カリの括れを唇で強く挟み込んだ直己は、自身の下肢を弄る史人の足を払いのけた。 「――お前のせい、だぞ」  恨めしげに睨みあげた先にあったのは、眼鏡のレンズ越しに細められた史人の瞳だった。  欲情に濡れたその目に妖しい光が揺れる。  直己はその目に射ぬかれた様に動きを止めた。ゾクリと背筋に甘い痺れが走り、自身の股間を強く手で押えこんだ。 「私のせい――ですか?」  低く掠れた史人の声には今までにない艶が含まれ、その声に茎に舌を這わせていた直己の唇の端から銀糸が一筋糸を引いて落ちた。  史人は直己の動きが止まると同時に、自身の片足をデスクに掛けて後孔の奥に沈められていた電動ローターのコードに指を絡ませてそれを一気に引き抜いた。  グチュッと濡れた音と共に振動音を響かせてコードの先で揺れる楕円形の玩具を直己の目の前にかざした。 「――舐めてください」  史人の言葉に誘われるように直己はその玩具に舌先を伸ばした。史人の中に入っていたそれはまだ温かく、振動と共に熱が舌を痺れさせる。 「あ、あぁ……あっ」 「たっぷり貴方の唾液をつけて……。私のペニスにしたみたいに」  直己は舌先から唾液を溢れさせると、まるで催眠術にでもかかったかのように夢中でローターを舐めた。その振動が次第に心地よいものに変わってくると、両手を絨毯につき腰をユラユラと揺らし始める。 「――史人」  ビジネスの場では決して呼ぶことのない名を口にした直己に、史人は嬉しそうに口元を綻ばせた。 「イカせて……くれますね?」  声を出す代わりに首を縦に大きく振った直己の栗色の髪を優しくひと撫でした史人は、マホガニーのデスクに浅く腰掛けると、眼鏡のブリッジを指先で押し上げた。  ワイシャツの裾から覗いたペニスは赤黒く充血し、その硬度は保たれたままだ。  その硬さを見せつけるかのように自身のペニスを手で押さえつけ、すぐに手を離すとブルンと弾かれるように蜜を飛び散らせた。  ローターのスイッチを切りながら史人が小首を傾げて言った。 「社長……この後の予定もありますからスーツだけは汚さないでくださいね」 「あ、あぁ……。わ……分かってる」 「そうやって素直になれば可愛いのに――」  直己は絨毯に尻をつくと、その場で穿いていたスラックスを脱ぎ始めた。その姿はまるで、着替えを覚えたての子供のようで二十七歳の男がする格好ではなかった。  綺麗に磨かれたブランドものの革靴を脱いで放り投げ、膝を少し折り曲げて自身の下肢を覗き込む。  直己の穿いていたボクサーブリーフの中心がぐっしょりと濡れている。  それに触れて恥ずかしそうに俯いたまま唇を噛んだ直己を、史人は黙ったまま見つめていた。 「気持ちが悪いでしょう? 着替えは用意してありますから、それを脱いで……」 「あ……え、でもっ」 「何か問題でも? 問題は何事も早急に対処しなければいけませんね……」  威圧するような声音でそう言った史人をおずおずと見上げた直己は先走りの蜜で濡れた下着を脱ぎ、すっかり立ち上がっている自身のペニスをワイシャツの裾で隠した。 「社長もイキたいでしょう? 私だけがイクなんて……許されません。ほら……四つん這いになって腰をあげて」 「見るな……っ! 見たらク……クビだからなっ」 「はいはい……。分かっています」  史人はわざと天井を仰ぐ様に顔を上に向ける。それを確認した直己は両手両膝を絨毯につくと、史人に尻を見向けるようにして腰を高く上げた。 (あぁ……。キュンキュンする……)  ひんやりとした空気が直己の臀部を撫でる。その割れ目の奥にある場所が次第に熱を持ち、ジンジンと甘く痺れ始めるのを感じて腰をゆらりと動かした。  史人には見られたくない。でも――見て欲しい。  彼を欲しても何も与えられなかった昨夜、直己はひとり史人のことを想いながら自慰に耽った。  ペニスに与える刺激だけでは満足出来ず、空虚なその場所を埋めるためにアナルプラグを挿入した。  シリコン製でフックは小さめなのでスラックスを穿いてもその存在に気付く者はいない。だが、その中に埋められた一番太い部分は史人のペニスと同じくらいある。  直己は史人に見られているという興奮からか、息を荒らげながら自身の双丘に片手を伸ばすとグッと力を入れて尻たぶを開いた。 「史人……」  か細い直己の声に視線をゆっくりと戻した史人は彼の双丘の間に突出している黒いシリコンのフックを見つめると、嬉しそうに薄い唇を綻ばせた。 「――それはなんですか?」 「見れば……分かるだろっ」 「分かりかねますね。なぜ、社長のそこにそんな玩具が入っているんですか?」 「それは……っ。お前がいけないんだぞ! お前が俺の誘いを断るからっ」 「人のせいにするのは良くありませんね。もっと素直になったらいかがですか?――私のチンコが欲しくて堪らなかったって……」  肩越しに史人を睨みつけていた直己の顔が真っ赤になっていく。図星をさされてもなお虚勢を張り続ける彼は、唇を噛んだまま顔を背けた。 「そんなわけ……あるかっ! 誰がお前のモノなんか……っ」  史人はゆっくりとデスクから下りると、手にしていたローターを直己の目の前にちらつかせた。 「じゃあ、これでイって下さい。私は自分で処理しますから」  その言葉に目を見開いた直己の目尻から涙が一筋流れ落ちた。 「――だ。やだ……」 「え? 何か仰いましたか?」 「――だ、って言ってんだろ!」 「聞こえませんね」  史人が意地悪げに目を細めると、直己は端正な顔をクシャリと歪ませて声を上げた。 「お前のチンコじゃなきゃ、イヤだって言ってんだろ! イケなかった……自分じゃ、イケなかったんだよ!」  目を潤ませて叫んだ直己の顎を指先でクイッと持ち上げた史人は、自身の唇を近づけ触れるか触れないかの距離で囁いた。 「いい子ですね。今日はもう少し素直になって下さい……」 「え?」 「私もそろそろ限界です。イカせてください……貴方の中で」  史人はきっちりと締められていた自身のネクタイを緩めると一気に引き抜いた。  そして、直己の蕾を塞いでいるシリコン製のフックに指を掛けると力を込めてそれを引いた。 「あぁ……っふぁ……あっ、あ……っ」  ゆっくりと引き抜かれていくシリコンのプラグに薄い襞が纏わりつく。それまで馴染んでいたものが体内から引き抜かれる感覚に、直己は背中を弓なりに反って声を上げた。昂ぶったペニスの先端からは唇の端から糸を引く涎と同様にだらしなく白濁交じりの蜜が溢れ、絨毯を汚した。 慎ましくピンク色に染まった蕾から黒い異物が引き出される様は卑猥で扇情的だった。  史人のペニスと同じ太さのものが直己の体内から引き出されると、ぽっかりと口を開けたままの蕾が寂しそうに口を収縮させた。粘度の高い体液が糸を引き、それだけで十分にその場所が潤っていることが分かった。 「随分と寂しい想いをなさっていたようですね……。食いしん坊のお口が早く欲しいって言ってますよ?」 「う、うるさい! 早く……挿れて……っ」 「可愛くないですね……」  目を細めてムスッと顔を顰めた史人は手にしていたローターをその蕾に押し込んだ。 「っふ――あぁぁ?」  史人の体内に入っていたものが直己の蕾に沈んでいく。薄い襞が満足したように閉じ、その隙間から細いコードだけを吐き出していた。 「挿れましたよ? これでイってください」  そう言うなりローターの電源を入れた史人は、いきなり最強レベルにダイヤルを回す。 「っぐ――あぁぁ……! はぁ、はぁ……やだ、これ……やだぁ!」 「早急に挿れろとの指示がありましたので」 「ちがっ! これ……やだぁ! 抜いて……あぁ……あ、あぁ……んっ!」 「社長命令は絶対です。御不満ですか?」  腹の奥で振動しながら動くローター。それが直己のイイ場所を掠るたびに腰が跳ね、ペニスから蜜が滴った。  これを中に入れたまま平然とした表情でスケジュールを読みあげていた史人の気が知れないと直己は信じられない思いで彼を見つめた。  涙で滲む史人の顔。その涙は与えられた快楽によるものか、それとも――。 「やだ……こんな、の……で、イク……の、ヤダぁ!」  腰を振りながら絨毯に爪を立てて訴える直己に、史人は自身のペニスを近づけると「舐めて」と優しい声音で言った。  直己は目の前に突き出されたそれを咥えると、腰をビクつかせながら頬張った。史人のペニスの口内を犯されているようで被虐心がより一層煽られる。  ドSでドM。二つの属性を持つ直己にとって、それは悦びでしかなかった。 「私のペニスがそんなにお好きなんですか? 腰を振って、孔にはローターを挿れて……まだ欲しいと強請る。なんてイヤらしい人なんですか」  愛おしげに髪を撫でられるのが心地よい。史人にそうされるだけで腰の奥が疼き、あるはずのない生殖器官がキュッと収縮するように下腹が痛んだ。  たっぷりと舌を絡めながら口淫した直己の方が史人よりも早く根をあげた。  糸を引きながら咥えていたペニスを口から離すと、涙目で史人に言った。 「くだ……さい。俺の……淫乱なお尻に……くだ、さい」 「ローターが入ってるでしょ?」 「ダメ……。史人のが、欲し……ぃ」  普段絶対に出すことのない甘えた声で直己が囁くと、史人は「仕方がありませんね」とため息まじりに呟きながら立ち上がった。そのまま直己の背後に回り、彼の両足首を掴んで体をひっくり返すと大きく脚を広げた。  うつ伏せの状態からいきなり仰向けにされた直己は自身が史人に晒しているあられもない姿に羞恥し、顔を背けた。  きちんと着衣を身に付けているのは上半身だけ。下半身は大きく開かれ隠す余裕も手だてもない。それは史人も同じだった。  禁欲的なスーツを身に纏った社長と秘書。その下半身は野獣のように猛り本能を剥き出している。  史人は自身のモノを数回扱きながら直己の唾液を茎にまんべんなく塗すと、細いコードが出ている蕾に先端を押し当てた。 「え……いや!まさか……あぁ……っ」 「ローターだけでは足りないのでしょう?」  どこまでも意地悪く言葉で攻めてくる史人の低い声に何かを言いかけた直人の喉が戦慄いた。  先程のプラグと同じ太さのモノが薄い粘膜を割り裂いて入ってくる。それだけで直己の蕾は悦びに打ち震え、パクパクと口を収縮させた。  ヴヴヴ……とくぐもった振動音が聞こえる。そこに先端を突きこんだ史人はそのまま動きを止めた。 「貴方のイイ場所……この辺りでしたよね? 擦って欲しいですか?」  史人の問いかけに黙ったまま何度もうなずいた直己ははしたなくも自身で腰を動かし、繋がりを深くしていった。 「呆れるほど貪欲な方ですね……。社員が知ったら皆どんな顔をするでしょう」 「う……っさい! 動けっ! あぁ……あ、あ……おっきい……っ」 「プラグのお陰でいい具合に解れてますね……。っく――今日は一段と……キツイッ」  まだ直己の奥まで到達していないにも関わらず、強い締め付けのせいで史人は思わず吐息を漏らした。  直己の細い腰を掴み寄せ、一気に腰を突きこむと長大なペニスが根元まで沈む。それをギリギリまで引き抜き再び力任せに突きこむと、中のローターが振動しながら直己の最奥を痺れさせた。 「んはっ! あ、あぁ……奥……おく、きも……ち、い! 変になり、そ……あぁ……っ」 「変になって……構わない。貴方の快楽で乱れる顔を……見せて」 「史人……あぁ、たまらない! いい……気持ち……いいよぉ」  直己の嬌声に引き摺られるように史人の腰の動きも早くなっていく。パンパンと肌をぶつけ合う音が部屋に響く。敏感な先端部分に押し当てられたローターの振動で史人もいつもの余裕を失っていた。  形のいい額に乱れて落ちた髪が揺れる。眼鏡の奥の瞳が獰猛に光り、肉食獣のそれを思わせる。その目に魅せられ、彼の背中に手を回してしがみつく様に腰を密着させている直己もまた我を忘れ声をあげた。  二人の息遣いが重なっていく。ローターの振動と史人の腰の動き、そして直己の鼓動がシンクロした時だった。 「あぁ……イク、イクッ」 「もう――ですか? 堪え性がないですね……貴方は」 「だって……史人の……気持ち、いいからっ!――あぁ、イク……ッ」 「私もゆっくりしてはいられませんね。この後、会議の……資料を……はぁ、イキそ……だっ」  史人が額の汗を拭いながら、眼鏡のレンズ越しに直己を見下ろす。  熱い息を吐きながら、可愛らしい喘ぎ声を漏らす二十七歳のトップを組み敷き、その後孔を犯す優越感。  たまには年下の茶番につき合って攻められるのも悪くないと思ったが、彼の愛らしさに冷静な感情と理性が吹き飛んだのは言うまでもない。 (いじめたい……。そして啼かせたい)  普段は彼に諂う忠実なしもべ。だが、ベッドの上ではその立場は逆転する。  涙を浮かべて貪欲に快感を追いかけ、絶頂に向かって駆け上がる直己の姿は何よりも美しく愛らしい。  そんな彼が執拗にアプローチしていたにも関わらず真剣に取り合わなかったのは、彼の素直な想いがそこになかったから。  史人はだらしなく開いたままの直己の唇を指で拭うと、舌先でその輪郭をなぞった。  最奥にあるローターをより深く突きこむように腰を動かして囁く。 「イカせて……貴方の中で。精子、出しますよ?」 「出して……。史人の精子、ほし……ぃ! あぁ――イク、イク……っふあぁぁぁ!」 「一滴も零すことは許しませんよ……、っはぁ……イ……イク、イク――ッ。っぐあぁぁ」  直己の中で激しく迸る灼熱。それがローターによってかきまぜられ、内襞へと浸透していくように感じる。  史人の長い射精が終わり、ゆっくりと茎が引き抜かれていく。グジュグジュと粟立った白濁を纏いながら抜けたペニスを直己の顔に近づけた史人は、肩で息を繰り返しながらそれを彼の唇に押し当てた。 「綺麗にしてください……」  直己は焦点が合わない目で史人を見つめながら舌先を伸ばし、ペニスを頬張った。残滓を吸い取るかのように吸引し、纏わりついていた精液を綺麗に舐めとると恍惚の表情でゴクリと音を立てて嚥下した。  直己が放った大量の精液はワイシャツの裾を汚していた。それを手早くティッシュで拭きとった史人は、まるで何事もなかったかのように身支度を済ませると、乱れた前髪を後ろになでつけた。  寸分の隙のない秘書の姿がそこにあった。  高級腕時計に視線を落とした史人が抑揚のない実に事務的な声音で言った。 「あと十五分で会議が始まります。ご準備を……」  のそりと立ち上がろうとして、後孔から溢れた史人の精液に何とも言えない表情を浮かべた直己を見ていた史人は、彼の体内に収まっていたローターを力任せに引き抜くと、代わりにプラグを広がった後孔に突きこんだ。史人のペニスを受け入れたそこはすんなりと太い玩具を受け入れた。 「――零したらお仕置きですよ」 「分かってるよっ!」  史人に差し出された新しい下着を身に付け、身支度を整えた直己だったが、精液の滑りでプラグが動くたびに吐息を漏らした。 「そんなイヤらしい顔をしていたら役員たちに勘ぐられますよ」 「誰のせいだよ」 「貴方が誘ったんでしょう? 夕べの腹いせに……」  スーツの上着を羽織り、ネクタイを締め直しながら史人を睨んだ直己はボソリと言った。 「――史人は俺が嫌いなのか?」  そのか細く頼りなげな言葉は、普段傲岸で生意気ばかりを口にする直己のものとは思えなかった。史人はゆっくりと直己のもとに歩み寄ると、汗で濡れた額にそっとキスを落とした。 「嫌いとは言ってません。ただ――」 「ただ?」 「もう少し、素直になれと言っているんです。貴方の気持ちは十分すぎるほど分かっています。でも、私の想いを揺るがすにはあと一つ、要素が足りない」 「要素? セックス以上の要素があるのか?」  直己は答えを探るように史人を見つめる。眼鏡の奥の瞳がすっと細められ、薄い唇が弧を描いた。そして史人が直己の腰を引き寄せて抱きしめると耳元で囁いた。 「――私はもう堕ちています。もっと……堕としたいと思いませんか? 他の誰のモノにもならない、貴方だけのモノにしたいと」 「思ってるよ。いつだって思ってる」 「じゃあ……言って。貴方の素直な想いを聞かせて」  直己は史人に向き直ると、両手で頬を挟み込んだ。そして、少しだけ目を伏せると唇を震わせた。 「あ……愛、し……てる」  彼の口から発せられた言葉を吸い取るかのように史人の唇が重なった。互いの舌が絡み合い小さな水音を発する。 「良く出来ました。ご褒美に今夜の会食はキャンセルしておきます。そのかわり……」 「ん――?」  直己の唇を何度も啄んだ史人は、嬉しそうに目を輝かせた。 「今夜は寝かせませんよ……。良いですね?」  頬を薄っすらと赤く染めた直己が小さく頷くと、史人のスマートフォンにセットされたアラームが鳴り響いた。 「あと五分で会議が始まります。そろそろ行きましょうか?」  名残惜しそうに離れた直己の唇が戦慄いた。それを制するように史人が彼のネクタイを直す。 「夜まではドS社長でいて下さいね。私は従順なしもべを演じますから……」 「史人……」 「会社を出たら、いっぱい愛してあげますよ」  自信ありげに眼鏡のブリッジを押し上げた史人に、直己がもう一度触れるだけのキスをした。 「それまでフォローを頼む」  直己が経営者の顔になった瞬間、史人もまた冷静さを纏った。 「任せてください……社長」 「今夜こそ『直己』って呼ばせてやるからなっ」  史人に対し人差し指を突き付けて挑戦的に笑った直己は、スーツの襟元を正すとドアの方へと足を向けた。  その背中を見つめて史人が笑みを浮かべながら今夜のプレイに想いを馳せていたことを、直己は知らない。 Fin

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