1 / 5

prologue:blue

 空は青い。  遥か彼方の蒼穹を、一羽の鳶が円を描いて飛んでいる。  高台の岩場にぽつんと立てられた白いティピーから、黒い髪を左右で三つ編みに結った少年が顔を覗かせた。  ティピーの中では、羽の装飾を身に付けた白髪の老爺が、パイプを咥えて紫煙をくゆらせている。 「あれはなに?」  彼方の影を指さして、少年は老爺(ハプロック)に尋ねた。  少年がその黒い瞳に捉えているのは、戦車と思しき朽ちかけた鉄の塊だった。  ハプロックは答える。 「あれは、遥か昔、ワカン・タンカに刃を向けた者たちの骸」  少年が尋ねる。 「それは、おろかなこと?」 「それは、哀れなことだ」  少年は首を傾げた。 「あわれなものは、あわれにしんでいったの?」 「全てが哀れとは限らない。答えは心の中にある。死んでいった者たちの魂の中にある。当然、お前の心にも」  ハプロックのしわがれた細い人差し指が、少年の胸を指す。  少年は神妙に頷くと、ハプロックの隣へ腰を下ろした。 「昨夜、(ビジョン)()たよ」 「それもまた、ここで散った哀れな者たちの骸の欠片」  ハプロックが、少年の手を引き胡座をかいた自分の股ぐらへ座らせる。 「聞かせておくれ、リトルウィチャピ。過去の記憶の一片を」  遠方で、鳶がヒュルリと声を上げた。

ともだちにシェアしよう!