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第8話
「あいつ、さりげなく樹に匂い付けしてったな」
「そうだな、あれは意外と嫉妬深いぞ。大変だな、樹」
「だから、まだ付き合うなんて言ってないのに!」
でも僕は気付いてしまった、あの日、僕が学校でヒートを起こしたのは先輩の匂いを嗅いだからだ。ふわりと風に乗ってきた匂いに急に動悸がして慌ててトイレに駆け込んだ、そして僕はそのまま発情期 になった。
先輩は僕を『運命』の相手だと言ったけど、それはもしかしたら僕も本能的に感じていた事だったのかもしれない。だけど、その後の先輩からはそんなフェロモンの匂い全然しなかったのに!
「樹! 俺、格好良かっただろ!?」
試合後、満面の笑みで飛びついて来た先輩からはやっぱり凄く良い匂いがしてドキドキする。他人の汗の匂いなんて、今まで臭い以外の感情持った事ないのに……
「っつ……先輩は感情にムラがあり過ぎます! 出来るんなら最初からちゃんとやってください! それに暑苦しい! 引っ付かないで!」
この上がる心拍を悟られたくない僕は殊更に先輩に冷たくあたるのだけど、やっぱり先輩は「樹のそういうとこ、好き」なんて笑うんだ。なんなの? マゾなの? 僕、Sっ気はないはずなんだけどな!?
そんな風に試合会場でじゃれてたら、その後僕達の関係はまるで公認カップルのように周りに完全に認知されてしまって僕はちょっと不本意だよ。
しかも双子の兄ちゃん達は「あいつは良いと思うよ?」「浮気はしないタイプ」と口を揃えていうモノだからなんだか複雑。
僕は本当に今まで先輩に『運命』なんて感じなかったはずなのにおかしいなぁ……沈まれ心臓、僕おかしくなっちゃった?
まぁ、そんな感じで紆余曲折あったんだけど、後日「Ωを襲うなんてあんな事件を起こしたもんだから、俺、あの事件の後、医者に強いフェロモン抑制剤を出されてたんだよな。ただその薬、試合の時にはドーピングで引っかかる可能性があるから試合前には飲んでない」なんて話を先輩から聞かされたのは、先輩が全国大会で優勝して僕達が付き合い始めた後だった。
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