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第1話

「よく見るがよい。此奴はお前の右腕、鬼椿だ。」 「鬼椿だと?!俺の次に醜い顔をしていたあの鬼椿?!信じられるか!こんな……、こんな美しい顔をした鬼は見たことがない!」  鬼ヶ島の最奥地にある鬼の城の玉座で驚愕の表情を浮かべている大将は、それは形容し難い醜い顔をしている。悪意や憎悪を前面に出し、般若をベースに目は爛れ、口は裂け、肌はボコボコと殴られたような凹凸。見るに耐えず、目を逸らしたかったが、あと少しの我慢だと捲したてる。 「鬼椿は改心した。そしてこんなに美しい女子(おなご)に変わったのだ。お前がその醜い容姿を気にしているのは鬼椿から聞いている。俺や(きじ)太郎、猿太郎、犬太郎のように美しい容姿を望むのであれば、悪事を辞め、村を助けよ。そうすれば、お前が望むものは手に入る。」 「誠か…………。」 (よし。いっちょあがり〜。)  村へ悪事をしていた鬼達を退治するために、桃太郎は仲間を連れて旅に出た。しかしその旅は人助けのために頑張っているわけではなかった。見栄っ張りで、隠れて女を食い散らかしていた桃太郎は、英雄になれば、いい女に困らないという浅はかな考えで引き受けたのだ。  桃太郎は特に体力も知恵もないが、口は達者で、つまり村人は桃太郎が凄い奴だと勘違いしていた。そして村で一等二等三等に強い雉太郎、猿太郎、犬太郎をお供として旅に同行させたお陰で桃太郎はさらに凄い奴と箔がついた。  鬼椿は鬼の偵察の時に偶然捕まえた。醜い容姿で綺麗な女が好きな桃太郎は話したくもなかったが、鬼椿は考えが純粋で、適当に丸め込んでいるうちに容姿が瞬く間に儚い美人になったのだ。  人間でも性格は顔に出るとよく聞くが、鬼は顕著にそれが現れた。あまりの美しさに思わず鬼椿と身体の関係を持ってしまったが、バレたらヤバいと上手く言いくるめて、鬼ヶ島に乗り込んだのだ。  そして大将も桃太郎の言葉にホイホイ丸め込まれ、村には平和が訪れ、それに比例して鬼達の顔が美人になっていったのである。 それからというもの、村に美人が多いと噂を聞きつけた隣国らがこぞって縁を持とうと躍起になって来たため、俺が一括で管理し、紹介料と称して金を貰い、懐はホカホカになった。 「鬼の大将よ。お前のお陰でみんな幸せになった。ありがとう。」  あの醜い容姿が嘘のように、大将は鬼の中でも最上位の美丈夫になった。美しい長い黒髪に、筋の通った鼻、ガッチリとした身体に褐色の肌が良く映え、2メートルを超す長身に長い手足は見る者を魅了した。 「鬼の大将好きな女はおらぬのか?おらぬのなら俺が特等の女を見つけてやろう。」 「好いている者ならおる。」 「そうなのか。じゃあ間を取り持ってやろう。必ず物に出来るよう俺が助けてやる。」 「……必ず俺のものに出来るのか?」 「俺の力があればな。」  まぁ金は後でたんまりと頂くがな、と心の中で笑っていると大将の顔が間近になり、唇に何か触れたかと思うと、分厚い舌が口の中を蹂躙してきた。 「んん?!んんっ、……っふ、ん、んんっ」  たっぷり唾液を交換して大将の喉が嚥下するのを涙目で認識する。 「な、何をしている?!」 「桃太郎。お主が好きだ。俺は1000年以上生きてきたが、ワシの心と姿を変えることの出来たのはお主だけだ。こんなに心を奪われたことはない。寿命は人間と鬼で異なるが、桃太郎が死ぬまで俺が愛を注いでやろう。お主の力があればずっとワシの物であると言ってくれたのでな、ワシは何も臆することはない。」 「ちょ…!それは俺以外の話で……」 「桃太郎以外に目は向かぬ。これからも愛しておるからな。」 「えっ、ま、待って!ちょ……ふ、服を脱がすなぁああ!」  あれよあれよと身体も蹂躙され、桃太郎と大将は末永く幸せに暮らしましたとさ。  めでたしめでたし。

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