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第5章 エーリス国へ 【1】両親

シンとした冷たい空気を感じ、分厚い布団から顔を出す。 ぼやける視界に映るのは、生まれ育った懐かしいボクの部屋。 そのボクを見つめるイケメン… (誰だっけ?こんなイケメン知り合いにいたっけな?) トクンと心臓が鳴る。 (そうだ、この人はボクの愛する人だった―――) 目が覚める度にこの事実にトキメク。毎朝のことなのに慣れない自分がいる。 照れくさくて布団にもう一度隠れようとしたけど、オーディンの手に阻まれた。 「おはようシルヴィ」 布団にくるまるボクを布団ごと抱きしめイケメンキスが降ってくる。 ボクとオーディンはエーリス国に来ていた。 表向きはボクの久々の帰国に合わせてシルフの羽化見学と織物工場の視察という名目だったが、実際はオーディンとの婚約を両親に報告するためだった。 たった2年で新型列車が開通し、シアーズから5時間ほどで来れるようになったのはオーディンの尽力のたまものだ。 久しぶりの帰国でシルヴィは沢山の歓声に出迎えられた。 2年の月日が可愛らしかった少年王子を、艶と色気の含んだ美しい青年へと変化させていたが、それは月日のせいだけではなかっただろう。 シルヴィに続いて列車から降りてきたオーディンを見て、エーリス国民は更に大歓声を上げて迎えた。 シアーズ国の、いやオーディンの力が近年のエーリスの大発展の源であることを理解している人々が感謝の気持ちを伝えようとシアーズの旗をちぎれんばかりに振っていた。 「シルヴィは大人気だな、涙を流している人がいっぱいいたぞ」 ボクの髪に口づけながらオーディンが言う。 そりゃね自分の国だし。シアーズじゃ友達一人できないけど、ここだとそれなりにチヤホヤされんだよ。とプイとキスから逃れ横を向く。 「オーディンこそ大歓声だったよね、みんな見惚れてポーッとなってたよ?」 太陽のように煌めく金髪と南国の空のように澄み渡る青い瞳、シャープなラインの輪郭に黄金率配置の顔がこの世界一とも言われる造形美を作り上げている。エーリスにはいないほどの長身に程よい筋肉がまといつき、その姿は男も女も魅了される。 (童話の王子様そのものだもんなぁ) 街並みも、走っている車の数も、人々の服装も暮らしぶりも二年前とは雲泥の差だった。 それもこれも、このイケメン皇子がもたらしてくれたものとボクも国民も感謝している。だが国唯一の跡取りが嫁ぐこと、ましてや同性婚だなんて受け入れられるとは思えない。 だから今日、両親に面会し廃嫡を願い出ようと思っている。 エーリス風の私服に着替えて朝食の間に行き、二人だけの食事を始める。 「そういえばオーディンなんでここにいるの?よく入れたね」 昨夜、国賓のための宮殿で眠ったはずのオーディンが、王宮の最奥とも言えるボクの部屋の、ましてや寝室にいきなり入ってこれるなんてエーリスの警備体制はどうなってるんだろう。 シレッと『普通に通れたぞ?』と言うけどそんなわけない。 たぶんだけど、この部屋にも当然のように同席している黒服さんたちが威圧することによって入れたんだろう。 100人体制で一緒に入国した黒服さんたちはシアーズの時のように帯剣はしていないものの、洋服の下には銃をはじめ様々な武器を携帯してそうだ。 属国とはいえどんな危険な思想の持ち主がいるかわからないと暴漢に備えて常に厳重に警備していた。 見知った顔の黒服さんがいることでボクもホッとしていた。エーリスの懐かしい使用人よりも黒服さんが身近になっていることに気づく。 その後ボクは両親と面会し散々泣かれた。 だから留学なんかさせたくなかったんだと、唯一の跡取りなのに考え直してくれと懇願される。 20歳までにシアーズへの5年間の留学が義務付けられている属国王家、そのギリギリの15歳まで手放さなかった両親。 エーリスにいるときも学校に通わせず、王宮で大事に大事に過保護に育てられた。 留学さえ終わればずっとずっと一緒にいられると思ってたのにと、母は体調を崩し寝込んでしまった。 何を言われても返せる言葉がなかったボクは「ごめんなさい、廃嫡してください…ごめんなさい」と呪文のように繰り返すしかなかった。

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