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第7章 神の手のひらの上で 【3】黒服さんに感謝を

「綿さん…」暗闇の中で黒服さんを呼ぶ。 「はいここに」 黒服さんが応える。この人は前に綿菓子に髪がかかりそうになった時、助けてくれてオーディンに叱られたあの黒服さんで、ボクはあれから綿さんって呼んでたんだ。あれからずっとボクの1番側で仕えてくれている黒服さんだけど名前は教えてもらえない。だから綿さんって呼んでる。同じ理由で神棚や東屋を作ってくれた人は匠さん。いつもボク好みのおやつやお茶の手配をしてくれる人は甘味さん、とかみんなにニックネームをつけてるんだ。 「今は夜なのかな…?」ベッドの中であたりを見回すが薄暗くてよく見えない。 「…いえ、お昼の2時です」言いにくそうに言う綿さん。 そっか、ボク目が…。 「オーディンは?」 いつもそばにある温もりがないのが不思議で問うと 「隣国の動きが怪しく、どうしてもはずせない軍議に出ておられます」 すぐに戻られますよと安心させようと【タカハシさん】をボクの手に抱かせた。 ああ…そうか、もうそんな時間だったんだな。 エンディミオン叔父がボクの願いを聞いて動いてくれたのがわかった。最期の時が迫っていた。 「鏡を…見せて」 綿さんに抱き起こされながら他の黒服さんが持ってきてくれた手鏡を覗き込む。 よく見えない…けど4桁しかないのはわかった。急がないと。 オーディンが戻る前に… ボク付きの黒服さん数人に前々から頼んであったとおりに動いてもらう。 その行動はオーディンの命令に逆らうことであり、後に叱られるだろうにみんなボクのために動いてくれている。 山の廃神殿に運んできてもらったボクは匠さんお手製の寝台に横たわる。残された時間はわずかだろう。 ボクがこの世を去るかもしれないタイマーが0になる瞬間をオーディンには見せたくなかった。 もしかして0になったあと-1 -2ってなっていったりして。クスリと笑う。そんな未来があったらいいなと。 ボクの作った木彫りの家族も一緒に寝台に並べてもらう。【タカハシさん】は宮殿に置いてきた、オーディンが一人寝が寂しくないようにと。 寝台の周りの黒服さんがすすり泣く。 「ゴメンねみんな、ありがとね…後のこと…オーディンのことおねがいします」 嫌な役目を背負わせてしまってごめんなさい。そして今までありがとう。これからもオーディンをボクの代わりに守ってね。 廃神殿の崩れた天井から差し込む光が柔らかく温かい。 祭壇の神を見上げ『この世界に生まれてこれて良かったよ、ありがとう』と感謝を述べ、ボクはそっと目を閉じた。 こうしてボクの転生生活は終わりを告げた―――

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