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「それで、リューグ君、ぼ、僕に会いに来たってことは……そ、その、よ、曜君のことでなにか……?」 「てか、お前外の騒ぎのことは知ってるだろ」 「ま、まあね……すごい警報鳴ってたし。……獄吏たちが殺されて、檻は壊れて、脱獄し放題だって言って皆逃げ出したみたいだけど……無謀だよ、だって、檻から出られてもこの地下から出られることできっこないのに、皆自分から死にに行くんだよ。ぼ、僕……信じられないな……」 「ち、地下から出られないって……」 「あ……よ、曜君は知らない……のかな?随分前だけど、地下と地上を繋ぐ昇降機が壊れたんだってさ……まあ元々僕ら囚人には関係のないことだけど、外部との交通手段がなくなるのは不便だよね……」 ぼそぼそと、それでいて何故か楽しそうに、薄笑いを浮かべる火威。やっぱり、脱出は難しいということなのか。 「そうなのか」と項垂れる俺の横、リューグは火威の肩を掴み、強引に組む。 「なーに言ってんだよ、最悪お前が爆発させればどうにかなるだろ」 「えっ?!な、何を馬鹿なこと言ってるんだよ!……そ、そもそも僕はここから出るつもりないし、そんなことしたら僕、ぼ、僕……」 「なんだよ、男らしくねえやつだな。こういうときは嘘でも『おう、俺に任せとけ』って言っときゃいいんだよ」 「い、嫌だよ……君の言うこと聞くと毎回ろくな目に遭わないんだから……ってまさか、わざわざここに来たのって……!!」 そこまで言ってなにか気づいたようだ。 青褪める火威に、リューグは「おっ、今日は勘が冴えてんじゃん」と笑う。 そして、俺を指で指した。 「こいつをなんとしてでも地上に返さねえと、色々お偉いさん方がうるせーのよ。おまけに、地下の連中はこいつがどんな立場なのかも知らねえから餌としか見やがらねえ。無事に返さなきゃなんねーんだけど、俺一人じゃちょっと心許なくてな」 よくもこうペラペラと適当なことを言う口だ。 さっきまでは俺一人で十分だみたいなこと言ってたくせに、他人を利用するためにはコロコロと掌を返す。 そして、白い目を向ける俺とは対象的に火威の反応はわりと満更でもなさそうだ。 「で、でも……僕よりもリューグ君のほうが強いし……僕みたいなグズでのろまなでくの棒がいたところで君たちの足引っ張っちゃうし……」 「大丈夫大丈夫、曜よりかはましだろ」 「んな……!!」 突然頬を突かれ、堪らず噛みつきそうになる。こいつ、確かにリューグの身体能力と比べたら俺も雑魚の部類なのだけど、こうして堂々と言われるとムカつく。そして火威もホッとしてんじゃねえ。 「悪かったな、足手まといで」 「そこまで言ってねーだろ。お姫様はお荷物くらいがちょうどいいしな」 「お、おひ……」 「あ、よ、曜君、僕はそんな風に思ってないからね?だ、だってリューグ君と比べたら大抵の連中は雑魚だよ、だからそんなに傷つかないで……!ね?」 「ひ、火威……」 全然フォローされてる気にならないし、寧ろ得意げになってるリューグにむっとしそうになるが、確かにこいつにはなんだかんだ助けてもらってるので何も言えない。 少しは何か役に立てればと思うが、そう考えるとリューグの餌になるのがやはり一番いいのだろう。自分で言ってて悲しくなる。 「ま、んなことはどーでもいいんだよ。火威、どうせここにいたってまともに飯食えてねえだろうしつまんないだろ。おまけにこいつは和光のジジイのお気に入りらしいからな、こいつを助けるって名目なら脱獄しようがお咎めはしだ」 「う、で、でも……」 「お前もそろそろ火遊びしたくて堪んねえだろ、脱獄したら俺がたっぷりいい火薬用意しといてやるよ」 悪い顔したリューグに囁かれる火威。「ええと、でも、その」と吃る火威だがその目はリューグの甘い誘惑に釣られ、ぐるぐる回りだす。 ごくりとその喉仏が上下したとき。 「す、少し……だけなら……」 「なんだって?聞こえねえな」 「き、君と……曜君が脱獄する手伝いだけなら、するよ……僕……」 ……どうやらリューグの甘言に負けたらしい。 火威はぽそぽそと口にした。罪悪感があるのだろう、今にも消え入りそうな声だが、リューグは上機嫌に「当たり前だ」と火威の肩を叩いた。 そして、俺に向き直る。 「んじゃ、善は急げってやつだな。あの鳥のオッサン、連れ戻しに行くか」 「と、鳥のオッサン……?」 「まあお前は黙って付いてこりゃいいんだよ。ほら、曜、行くぞ」 「え、ええ?!説明なしなの?!」 ……とまあ、強引でおまけにマイペースなリューグが先頭に立ち、俺達は来た道を引き返して再び獄吏ルートに潜り込むことになった。 の、だが。 道中、無人の通路を歩いていると違和感を覚えた。 先程まで明るかったはずの通路は何故だかどんどん薄暗くなっている。影が濃くなる通路の中、なんだか胸騒ぎをして来た道を振り返ったときだ。 照明代わりの蝋燭の火が飛んだ。 え、と目を疑ったと同時に、まるで蛍かなにかのように小さな火の玉は火威の周囲を漂い、そして、吸い込まれるようにして消える。唖然としてると、火威と目が合う。反らすこともできず、俺は、思い切って尋ねることにした。 「っ、火威……今、火が……」 「え、あ、あぁ……えーと、これはその……なんていうか……君で言うところの、食事だよ。ごっ、ごめんね、驚かせてしまったよね……き、気持ち悪い……?」 「そういうわけじゃなくて……びっくりして」 「全然気持ち悪いとか思ってないから」と慌てて付け足せば、やはりどこか落ち着かない様子の火威は目をキョロキョロさせて、それから恥ずかしそうな顔して 「う、ご、ごめん」とまた謝った。怯えの色が濃くなる。 うう、火威と話すのは難しい。 「火威は火ィ食わねーとテンション上がんねーからな、チャージ満タンになったこいつは面白えからよく見とけよ」 そんな火威なんて気にしないリューグは、俺の横まできてそう囁きかけてくる。火威には聞こえないほどの声量。 ……面白いこと?引っかかったが、リューグの言うことだ。やっぱりろくなことではなさそうだと思った。 けど、火を食べるってすげえな。 火威は俺の目を気にしてか、食べるのをやめたがそれでも俺からしてみれば未知の存在には変わりない。 こういうの、失礼なんだろうけど……少なくとも俺はかっこいい、と思ったのだけど、あまり突っ込んで火威を怖がらせるのも嫌だったので敢えて触れないことにする。

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