76 / 126

12※

「っま、や、それ、擦り、つけないで……っ」 「そいないけずなこと言わんといてぇな」 「もっとボクとも仲良くしましょ」そう言うなり、能代は俺の項に舌を這わせる。 逃げたいのに、触れられる度に頭の中掻き回されるみたいに思考が途切れる。 項から耳の裏までねっとりと舐められれば、感じたこのことのないような感覚が背筋に走った。 それがなんだか気持ち悪くて、逃れようと身じろぎするが、びくともしない。 「ん、ぅ、や……降ろし……」 腰を浮かせようものならすぐに抱き寄せられ、能代の膝の上へと寄せられる。離れるどころかより一層強く抱き竦められ、チャイナ越し、お尻の谷間を確認するように腰を動かし始める背後の男にぎょっとする。 「っ、ちょ、ぁ、待っ、のし、ろ……さん……っ!」 「あかんあかん、そない動いたら……うっかり中に入ってまう、大人しくしときや」 そんなの無理に決まってる。 そう思うのに、スリットから入ってくる手にぎょっとする。下を脱がされそうになり、慌てて能代の手を離そうとするが、当たり前のようにキスをされると力が入らない。 というかドサクサに紛れて本当この人は……! 「今度キミを捕まえるときは手足も繋がんとあきまへんな」 「っ、ひ……っ」 「はぁ……やわこいわぁ。細すぎひんか心配しとったけど、やっぱ烏の兄やん受け入れたんなら問題あらへんな」 もみもみもみと無遠慮に鷲掴みされた挙げ句揉み扱かれる。屈辱である。泣きたいし、黒羽とのことをバレてるというのも嫌だったのに、否定の言葉が出てこない。 何を言っても余計墓穴掘りそうで怖かったのと、あと、この状況のせいもあるだろう。 下だけ脱がされ下半身丸出しという滑稽な格好の中、能代は必死でケツを庇おうとする俺の手を避けるのだ。 「の、しろさん、も、やめて……」 「曜クン、あきまへんわ。……ここでは、嫌よ嫌よも好きの内なんやから」 無茶苦茶な! 弱肉強食という言葉が過る。 弱者は食われるしかないのか歯痒くて、どうにかして逃げれないかと辺りを見渡そうとするが。 「――っ、ぅ、ひ」 細く長い指に、大きく肛門を広げられる。ぎょっとして、振り返ろうとするが、それよりも先に躊躇なくねじ込まれる指に堪らず背筋が伸びた。 「っ、ゃ、待って、何……っ!」 「おお、曜クンのナカは綺麗な桜色やありまへんの。新鮮で健康的な証拠や、結構結構」 「っ、見、るなぁ……っ!」 「何てこと言いはるんや。見るよ、ボクのもんやもん」 瞬間、腰を掴まれる。へ、と振り返ったとき、狐男が人のケツに顔を寄せるのが見え青褪めた次の瞬間、ぬるりとした濡れた舌に思いっきりケツを舐められ、声にならない、悲鳴が漏れた。 「待っ、ぁ、うそ、汚っ、だめ……能代さ……っ」 指で中を広げられ、体の中の色までじろじろ見られて、おまけに舐められる。 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。全身の毛穴が開き、ぶわりと汗が吹き出した。恥ずかしいなんてものではない、それ以上に躊躇なく奥へと入り込んでくる舌に内壁を隈なく舐め回され、脳味噌が茹で上がりそうだった。 「っ、ぁ……う、そ……うそ……ッ」 聞きたくもない音が腹の中で響く。 お尻の下にあるこの固い感触が能代の顔だと思っただけで怖くて下を見れなかった。いち早く能代から逃げたいのに、腰をがっつり掴まれた挙げ句長くざらついた舌で中を擦られるだけで下腹部から力が抜けてしまうのだ。 「っ、はぁ……曜クンの肉、最ッ高やわ……ボクの舌離さんようきゅって締め付けてんの、可愛すぎひん?」 頼むからもう何も言わないでくれ。こんな状況でそんなところを褒められたって惨めさが勝るだけだ。 泣きたい気持ちとは裏腹に煮え滾るように熱を帯び出す己の体がただ憎くて仕方なかった。 「っ、ぅ、や……っ、め、……ぇ……ッ」 気持ち悪い。気持ち悪いし、嫌悪感しかないのに。 内壁を舐る濡れた舌の感触に犯される。下腹部から力が抜けていくほど能代の顔が近付くのだ。それが嫌で、必死に能代の頭を掴んで引き剥がそうとするが、逆効果だった。 「っ、ぅひィ……ッ!」 こそばゆい、とかそんな次元ではない。 文字通り味見されているようで嫌で髪を引っ張るが、この男全く動じないのだ。それどころか。 するりと伸びてきた手は腿を掴み強引に持ち上げられる。片足立ちでバランスなど取れるわけなく、咄嗟に能代の頭にしがみついたとき、奥まで差し込まれていた舌を一気に引き抜かれる。 「ぁ……ひ……ッ!」 異物感が失せ、ホッとするのも束の間。 撫でられていた腿にキスを落とし、濡れ窄む人の肛門を撫でる能代にぎょっとした。 「は、なし……っ」 「……分かります?ここ、撫でただけやのにボクの指に反応してはんの……ほんまかわええわ」 「っ、や、めろ……ッ」 「そない言葉遣いあきまへんて、せっかく可愛い声してんのやからもっと愛らしく鳴きなはれや」 穿り返された肛門から、流し込まれた唾液が溢れる感触を覚えたが能代は躊躇なくそれを指で絡め、更に中へと塗り込む。その音に、感触に、堪らず身悶えたとき。 そのまま足を引っ張られベッドの上へと倒された。 うつ伏せ、能代に背中を向けるような形で倒れ込んでしまい、しまった、と青褪めるも遅い。 剥き出しになったケツを掴まれ、血の気が引いた。 「っ、い、や……め……っ」 「往生際悪いわ、曜クン。キミも男児なら腹ァ括らな」 「……でも、ボクも鬼やあらへんし。そないいいはんなら仕方ありまへんわ」そう、背後で人のケツを撫でていた能代は溜息混じりそんなことを言い出す。 まさか、本当にやめてくれるのか。 思わず背後を振り返ろうとしたとき、能代の手に腿を掴まれ、思いっきり閉じられる。 その行動の意図が読めず、クエスチョンマークを浮かべながら自分の下半身を見下ろした瞬間。 「っひ」 ずにゅ、とか、ずりゅ、とかそんな感じの音とともに思いっきり腿の隙間に何かを捩じ込まれる。 考えたくなかった。考えたくないが、この、とてもじゃないが硬く肉質感溢れるこれはまさか。 腿と下半身、そこを思いっきり擦られ、恐る恐る視線をおろした俺は自分の下半身から生える明らかに俺のものではないそれに青褪めた。 「……キミがそないいうならコッチで我慢しますわ」 我慢というか、余計悪化してないか。 思わず突っ込みそうになるがそんなこと言ってる場合ではない。玉が擦られ、腿も、ケツも硬い肉棒で下からごりゅごりゅと摩擦されるとそれだけでもう嫌だった。それはもう最悪だ。それなのに、脇腹を掴まれ、背後から抱っこされるように腰を動かされれば逃げられない。 「っ、ぁ、う、やっ、ぁ……っ」 「……あかん曜クン、よう腿に力いれんとボクうっかりキミの可愛いお尻に挿れてまうかもあらへん」 「ぅ、え」 「っ、は……そうそう、じょうずじょうず」 能代の言葉に釣られて言われた通りにしてしまうが、普通に考えたらこの状況はおかしい。 逃げたいのに、逃げられない。普通に挿入されるよりも視覚的にも感覚的にもえげつない羞恥を覚え、せめて見ないようにするがより下腹部の感触が生々しくて。 ぬるぬるして、気持ち悪い。 のに、肛門を能代の性器が掠める度に下腹部にぎゅっと力が入ってしまって、それに気付いた俺は死ぬほど恥ずかしくなる。 「ぅ、ううぅ……っ」 「若い子は張りがあってええわ、……まあボク的にはもっと肉付きあった方が好みなんやけど」 「っ、う、ひ……っ」 全身を弄られ、次第に前のめりになる俺の体を抱き抱えた能代は「逃げたらあかんて」と子供を叱るような口調で囁き、そして、そのまま覆い被さるように腰を押し付けられる。 「ッ、ぅ、あ……ぁあ……ッ」 セックスとなんも変わらない。疑似挿入を楽しむよりも、この男はきっと人の反応を見て愉しんでるのだろう。こんな状況で腿を締めることなんてできるわけがない、開いた脚の下、能代は勃起した性器に引っ張られる玉に先っぽを擦り付け、そして。 「――――ッ!」 一瞬、声が出なかった。 腹を突き破るような衝撃に目の前が真っ白になり、弓ぞりになった体を能代にきつく抱き竦められる。 恐る恐る自分の下半身を見た。皮膚の下、明らかに感じる太く長いその異物感に全身が凍る。 「……ッすまへんなぁ……曜クン、キミの股気持ちよすぎてうっかり滑って挿ってもうたわ」 「ぅ、抜っ、ィ」 「ああ、待っといてや、すぐ抜くわ」 「ッ、ひ、ィ゛」 そう言って、能代は抜く素振りを見せ、更に奥を抉る。 明らかに当たっては行けない場所になにかが当たる感触がして、膨れる腹に、恐怖に血の気が引く。 それ以上に、恐ろしいほどの熱と快感に全身が溶けそうになるのだ。 「あかん……キミが離してくれへんから抜けへんわ……っ」 「う……そ……ぉ……っ」 「うそやあらへんて、ほら……っなぁ、わかる?曜クンの中、ボクのに絡みついてずっぽり咥えて離さへんの……っ」 「ッ、ぅ、あ……っ!」 おかしい。こんなの。絶対変だ。 そう思うのに、散々舐められた中は少し擦られるだけで頭の奥がびりびりして、何も考えられなくなる。手足が力が入らず、能代に抱き抱えられた体は快感に跳ねることしかできない。 「ぁ、あ……あぁ……っ」 嫌なのに、なのに、体と心が噛み合わない。 下から突かれる衝撃は次第に甘さを帯びていく。痛いはずなのに、痛みを感じない。それなのに、ただ気持ちいいっていう感覚に塗り潰される。おかしい。あんなものを体の中に突っ込まれてるはずなのに、すんなり受け入れられるはずがない。 そう思うのに、その思考すら甘い香の薫りに攫われ溶けていく。 「ぅ、あ……ぁ……っ」 開きっぱなしの口から溢れる声が遠くで響くようだった。 まるで自分の体ではないかのように、自制が利かない。 能代に中を性器で嬲られるだけでだらしなく開いた口から唾液が溢れ、シーツを汚す。それでも、拭うこともできなかった。 「そうそう、そうやっとる方が可愛いわ、キミ」 夢現のような霧がかった頭の中、能代の甘い声が鼓膜に染み付く。赤い照明に照らされた能代の顔が影かかり、薄れていくのだ。 自分が自分でなくなるような恐怖に、俺は、いつも側にいたあの人の名前を口にする。 「っぁ、……く、ろはさ……っ」 黒羽さん、黒羽さん、と口の中で繰り返す。 今、俺には現実と意識を繋ぎ止める術はそれしかなくて、うわ言のように繰り返せば、能代の動きが停まるのを感じた。 「……なんやの、そないあの烏がええんか」 拗ねたような声が聞こえたと思ったとき。 「……伊波様」 今はもう聞き慣れた、耳障りのいい低音。 その声が頭上、そして腹の奥から響く。 耳を疑った。 「ぅ、え」 聞き間違えるはずがない。 なんで、彼が。どうして。 「く、ろは、しゃ」 「……心配ならさずとも自分がお傍におります。怖がる必要はありません」 「っ、く、ろはさ、ん……っ」 会いたかった人がそこにいる。 一瞬幻覚を見てるのかと思った。だってそうだろう。 いるはずがない。 俺は、能代に捕まって、それで……。 でも、そこにいるのは間違いなく黒羽さんだ。 恐る恐る伸ばした手で頬に触れようとした瞬間。 「っ、ひ」 腹の中、内臓を押し潰されるような圧迫感に体が跳ねる。 そして、気付いた。筋肉に覆われた太い腕に抱き竦められ、深く挿入された下腹部に。 「ぁ、え、なんで、ぇ……っ」 「伊波様、貴方は夢を見てるんです」 「ここには私と貴方しかいません。……周りのことなど忘れて、存分に乱れてください」手のひらに重ねられる大きな手の熱も、腹の奥底から臓腑を押し上げる異物感も、全部、間違いなく現実だ。 なのに、まるで本当に夢を見てるような、明らかになにかがおかしいのにその正体に気付けなくなる。 常識も理性もなにもかもを朱に溶かされていくのだ。

ともだちにシェアしよう!