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ep.1【ご主人様と奴隷】

「あ、そういや俺転校するから」  それは、突然のことだった。  山の奥にある馬鹿みたいにでかい学園の中、その中でも一際でかい生徒会室にて。  御主人様もとい岩片凪沙は、その会長席に座り、膝の上に乗せた全裸の会長様の顎の下をいやらしく撫であげる。その感触に、会長様は以前の威厳のある姿はまるで見る影もなく戦慄くのだ。  こちらに目もくれないままそんなことを言い出す岩片に、俺はほとほと呆れた。 「……なにそれ、初耳なんだけど」 「まあ、言ってねーしな」  こいつ、とでかかった言葉を飲み込む。  岩片のこれは今に始まったことではない。下半身直結型思考のこの男の行動は突拍子もなく、自分勝手で、おまけに後から問い詰めたところでまるで聞く耳持たない。  そんなこいつの性格を身を持って知ってる俺は、怒る気にもなれなかった。  岩片に目を向ける。  量の多いもっさりとした無造作な黒髪に、分厚いレンズの大きな瓶底眼鏡という珍妙な格好をした岩片は、膝の上から逃げようとする会長の細い腰を掴み、より密着させ、奥深くまで挿入した。肉が潰れるような音ともに、男にしては高い声が漏れる。 「ッあ、や、やだ…ッ」 「やだじゃねえだろ? ……そこは『もっとしてください』って教えたばっかだろうが、ほら、リピートアフタミー」 「っ、も、……っ、もっと……ぉ……」 「おーよしよし、よく出来たなぁ」 「ご褒美に中で出してやる」と、俺の問い掛けを無視して会長を犯すのに夢中になっている岩片に内心舌打ちをしながら俺は「おい」と声を上げた。 「なに、転校って。お前来たばっかじゃん」 「ん、まあね。家庭の事情だな、家庭の事情」 「どこに行くんだよ」 「ド田舎にある男子高、ここみたいに全寮制だってよ」  ここは、都心部に近い全寮制男子校だ。  分厚い柵に囲われ、どこか閉塞的なこの学園は学生寮から通う生徒が大半で、それは俺も同じだった。  この学園は、地元でも有数の金持ち校として有名だ。そのお陰で保護者の方々からの援助により無駄に設備は整っていたのだが、田舎となるとどうなのだろうか。こんな贅沢空間で慣れきっているこいつは大丈夫なのだろうか、と余計な心配をしてしまう。 「お前がいなくなるんなら、送別会でも開かねえとな」 「いらねえよ、そんなの。どうせなら乱交パーティーでもやってくれ」  相変わずこの言い草だ。  どこを見てるのか分からない分厚いレンズ越し、確かに岩片はこちらを見て、笑った。 「んでさ、お前もこいよ」  ビクビクと腰を痙攣させ射精する会長様。それを手のひらで受け止め、岩片は「いっぱい出たじゃねえか」と会長様のお腹を優しく撫でる。  ……一瞬誰に言ってるのかわからなかったが、確かに悪趣味な瓶底眼鏡はこちらを向いていた。 「…………俺?」 「お前しかいねーだろ、ハジメ君」 「どこに」 「転校先」 「……いきなりすぎじゃね?」  確かに突拍子もなく、とんでもない思いつきばかりをする男だと思っていたが、ここまでとは。  呆れ果てる俺に、「今更だろ?」と岩片は唇で弧を描く。厭な笑い方だ。  確かに、今更ではある。岩片と出会ってから今までのことを思い返せば、納得せざるを得なかった。  いつだってこいつは俺のリードを掴み、命じてくる。そして、俺はそれに甘んじていた。利害は一致していた。だから、俺は岩片に従っていたのだが。 「……んなこと言われてもな」 「ハジメ。言っとくけどこれ、命令だから」  渋る俺に、岩片は思い出したように口をする。  命令。いい響きだ。俺に考える暇すら与えるつもりないのだ、この男は。 「仕方ねえな」息を吐く、渋々ついていってやる体のつもりだったが、これからのことを考えると胸が躍る。こいつに振り回されるのは疲弊を伴うが、それ以上に刺激がある。今回の横暴ですら、許せてしまうのだから手遅れだろう。 「岩片凪沙親衛隊長として、どこまでもお供してやる」  宣言する俺に、岩片は、ハッと喉を鳴らして笑った。皮肉気な笑みを携えて。 「やっぱお前が言うと決まんねえな」 「だまれフルチン」  そんな経緯もあり、宣言通り俺の華やかな学園生活は破天荒な御主人様の突然の一言で幕を閉じることになった。

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