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1.その生徒、問題児につき

―――その生徒は問題児だった。 ピアスの穴は片耳3個ずつ。唇にも開けてたとか。 茶髪に軽く当てたパーマを天然だと言い張り、制服は着崩すものらしい。 遅刻、無断欠席は日常茶飯事。よしんば授業に出ても起きていることが珍しいくらい。 それが橘 陸斗(たちばな りくと)である。 「……先生。オレ、次の体育欠席するよ」 気だるげな声で俺に言う。 職員室での注目がいっぺんに集まる。 「へぇ。なんで」 俺は面倒な気持ちを押し隠して質問する。 これでも一応教師なものでな。しかも感情を表情に出さない事には定評あるんだ。 「だってさぁ。オレ『ここ』病気なんだよ。余命1ヶ月……分かる?」 「ふーん、初耳だな」 嘘ならもう少しマシな事言いやがれってんだ。『ここ』ってなんだ。心臓か。 胸に当てた手や顔色を見るが血色は良さそうだが。 ……ふざけやがって。仮にも担任だぜ。 俺は内心舌打ちする。冗談のつもりだとしても面白くも何ともない。 しかも。 「それ。俺に言うんじゃなくて、飯島先生に言えよ」 俺、国語の教師な。 体育は飯島 藍子(いいじま あいこ)、すぐに向こうの席でこっちガン見してる女性教師だ。 「ヤダ」 「ヤダってなぁ」 飄々とした顔で笑う、腹の底の見えないガキだ。 「担任でしょ。茶久(さく)先生」 いかにも。茶久 優希(さく ゆうき)は俺の名前だ。 ……こいつ、ろくに学校来てないくせに担任である俺の名前覚えてたんだな。 「だってさ。先生……飯島先生とデキてるでしょ?」 「は、はぁぁっ!?」 突然何言い出すんだ、このクソガキ! 慌てて周り見渡すが声の溢れる職員室。彼の言葉は思ったより聞こえていなかったようだ。 「あはは、すげぇ焦ってんじゃん」 「う、うるさい! ……教師を揶揄うんじゃない」 声を潜めて叱りつければ、彼は悪びれた顔もせずに肩を竦める。 「ま、飯島先生って人妻だもんな。教師が不倫しちゃダメだよなァ」 「こ、このっ……」 「証拠、後で見せてあげよっか?」 ……証拠、だと!? 身体の奥がカッと熱くなり、奥歯を噛み締める。 「放課後、生徒指導室で」 橘は目元に浮かべた笑みを深め言葉を残す。 そして浅く会釈して職員室を出ていった。その礼儀正しさに、数人の教師がザワついている。 「……茶久先生、どうしました?」 飯島 藍子が薄っぺらい、媚びた笑みで近づき耳打ちするように訊ねた。 俺はようやく一言だけ絞り出す。 「た、橘が次の体育の授業欠席したい、と……」 そしてこっそり溜息をついた。

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